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10/12

俺、クソまみれの上埋没

 毎朝恒例の拝みが終わった頃、慌てた様子で一匹のラットマンが入ってきた。


「ギチュ!ギチュチュチュ!!」


「ギジッ!?」


「ギッ!!ガギィ!?」


 その場にいたラットマンが混乱し始め、異様な空気が漂う。これは恐怖、怯えだ。外から来た個体が持ち込んだ怯えが、仲間内に一瞬で伝染した。察するに、敵襲か。


「ギチュッッ!!!ギチュウウウウッ!!!」


 ラットリーダーの一喝で混乱が一瞬にして収まった。すごいな、これが統率者。場の空気が一瞬で引きしまった。


「ギジュ!!ギチュッチュ!!ギチュッチュリー!!」


「「「「ギッ!!!」」」


 リーダーが俺を祭壇から持ち上げてどかし、抱えると、その祭壇を足場にし、ラットマンが軽い身のこなしで次々と朝日が溢れる天井の穴から出て行く。軍隊じみた一糸乱れぬ統率された迷いのない動きだ。


 やっべぇ、こいつらかっけぇ。


 あ……そうか!この狭い洞窟の中だと、ラットマンが持つ機動力が生かされないわけか。


 外の森ならば身を隠す障害物が豊富にあるし、木を盾に立ち回ることもできる。遮蔽物がないここよりも戦いを有利に運べるわけだ。


 なるほどなー……いやまて、俺はどうなる?


 俺結構な重さなんだが、どうするつもりなんだ?まさかリーダーは俺を抱えたままドンパチしようってんじゃ?


 『きさまら相手にはこの程度、ハンデにもならん』とか?


 と、ラットリーダはおもむろに俺を広間の隅っこに起き、俺に背中を見せた。まあ、そりゃそうだよな。両腕塞がるし機動力落ちるしでデメリットしかない。


 このまま立ち去るのかと思ったら、こいつ、俺の真上でしゃがみよった。


 どアップで映るラットリーダーの汚い肛門。


 嫌な予感しかしねぇぇぇぇえええええ!!!


 あ、やばい、肛門が膨らんだ、やばい、やばいやばいやばい予感が当たる!!


 やめろ!!やめろだすな出すな!!黄金に黄金プレイとか洒落にならねーからマジでやめろおおお!!!







 あっ……。










 汚されたよ、僕……。


 前も後ろも上も下も右も左も見えない。全部汚されちゃったよ……温度感じないけどたぶんホッカホカだよ……もうおヨメにいけない……シクシク……。


 ウ○コで埋まって見えないし気配遮断スキル持ちだからわからないが、多分あいつはもうここにはいない。


 つまり、このクソガードはカモフラージュ。宝物を隠す最良にして最悪の手段だ。


 まさかクソの山に黄金が埋まっているとは誰も思わないだろう。触りたくもなければ近づきたくもない。つまりは調べるという行為そのものを拒絶させる結界なのだ、クソだけど。


 豚の白濁液の次はクソか……どうしてこうなった?ほんとにどうしてこうなった!!!


 しかしまずいことになった。この有様じゃあラットマンが全滅した場合に発見されそうにない。


 いかん、いかんですよ!?どげんかせんといかんですよ!!


 ……やるしか、ない。俺ができる唯一の足掻き、[念力]を。視界をびっちり塞ぐクソコーティングを念力で剥がす!!一部でも剥がれて黄金が露出すれば、チャンスは生まれる!!


 最初の用途がクソ剥がしなんて、誰が予想できただろうか?男子小学生(低学年)くらいしか予測できねーだろこんなの……。



 む……ラットマンの断末魔が微かに聞こえる。1匹や2匹の断末魔じゃあない。かなりの速度で殲滅されていっている。淘汰される運命にあるとは言え、二月生活を共にした間柄だ、クソ落としやがったけど。それでも、彼らの冥福を祈ろう。彼らの生活を見るのは興味深かったし、さみしさを感じることはなかった。ある意味では、恩人……いや、恩鼠か。


 彼らの断末魔と共に、人間の掛け声のようなものも聴こえてくる。敵は人間のようだ。


 尚更ぼやぼやしてられない、急がなければ千載一遇のチャンスを逃すことになる!!




