表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

Ep:12 『忘却ディストラクション』(10) 死ぬ理由


「まったく…。シズオ君はド助平です」

「俺、初めて女性にド助平って言われたわ…」


 現在、シズオはルフィナに説教を食らってから、朝食をとっている。

 朝食は、以外にも紅葉が作り、シズオ、ルフィナ、紅葉、夜宵の四人で朝食をとっていた。


「それにしても、結界を力ずくでこじ開けるなんてねぇ…」

 

 紅葉は、自分の結界が一晩で破られたことに落ち込んでいる。

 それにしても、妖狐というのはそんなにも力があるのだろうか。


「妖狐ってそんなにすごいのか?」

「え?うーん…。まあ、種類にもよるけどね」


 すると、小声で紅葉がシズオに耳打ちしてくる。


「この妖狐は、金狐よ…。おそらく軽く、三百歳は超しているわ…」

「っさ、三百!?…大分年上ってことですか?」

「本来は、私達がこういう風に話すことさえ難しいはずよ…。この妖狐は例外だけど…」


 つまり、この妖狐は相当位の高い妖怪なのでは。

 それほどの妖怪なら、紅葉の結界の一部に穴を開けてもおかしくはない。

 すると、紅葉は、自分の座っている椅子を半分後ろに傾けながら、ため息をつく。


「まあ、別に私、結界専門の魔法使いじゃないから」


 何かと思えば、意地をはる紅葉。


「もう、そんなに怒らないでよ、紅葉さん。結界は妖魔系の物に張り替えておくからさ」

「つよ~く、しておいてくれよ」

「分かったよ、シズ」

「“シズ”って言うなよ。そんなあだ名を許可した覚えはない」

「まぁまぁ」


 相変わらず、夜宵は明るい。

 ただ、シズオの中では“シズ”というあだ名がどうも引っかかるのだった。


「それにしても、その妖怪は、またシズオ君のお知り合いですか…」



 ルフィナは“また”と言った。おそらく紅葉の事を指しているのだろう。どうやら、それが気に食わないらしく、頬をぷうっと膨らませている。


「知り合いって言っても、覚えてないんだけどな」

「――えっ、そうなんですか!?」


 そんなあからさまに喜んでいいのか。それでも一国のお姫様だろう…。


「そうらしいんだよ~」


 すると、夜宵が机にべたーと倒れこむ。


「シズオは、記憶がないからね」

 

 と、紅葉が続ける。


「コイツは、記憶のない唯一の感染者(アレゴリック)なのよ…。色々あって、心優しい私が回収しただけであって、もし他の連中に捕まってたら、本当の名前さえ分からなかったかもしれないわ」

「心優しいかは、置いといて、取りあえず結埼さんには感謝しています」


 一瞬、紅葉から殺気を感じる。


「…ってことは、俺が死ぬ前に、夜宵と出会っていた可能性もあるという事か…」


 今まで、観月組が解散してから、紅葉に再会するまでの三年間の記憶をたどっていたが、よくよく考えると、死ぬ前の記憶がないシズオには、もっと前に夜宵と出会っていたこともあり得るのだ。


「まぁ、私とシズオが出会ったのは、三年以上前だったけどね~」

「「「軽っ…」」」


 夜宵以外の三人全員が声を合わせてそう言った。


「さてっと…」


 紅葉が立ち上がる。

 食器の片づけをしてくれるのだろう。


「あ、手伝いますよ」


 シズオも立ち上がり、紅葉の後をついていく。

 皿を持っていくと、紅葉は、洗う準備をしていた。紅葉が皿を洗い、シズオが皿を拭くのだ。と、言っても、朝ごはんなのでさほど多くの食器は無い。すぐに作業は終わってしまった。


「はぁ…。それにしても狭い食堂ね…」

「そりゃあ、そうでしょう。…てかまず食堂って言い方がおかしいんですよ」


 王宮と、一般家庭のキッチンの広さを比較してはいけない。なぜなら、とてつもない差があるからだ。


「結埼さんって、シェフもしてるんですか?」

「まさか。姫様に晩飯を運んであげてるだけよ」

「晩飯って…。え、…じゃあ、朝食と昼食は?」

「他の人たちに任せてるわ…」

「なんで夕食だけ…」


 不思議な疑問が残るが、どうせ、いつもの「面倒くさいから」とか「夜は気が向くから」とか言うのだろう。これ以上質問しても無駄だ。

 しばらく沈黙が続いてから、最初に喋ったのは紅葉だった。


「おかしいのよねぇ…」

「え?何がですか?」

「あの夜宵って狐よ。シズオが死ぬ前に出会ってるんだったら、シズオが死ぬのを防げたはずよ」

「まあ、妖怪ですし…。それぐらいはできるでしょう…」

「じゃあ、なんでシズオを死なせたの?」


 シズオでは、そこまでたどりつけなかった。そうだ。どうして夜宵はシズオを死なせたのだろう。

 そこで、紅葉は片付いた食器をみて、ふうとため息をつき、後ろを振り返る。後ろを見ると、ルフィナと夜宵がトランプをしているのが見えた。


「答えは簡単よ…」

「えっ…?」

「……――死なせる必要があった。あなたをね」


 死なせる必要。

 一体どうしてそんな事が必要なのだろうか。考えれば考えるほど、頭の中がこんがらかってくる。


「まぁ、無理に今考えなくてもいいわ…。そのうち分かるでしょ。――あなたの死ぬ理由」

「…そうですね。難しい話はあと回しにしましょう」


 シズオもルフィナ達の方を見る。

 本当に楽しそうに、トランプをしている。


――今は、この日常を壊したくない。


 シズオの脳裏には、その言葉が焼き付いていた。

 いつ焼きついたモノかは分からない。そこで、夜宵と目が合う。


「へへっ」


 少し照れくさそうに、笑う夜宵を見て、シズオは「そうか」とうなずく。

 紅葉ははしゃぐ二人を見て笑う。シズオはそれにつられて笑ってしまう。



――今は、この日々が楽しいから。



 そんな彼女の声が、シズオの耳には残っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