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世界の終わりに

 拝啓、役割放棄した勇者様と司教様、お元気でしょうか。あれからどれだけの時間が過ぎたのか、俺には皆目検討付きません。


 クソコーティングされたまま洞窟もろとも爆破されて埋まってから、脱出のために何億回、いや、何兆回念力ぶっぱしたのか……。本当に少しずつ、念力1発あたりでおそらく0.001ミリにも満たない進捗具合でで掘り進んでいます。


 そんな俺の現在のステータスはこんなもん。




------------------------------


埋没した金のサドル


分類:鈍器 置物


攻撃:D


埋没した黄金のサドル。何を模して作られたのか謎に包まれている。考古学的価値が有るようだ。


売却価格:3億ベリル


スキル:スキル:心眼(soul) 念力(soul) 超瞑想 祈れ


MP:1/1


超瞑想

悟りを開き、真理を得、無の境地へとたどり着いた仙人だけが持ち得るレアスキル。

常にMPが回復し続ける。


-----------------------------


 大瞑想がいつの間にやら超瞑想になっていた。常時MP回復によって、瞑想スイッチのオンオフが不要になった。


 考古学的価値とかいう説明文の一節。どうやら、10年100年どころじゃない時間が流れたらしい。


 唯々毎日念力をぶっパして、前へと進む。その繰り返しだ。昨日も一昨日も、その前の、あすもあさっても、これから先何年も先も、続くのだろう。


 ……そういえば、俺は何のためにこんなことをしていたのだったか。外に出たい以外にも、なにか理由があったはずだ。あったはず……なのに、それがなんだったのか、思い出せない。


 最近そんな感じだ。前世含めて、埋まる前の出来事を思い出せなくなってきている。




 まあ、いいや。




 そんな事を考えるくらいなら、1発でも多く念力砲を撃って前に進もう。


 進むんだ。


 前に、前に……。


 この暗闇から、抜け出すんだ。











 掘り始めてどれだけの時間が経ったのだろう。何十年?何百年?それとも何千年?いや、まさか何万年?一向に光は射さない。


 時折思う。本当に外へ向かっているのだろうかと。もしかすれば、前に進んでいるつもりは実は下へ掘り進んでいるのではないか。今の僕の上下感覚は、既に狂っていしまっているのではないか。


 ……狂っている、か。狂えたらどれだけ楽だろう。何も考える必要はないのだから。けど、僕は狂えなかった。


 毎日毎日、たった一人で、誰に声をかけられることもなく、誰に語りかける機会もなく。


 ただただ、掘り進む。


 狂気に支配されないのは、僕が無機物だからなのだろうか?それとも、僕の精神が特別だから?


 疑問に思っても、答えなんて出ない。思考に行き詰った時、先に進むために必要なのは自分以外の存在だ。それは考え方であったり、風景であったり、命という存在そのものであったり様々だろう。


 僕以外に存在せず、言葉を交わす手段も相手もいない。だから答えは出るはずがない。思考のどん詰まりなのだ。


 いや、時折小さなミミズと衝突するが、彼ら?彼女ら?は一様に黙して語らず。いや、語れず。すれ違うだけの間柄だ。最近は、彼らと衝突することもない。


 ……今の僕は、ミミズのようなものなのだろう。彼らもまた、僕のように考えるのだろうか?


 ………まさかいつの間にかミミズになっていたりとか?




------------------------------


埋没した金のサドル


分類:鈍器 置物


攻撃:D


埋没した黄金のサドル。


スキル:スキル:心眼(soul) 念力(soul) 超瞑想 祈れ


MP:1/1


-----------------------------




 そんなことはなかった。


 あ、売却価格が消えてる。


 ……つまり、金銭的価値が消滅したっていうことだ。貴金属そのものに価値がなくなったか、あるいは……物の価値を定める人類がいなくなったか。


 どちらかはわからないけれど、地上でなにか大きな動きがあったのは間違いないと思う。そういえばこの間、ひどく揺れた気がした。もしかすれば、人類は既に絶滅したのかもしれない。











