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プリンセス・プリンセス  作者: 心太
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第ゴ夜

一部〜空の見えない街〜

なだらかな坂道を登ると、そこに一際大きな岩をくり抜いた家が見えた。

鉄製の扉と、これまた鉄製の窓のようなものを取り付け、屋根に当たる頂上付近からまるで癖っ毛のように伸びる煙突からは、もうもうと煙が上がっている。

通り道で見た家々は赤土と枯れ草を混ぜた土壁造りで、また街長の家は完全なる木製だったのを思い出し、フレシは「なぜだろう」と疑問の声を上げた。


「ーーそれはなお嬢さん、この家に住むのが一際変人の小人族だからだよ」

「!?」


ーーと、それに答えたのは、いつの間にそばに寄って来ていたのか、痩せぎすの小妖精族の老人だった。

白髪と口髭を綺麗に揃えていて、服装は色落ちしているが清潔そうなローブ。顔の皺は数える程しかなくて若々しく見えるが、これは小妖精族が一定の年齢に達すると外見の変化が乏しくなるので通常通りである。

思わず悲鳴をあげそうになるも寸前で堪え、隣にいたのに今は後ろ側に回り込んで、自分を盾にしているメイドを手招きで呼び寄せながら(この時フレシはリリアナの給与の大幅カットを決意した)、フレシは小妖精族の老人に上流階級然な挨拶をした。


「初めまして、私はシュルツの特使として来た、ハインツェニーヴ家の代表フレシ・ド・ハインツェニーヴです。あなたが街長やインフィの言う弐爺にじい……さんですね? 初対面で不躾だとは思いますが、今日はお願いがあって参りましーー」

「インフィ、飛行魔術に失敗したな?」

「うぇ!? なんで分かるの弐爺!!」

「ワシほどの凄腕魔術師になると、インフィのまとうユグの気配で色々分かるものだ」


(って聞いてなーーい)


と心の中で突っ込みを入れるフレシであるが、顔にはきちんと笑みを貼り付けたまま(若干引きつってはいるが)なのは、さすがの一言である。


「あ、あの、弐爺さん?」

「おおかたの予想は付いているが、とりあえずは若造の書いた書面を見せてくれるかね?」


若造? と言われてすぐにはピンと来なかったが、街長に一筆書いてもらった書面の事かと思い、リリアナに言って手渡してもらった。

弐爺は片手に握っていた小さな杖を振って何処からか机と椅子を持ってきて、見た目の若々しさとは違い「どっこいしょ」と年寄りくさい声を出してそれに座る。


(……今、すごく自然に魔術を使ってたみたいだけど

あれって飛行魔術よね? 無詠唱でしかもユグの少ない人工物にとか、お父様でも出来るかどうか)


「に、弐爺さんはインフィが身に付けている個人装具オーダーメイドも作ったそうですね。個人装具オーダーメイドには元となる品物の質はもちろん、使用する魔動石まどうせきや触媒の知識、付与魔術も上級以上のものが必要と聞きます。シュルツにも我がハインツェニーヴ家お抱えの魔術師が居ますが、その者でも一人で個人装具オーダーメイドを作り上げる事は出来ません。素晴らしい腕をお持ちですのね」

「こまっしゃくれたお世辞を使わないでくれ、ワシのインフィが覚えたら教育上悪影響なのでな」

「……は?」

「さて、お嬢さんの事情は大体理解した。しかしーー〝来る〟のが早すぎる。まだアレの雛型ひながたすら無いというのに、いや、というよりもここでワシが鍛えるのも織り込み済みか?」


きっちり揃えられた口髭を撫りながら、弐爺は下を向いたまま独り言を呟く。普通のお爺ちゃんであれば「大丈夫?」と声をかけずにはいられないが、深い知識を讃えたその瞳には理性が輝いており、単純に思考の渦に没頭したのだと思う事ができた。

しかして側から見れば、恐いのだが。


「フーちゃんフーちゃん」

「インフィっ……あ、あれ大丈夫なの?」

「あのスイッチが入った後は大体物凄い無茶振りされるんだけど、まぁ、だいじょばないけどだいじょぶ!!」

「おかしいわね安心が出来ないわ私」


相変わらずのインフィに突っこみを入れる。

フレシはやれやれと思いつつも、何だか弐爺の自分に対する当たりが強いような気がしていた。

嫌われているというよりは、関係のない愚痴を聞かされているような微妙な気分の悪さを感じる。

初対面でさすがにそれはおかしいと思うのだが、何となく書面を見た時に目つきが変わった気がして、(街長まちおさはあの書面に何書いたのよ!)と思わずにはいられない。


「こうなると話しかけても無反応だから、壱爺いちじいに挨拶しとく?」

「そ、そうね。案内役の事も許可を貰わないといけないし、壱爺さんは家の中?」


そうだよーーとインフィが言った瞬間。


どががががんっっ!!!!


今まで聞いた事のない、連続した爆発音が辺りに鳴り響いた。

次いで真っ黒な煙が凄い勢いで煙突から吹き出してくる。


「な、なに!?」

「あちゃ〜、壱爺また失敗したのかな〜」


怯え慄くフレシと、気軽そうに呟くインフィ。共に見つめるのは家の中に繋がる鉄製の扉である。


「じゃ、そろそろ煙も晴れただろうから中に入ろっか?」

「……お嬢様、私はただのしがないメイド。家人とのご挨拶は主人たるお嬢様にお任せして私は周りに危険が無いか見回ってまいりますね、では」

「今一番危険なのは家の中だと思うけど!!?」


寸でのところでリリアナの腕を掴んだフレシは、無表情なのに嫌そうな顔をするという大変珍しいメイドの顔を見ながら、インフィに引っ張られて家の中へと入っていくのであった。


▲▲▲▲▲


〜誰得用語解説〜


「ユグ」

本来は生命の源などの意味はない。この小説だけでの意味合い。

北欧神話に出てくる架空の木、ユグドラシルが元ネタ。

以下ウィキより抜粋。

Yggdrasill という名前の原義がYgg's horse(恐るべき者の馬)でYgg はオーディンの馬を意味していると解釈されている。

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