 深呼吸……すぅ……はぁ……の、つもりだ。


 これより、念力ループを始める!!




ほぁぁぁぁ!!!




念力っ!!




プルンッ




 ………クソコーティングがプルンと僅かに震えただけだった。


 マジかよ、全然ダメじゃねーか!!


 ええい、だからと言ってやめるわけにはいかない!!ここでやめれば、糞の水分が飛んでガッチガチになって、呪いのクソ装備仕様黄金サドルになってしまう!!




大瞑想!!




 ……ふぅ。


 よし!!チャージ完了!!最大値もあったもんじゃないMPのおかげで一瞬で回復するぜ。




念力!!




ペチョ




次、大瞑想!!




………………よし!!




念力!!





………………









…………








……






 ぜぇ、ぜぇ、ぜぇぇ……もう何度念力を撃っただろうか?どれだけの時間が経過したのだろうか?今が昼なのか夜なのかすらもわからない。


 ただ一心不乱に余計なことを考えず、念力撃つマンになっていたわけだが……剥がれない。一向に剥がれない。重さを感じないからずり落ちているのかすらもわからない。進退不明の状況は精神的にクるものがある。


 流石にちょっと休憩……使いまくったことでMP増えてないかな……。




------------------------------


クソまみれの金のサドル


分類:鈍器 置物


攻撃:D


クソにまみれた汚い黄金のサドル。異臭がこびりついており、価値は同質量の金よりも低い。


売却価格:8000万ベリル


スキル:スキル:心眼(soul) 念力(soul) 大瞑想 祈れ


MP:0/1


-----------------------------




 価値下がってんじゃねーーーよ!!名前まで変わってんじゃねーーーよクソが!!!クソだよバカやろう!!なんで金属に匂いがこびりついてんだよ!!おかしいだろ!!


 だーーーーークソったれぇぇぇ!!!!!


 ……OK、落ち着こう。クソまみれで頭の中までクソになっちまってやがる。


 一旦、情報を集めよう。……聞き耳を立てるだけだけどな。


 ラットマンの群れが全滅したかどうか、少なくともそこだけははっきりさせたい。1匹でも生き残っていれば、俺を見つけ出してクソから救い出されるチャンスはある。だが、全滅の場合は…………。




コツッ コツッ コツッ コツッ




 お?足音だ、音の間隔からしてひとりじゃないな、多分二人だ。




「どうやら、ここが最奥のようですね」


「天井に穴があいてる……綺麗」


 男と女の声だ。あれ、どこかで聞いたような声が……あ!!


 あの時の優花さんの声と、イケメンのゼトの声か!!


「キャ!?なにあれ!?」


「ラットマンの排せつ物のようですね。あれ以外にも放置されているはずです。迂闊にその辺に触らないほうがいいでしょう。どんな病気を持っているかわかったものじゃありません」


 多分俺の方を見て行ったんだろうな。


 ……いよいよもってやばい。既にラットマンの断末魔は聞こえない。そしてここにいる二人。つまり全滅したってことだ。


 そして、彼らはよほどのことがない限り俺には、いや、俺を覆うクソには触ろうとしないだろう、衛生的に。


 くぉぉぉ!!!一部だ!!ごく一部、まいぼでぃーのちょっと一部だけでも露出すれば、あとは差し込む光が反射して中身に気づくはずだ!!






 ……そうだ、パワーを絞ればいいんだ。






 念力を漠然と、ただ前面に撃っていたからダメなんだ。一点突破、水の雫がコンクリに穴を開けるように、パワーを一点に絞るっ。




ふぉおおおおお!!!




秘技!!念力一番搾りっ!!!




