Ep.6 『忘却ディストラクション』(4) メルトソード
「で、二人は知り合いだったんですか?」
ルフィナは、不思議そうに首を傾げる。
それも、そうだろう。なんせ、メイド長と、さすらいの救世主が知り合いだったのだから。
現在、シズオは、ルフィナ達との食事を終え、回廊で話をしていた。そこからは、夜な夜な修行をする剣士たちの姿が見え、たまに激しい剣の音がすることもあった。
「まあ、そんな所です」
シズオは、紅葉の新鮮な敬語に驚く。
今まで、一度も紅葉の敬語を聞いたことがなかったのだ。
「ところで、しずお」
紅葉が、シズオに近づき、話をする。
「なんスか」
「あなた、三年前に渡した、私の剣。まだ持ってる?」
「もちろんです」
「剣・・・?クレハの剣ですか・・・?」
ルフィナはまた首を傾げる。
シズオは、剣士たちが修行をしている広い所まで走っていく。
「このくらいからですかね?」
「もうちょっと、離れなさい。ルフィナ様に火花一つでも飛んだら、首落とすわよ」
「あ、はい」
めいいっぱい、広く場所をとる。
剣士たちにも、場所を譲りうけてもらう。
ルフィナのいる回廊からは、かなり遠い所まで行き、声は張らないとよく聞こえないほどだった。
「いきますよー」
シズオは、いつもの軽々しい口調で、ルフィナに手を振る。
ルフィナもそれに気づき、手を少しだけ振った。紅葉に、にやつかれている事に気が付くと、すぐに止めた。
シズオは、今までとは違い、指パッチンの形はとらなかった。
地面に手のひらを向けるようなかたちで、態勢をとる。
そして、
―――地面がまるで、溶岩のように紅く光り始めた。
すると、その穴から、剣を少しずつ顔を出し始めた。
グリップの部分は黒く、墨のようで、鍔は橙色に輝いていた。そして、みんなが眼を奪われたのは、剣身の部分だった。
剣身は、不規則に禍々しい紅色に光り、一定の間隔で炎を散っていた。形状はロングソードで、形自体は、いたってシンプルだった。
「すごい熱気・・・」
地面に出来た穴から剣をすべて抜き取ると、とてつもない熱気に、広間は包まれた。
シズオは、紅く光る穴を閉じると、剣の光具合を眺める。
「あ、こうしなきゃいけなかったのか・・・」
シズオは、そのまま紅い剣を地面に突き刺した。
すると、火柱と共に、地面が割れる。幸い回廊までは、届かなかったが、割れた所からは、火が噴き出した。
「おさまれ~」
シズオは、何とか、熱気を抑え込もうとする。
しばらくすると、熱気は、ここまで伝わってこないほどになった。
「ふう、取り出せました」
剣を抜く、すると、割れていた地面は、元に再生した。
「ふう、じゃないわよ。抑え込むの下手すぎ」
「しょうが無いじゃないですか・・・」
「まあ、ありがとね」
紅葉は、シズオから剣を貰う。
紅葉の手に戻ると、剣は完全に熱気を失った。
メイド服にロングソード。似合わねえ。
「クレハ・・・それは・・・?」
「え?ああ、これは、現役時代に使っていた剣でございます」
今もバリバリの現役じゃね?
「剣・・・。その量の熱魔法が込められている剣という事は、あの幻の“熔解刃”を使っていますね」
「さすが、ルフィナ様。一目でわかるとは」
「誰だって分かりますよ。その量の魔力が込められていると、不思議な感じがします」
「元魔導剣士だったもので」
紅葉は、ルフィナに向けて、笑顔を返す。
紅葉は、三年前、観月組では、剣を使い、魔獣を撃退したりしていた。
その戦闘力は、おそらく、王国でトップを誇るレベルなのではないだろうか。
「まあ、それが、あなたをメイド長にした理由でもありますしね」
「この剣は、ルフィナ様がまた前線に行くと言い出した時に、代わりとして私が出る際に使用します」
紅葉の熔解刃を使った、通称メルトソードは、三年前、観月組最期の任務が終わると、シズオに託した。
託したといっても、一応預けただけだ。シズオの魔法で、メルトソードを一時的に預かることで、シズオが拷問でもされない限り、奪われることもない。
「それにして、シズオの魔法は、どうなっているんですか?」
「え?あ、あぁ・・・」
シズオは、一瞬驚いてから、試しに発動してみると言い、また広間に出た。
「俺の魔法は、物体や魔法、生命に直接干渉しないものだったら殆どの場合、“消滅”または“再生”させることのできるモノだ」
「生命に直接干渉しない・・・?」
「ああ、・・・えぇっとな。例えば、敵対する者の武器は奪うことができても、敵対する者の命や身体を奪うことはできないんだ」
「へえ・・・」
簡単に、説明される異次元の魔法に、少し戸惑うルフィナ。さすが、古代魔法といったところか、そんなチートな魔法は初めて見た。
「でも、消滅、再生させれる物体や魔法にも、制限があってな。あまりにも、大きすぎるものは消すことができない。それに、生命に直接干渉しない、と言っても、どうやら、記憶は消せるらしい」
「記憶だけ・・・?」
「ああ、しかもピンポイントにな」
「試したことがあるんですか?」
「ちょっと、昔の友達に・・・」
「・・・」
「ちゃんと、記憶も発生させてあげたから!!」
少しルフィナに冷たい眼をされたので、急いで誤解を解く。
「でも、大体分かりました」
「ほお、まあ、まだ応用とかがあるんだけどね」
「例えば?」
「いや、それは順にそって説明してこうよ」
正直言って、この魔法は、使い方が、自由なので、持ち主によって使用方法が変わる。
「んじゃ、そろそろ帰るわ・・・」
「ええ。また来てくださいね」
紅葉も若干、手を振ってくれる。
そして、シズオは光を放つ転生扉に飲み込まれ、姿を消した。
紅葉は、握っているメルトソードを眺める。
「シズオは、戦闘能力も高いのですか・・・?」
「えぇ、おそらく」
「はあ、やはり謎の多い青年です」
「そうですね・・・。この剣に埋め込まれている魔力量だってとてつもないのに、・・・そうそう、シズオも我々の剣団に招いてみてはどうですか?」
「ふふ、また、いつか招待してみましょう」
その頃、シズオは、アパートの玄関に転生していた。
今度は、ピンポイント過ぎず、転生できたのだ。だが、今、彼には別の問題がのしかかっていた。
「鍵どうしよ・・・」