 無心で掘り続ける。掘る、ただそれだけの毎日。長い間、気の遠くなるような時間、同じことをし続けてきた。


 太陽の光も、前世の記憶にある風の匂いも、夏の溶けるような暑さも、冬の凍りつくような寒さも、殆どを忘れた頃、そんな毎日が終わりを迎えた。


 ポロリと、目の前が小さく崩れ、僅かに光が差し込んだ。


 ああ、外だ……一体いつ以来だろう……。




 僕が見たその風景は……何もない荒野だった。




 空は雲に覆われて、太陽の光はろくに届ず薄暗い。草木も川もなにもない、本当に何もない世界だった。


 僕が最後に見た外の景色は、草木が茂る森の中だった。それだけは克明に覚えている。あの森をリトルラットマンに抱えられて、彼らの住処まで運ばれたんだ。その当時の面影は全くない。一体どれだけの時間が経ったのだろう。


 …………久しぶりに、自分のステータスを見てみようか。




------------------------------


汚染された金のサドル


分類:鈍器 置物


攻撃:D


有害物質により汚染された黄金のサドル。もはやその価値を理解できるものはいない。除染不可能。


スキル:スキル:心眼(soul) 念力(soul) 超瞑想 祈れ


MP:1/1


-----------------------------



 僕は汚染されているらしい。どうやらこの大気中には、放射能のような汚染物質が混ざっているようだ。確かに、心なしか濁っているように見える。そして取り除くことは不可能……。


 試しにその辺の石ころを見てみる。




----------------------------


汚染された小石


分類:自然物


有害物質により汚染された小石。除染不可能。


---------------------------




 除染不可能、つまり、有害物質を除去する技術がない。いや、除去できる文明を有する知的生命体が既にいないんだ。


 ……そうだ、遠い昔に誰かから聞いたことがある。


『滅亡思想の魔王が誕生して、このままいくと全世界更地になってしまう』


 そしてまた、思い出す。役目を放棄して駆け落ちした、ひと組の男女を。


 名前は……なんだったか、もう思い出せない。そっか…………これが、その結果か。


 あのふたりは、こうなることを理解した上で放棄したのだろうか?露ほども思わずに放棄したのだろうか?それとも、自分たちがやらなくても代わりはいるとでも思ったのだろうか?


 考えても、確かな答えには行き着かない。目の前の現実が変わるわけでもない。


 僕は彼ではない、彼女でもない。僕は僕なのだから、どう考えたところで、僕の主観が大なり小なり混じった答えにしかならない。


 それに、この世界を前にして、僕が考えたところで無意味だ。今の世界に対して、僕は無力だ。いや、そもそも僕自身が根本的に無力だ。


 ……進もう。僕にはそれしかできないのだから。











 僕が前に進むのをやめてどれだけの時間が過ぎただろう?眩しく輝いていた僕の体には、砂埃が積もっている。太陽の光も、露ほども降り注がない。四六時中続く、止まない地震。大地は割れて崩壊し、熱いマグマが溢れ出す。


 この世界は、もう終わりだ。僕が地上に出てから、一度も生き物に出会っていない。耳を澄ませても、土の中のミミズすら、掘り進む音を拾えない。この世界に、生き物はいない。僕が最後みたいだ。


 ……別段、この世界に思い入れがあるわけでもない。ほとんどが地面の中だったから、この世界のことは全然知らない。


 なのにどうして、僕は悲しいのだろう?


 何が僕を悲しくさせるのだろう?




 …………ああ、そうだ。あの人が愛した、護ろうとした世界が消えてしまうからだ。




 あの人って誰だ?なんて言ったっけ……もう少しで……思い出せそうなんだけど。




 ぐらりと地面が揺れて、間下に亀裂が走り、大地が裂けた。


 僕は吸い込まれるように裂け目に落ちていく。


 裂け目の底には、赤く輝く溶岩の海。


 ここで、終わりだ……。




……そうだ、思い出した。僕は、自分を終わらせるためにここまで進んできたんだ。そしてあの人の名前は……ラトゥイラ……。




 溶岩の海に落ちるその瞬間、僕は彼女の姿を幻視した。彼女は泣いていた。でも、笑っていた。どうして?




 そう疑問に思った瞬間、僕の意識は、ここで途切れた……。


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