プスン




 視界に僅かな穴があいた。


 お、おおお……ついに、光が……。


 小さな穴から見えた人物は確かに、優花さんとゼトだった。が、優香さんはブレザー姿ではなかった。


 ブラウス、スカート、リボンの上に、鉄の胸当て、籠手、すねあてをつけていた。右手には細身の剣、レイピアが握られており、腰にはその鞘が。そして長い黒髪を結ってポニーテールにしていた。フタ付き前とは目つきも違う。


 気が付けば俺は心眼を用いていた。




------------------------------


Name:球磨川 優花


Lv.35 


Class:フェンサー


攻撃:C 防御:C 速度:B 体力:B 魔力:B 技術:B 幸運:C


スキル:女神ラトゥイラの加護 


細剣術(急所突き 五月雨突き)


光魔法リペア


称号:異界からの来訪者 勇者の卵 努力家 


------------------------------


------------------------------


Name:ゼト=ペルニクルス


Lv.38/100


Class:ビショップ


攻撃:D 防御:C 速度:D 体力:C 魔力:A 技術:D 幸運:D


スキル:魅了耐性 


光魔法(リペアラス アンゼルス キュアリア サクリファイス)


称号:エリート 聖人 


-----------------------------




 なるほどな、この2ヶ月で優花さんは相当な努力をしたようだ。ステータスがまるで違う。


「これといって金銭的価値が有るものはないようですね」


「それじゃあ、あとは報告しておしまいですね」


 あ、やばい、立ち去られてしまう!!MPは!?クソッ、足りない!!


「……いえ、報告はしないでおきましょう」


「え?」


 え?……なんだか、妙な流れになってきたような?ゼトは一体何を考えているんだ?


 と、ゼトはおもむろにローブの下の法衣の端っこを破き始めた。


「優花さん、これは好機です。勇者の役割から逃れるための、絶好ともいえる」


 役割から逃れる?あーりまり……優花さん的には勇者はやりたくないわけか。まあ、元はただの女子高生だものなぁ。結果的に命を救われたとは言え、青春を謳歌している真っ最中にこんなところに飛ばされたんだからなぁ。で、ゼトはそれに賛同している……やっぱり嫌な予感しかしない!!!


「私たちはラットマンの巣穴の崩壊に巻き込まれて死んだ、ということにします。この切れ端を崩落した洞窟の入口の、適当な石の下にでも置けばいいでしょう。私が優花さんとともにラットマン討伐へ向かったのは、街では既に周知の事実となっています。掘り起こすだけで相当な時間と労力がかかりますし、仮に掘り起こされ、死体がなかったことが発覚したとしても、その間に遠く異国へ逃げることは十分に可能です」


 ほらな!!つまり俺諸共ここを埋めるつもりだよ!!!


「でも、そんなことをしたらゼトさんはもう!!」


「ええ、町に戻るわけには行かないですし、ビショップで有り続けることもできません。……ですが、それでも構いません」


「どうして!!」


「私が、あなたと共に居たいからです。それでは理由として不足ですか?」


「え、あ、わ、私なんか……と?」


 こんなところで愛の告白、いやさむしろプロポーズ!?マジですか!?


「神に仕える身でありながら、貴女に恋してしまったのです。貴女だけを守りたいと思ってしまったのです」


「あ、あうあうあうあうあう……」


 何これ?乙女ゲー?なんで俺糞まみれでこんな光景見せられてんの?


「あう、その、私も……初めて会った時から……ゼトさんのことが……」


 あーーもーーーカップル成立おめでとう。祝福してやるからこれ以上濃厚なキスシーン見せつけるんじゃねーよ。そういうのはもっとましな場所でやれ。ここはネズミどもが毎朝ウホウホしていた現場だぞ?ロマンスのかけらもねーぞ?


 はぁ……つまるところ、勇者は勇者でなくなりました、と。ラトゥイラ様はどーするつもりなのかしら……。新たな勇者を召喚するのか、それとも滅びを待つのか……。




「では、いきましょう、優花さん、いえ、優花」


「はい、ゼト」


 そして二人は密着したまま奥の広間から出て行った。


 って……おいいいいいいい!!!お前ら待てや!!!このちょっとだけ見える黄金の輝きがわかんねーのか!!!見えねーのか!!?


 止まれよ!!振り向けよ!!そんでもってア○レちゃんみたいに棒でツンツンしろよ!!本気で振り向いてくださいお願いしますなんでもしまかぜ!!!




 ………また置いてかれた(´・ω・`)




 そしてでかい爆発音がしたとおもったら、また視界が真っ暗闇に閉ざされた……。

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