Ep.2 『潜入メモリー』(2) 異世界
そこは、まるで俺たちの住んでいる世界とは、別のものだった。
「いわゆる・・・異世界ってやつ?」
和室のドアを開けると、眩しい光と共に別の世界へと、つながる。
「まあ、・・・異世界ってやつだな」
「びっくりしたよ。仕事っていうから、試しについて来たのに、こんな衝撃を味わうことになるなんて」
「帰って同級生の友達に『ねえねえ知ってる?異世界って、ホントにあるんだよ!』とか言うなよ」
「何で?」
「そりゃ『何言ってんの、コイツ』って思われるからだろ」
俺らは、いわゆる、異世界という所に居た。
俺は、今回で二度目なのだが、歩美ちゃんは初めてだろう。きっと、現状をあまり理解できていないはずだ。
「言った事、あるの?」
「残念だが、俺には、それを言う友達さえいない」
「だろうね」
「おい、今何つった」
そして俺らは、この異世界で行う“仕事”について、栄吉さんに聞くところだった。
「あの、建物が見える?」
栄吉さんは、異世界側の家の前、つまり、異世界と俺らのいる世界をつなぐ、いわゆるゲートという所で机を並べ、話を始める。
ここは、草原の山のてっぺんで、その中心に、家が建っている感じだ。家といっても、実際は、ドアからしか、入ることができず、入ったら、俺らのもと居た世界に戻ってしまう。つまり、ハリボテの家。
「あれ・・・って、魔法研究棟でしたっけ?」
ここは、少し高い所にあるので、イメージはアルプス山脈の草原がちょうどいいだろう。少し、眼を凝らすだけで、沢山の建物が建っているのが見える。赤い屋根のものもあれば、茶色い屋根のものもある。
その少し奥に、いかにも場違いな建物があった。それが、エクエス魔法研究棟。壁は、おそらく俺らの居た世界では、存在しない物質で作られているのだろう。まるで黒曜石のような黒い光沢を放っており、数秒に一度だけ、全体が赤や青、黄色などに光る。
「そう、今回の僕らの任務は、その施設から、ある重要な書類を持ち出すことだよ」
「犯罪ですね」
「そうだね~」
「まあ、この世界の法律がどうなっているかは、知りませんけど」
書類を持ち出す、ということは、きっと『危ない研究をしてた(人体実験とか)』とか、そういう話のパティーンだろう。
「残念だけど、エクエス魔法研究棟を告発するわけではないよ」
「なんだ?心が読めるのか?」
「ただ、この先数年後、必ず必要になってくる事なんだ」
「へえ・・・」
若干シカトされた事に怒りを覚えた。
「詳しい事は、書いてある通りだけど、何か、質問はあるかな?」
「ちょっと、栄吉」
「なんだい、紅葉ちゃん」
紅葉ちゃんって言っての!?えっ・・・結埼さんと栄吉さんって・・・。
「この、『観月組最後の任務』ってどういうこと?」
「書いてある通りさ」
「え・・・?」
声を漏らしたのは、結埼さんでは、なく、菖蒲だった。
「最後って、どういうことですか?」
「これが、終わったら、観月組は解散ってことさ」
「私達は、どうしたらいいんですか?」
「これから、好きに生きていくのも良し。このまま、この世界に残るのも良し。基本自由さ」
「なるほどね。だから、今回だけこんなに大がかりなのね」
結埼さんは、まるで他人事のように喋る。
相変わらず、この人は、この人だと思っていると、一つの疑問にぶつかった。
「ちょ、歩美ちゃんは、どうなるんですか?」
「まあ、君たちと同じ。自分の親の所に戻ってもいいよ?」
栄吉さんは、歩美ちゃんと同じ位置に視線をあわせ、言う。
「・・・いの」
「?」
「戻れないの!!」
歩美ちゃんの、劈くような声が聞こえる。
「私の親は両方とも死んじゃったの!!」
栄吉さんは、涙をポロポロ流す歩美ちゃんに困りながら、結埼さんの声にも、耳を傾ける。
「襟川歩美の親は、両方とも交通事故よ・・・」
「えっ・・・。ああ、そうなんだ。ごめんね」
「もう、栄吉のとこで預かっちゃいなさい」
「そうだね」
栄吉さんは、歩美ちゃんの頭をなでながら、語り掛ける。
「ごめんね。今回の作戦が終わったら、僕のとこにおいで」
栄吉さんの家は、かなり大き目の屋敷だった気がする。
歩美ちゃん一人預かるのは何の問題もないだろう。
「・・・分かった」
歩美ちゃんは、涙をふきながら、返事をする。
そうか、そんな過去があったとは。
栄吉さんは、気分をガラッと変え、真剣な顔になって、僕らの方を向く。
「任務開始は、三時間後。それまでに、荷物の準備を済ませておくように!!」
俺らは、その声を聴いた途端、席を立つ。
準備を開始するのだ。
今回が、『観月組最後の任務』で、俺と歩美ちゃんにとったら最初の任務でもある。
きっと、今まで、観月組では、危ないことを沢山してきたのだろう。でも今回は、それの比にならないレベルで危ない任務になるかもしれない。
それでも、俺らはやる。観月組の一員として。やってやるしかない。
これからに、つなげるために。
観月組それは、観月栄吉の率いる、都市エクエス最強の魔法部隊。
総勢たった五人の、最強達。
―――俺らは、三年後、再び顔を合わせることになる。
いきなり異世界系になった件。