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プリンセス・プリンセス  作者: 心太
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第ニジュウゴ夜

お待たせしました、第二部開始です。

といってもまだ本格的な更新にはお時間をいただきたいと思います。


二部〜収穫市場バザール

「ーー街や都の各地に拠点を置いた、巨大組織の運営ですか」

「そうだ。表向きは歌劇場や酒場にして、地下室に刻んだエノク語と魔道石を使って転移魔術を行使できるようにする」


小妖精族の住まう都シュルツにあるハインツェニーヴ家の執務室で、二人の小妖精族が話をしている。

片方は泰然自若たいぜんじじゃくとした瘦せぎすの男である。白髪と口髭は綺麗に整えてあるが、ローブは色落ちをしてよれよれの状態だ。

不機嫌そうに目を細めているが、これが男ーー弐爺にじいにとって普段の表情である。

対してもう一人は暗めの金の瞳で書類を睨みながら、同じ色合いの髪を手でいている。

目の下に大きな隈をこしらえているので弐爺より年寄りに見えるが、実は弐爺よりも圧倒的に若いーーハインツェニーヴ家の当主ケルファだ。


「……もしこの計画が本当に可能なら、あの子達の助けになるでしょうな。しかしこれだけの大規模な計画、人材や資金、各地の首尾はどのような状況なのですか?」

「ワシが十年以上かけた計画だ。既に人材は育てきっておるし資金も潤沢、各地の権力者との繋がりも出来上がっている。後はあの子達を引き込むだけまで整えている」

「なんと素晴らしいーーそれで、私に見せた理由はなんでしょう?」


報告だけで終わるはずがない。次に無理難題が飛んできても驚かないつもりのケルファだが、そんな態度を弐爺は一笑に付して出された紅茶を飲む。


「ワシが一人で進めてきた計画だが、〝例の計画〟も合わさって不確定要素が多すぎる。何が起こってもいいように、そうさな。共犯者を前から探していたというところか」

「例の計画の事はひとまず置いておくとして。となればあの子達をこの組織に引き入れる誰かが必要となりますが、信頼のある弐爺様が適任ではありませんか?」

「ワシとの関わり、というより血縁者や面識のある者との繋がりはこの組織には入れたくない。引き入れるのなら空の見えない街の者以外で、かつ信用に足る人物にでないとな」

「となれば、我が家のメイドをそちらに送りましょうか」

「それには及ばん。既に〝ある者達〟をインフィ達の近くに送っている」


ぴくり、とほんの少しだけ眉を動かし、しかして表情は柔和なまま「どのような人物で?」とケルファは問う。

自分の思惑を挟み込むなら息のかかった者を絡ませるのが常だが、それを弐爺は許そうとしなかった。

今回は殆どの準備を終えた報告でしかなく、また未だに例の計画に反感を抱くケルファを煽る意味合いもある。

なぜそこまで彼を煽り反骨心を滾らせるような真似をするのか……弐爺は一度でも逆らったものには容赦をしないと決めていた。例えフレシの親であろうともそれは変わらない。

例の計画ーー呪之武器のろいのぶきをハインツェニーヴ家のメイド長に運ばせるというものに、彼はまだ意を唱えている。

果たしてどこで意見が折れるか、はたまた代案を思い付いてくるか。まるで昔の自分を見ているようで、弐爺は密かにケルファの反抗を楽しみにしていた。

感情を殺して穏やかに取り繕う姿勢に僅かに好感を抱きながら、その送り込んだ者達の人となりを説明する。

それを聞いたケルファは驚きに目を見開く。


「そんな存在をよく知っていましたね……」

「ワシが築いた情報の網は世界中、どの種族にも繋がっている。昔人手が必要な時に見つけてな。説得するのに骨が折れたが何十年も付き合いのあるやつらだ。信頼もできる」

「その説得というものが力ずくな気がして仕方ありませんが……その人物達はいつ頃空の見えない街に着くのです?」

「そろそろ着いているはずだ。街はちょうど〝アレ〟の季節だからな。潜り込みやすくなっている」


アレという言葉に、メイド長アンリの淹れた紅茶を飲みながらケルファは思考を巡らせた。


(ああいったものには殆ど連れていった事がなかったからな……例え未来の選択が苦しいものであっても、どうかせめて今だけは、全力で楽しんでくれーー)


▲▲▲▲▲


収穫市場バザール?」

「そう! 年に二回しかない、一週間続くお祭りだよ!!」


地下鉱山を掘り進めるようにして作られた、地下に広がる空の見えない街ーーその端のほうに建てられた石造りの家の前で、二人の少女が談笑していた。

一人はウェーブしたピンク色の髪を編み込みのサイドテールにして、金の瞳を訝しげにもう一人へ向けている。

かたやもう一人は青みがかった黒髪を肩口で無造作に切り揃え、群青色の瞳を楽しそうに輝かせていた。

……なぜか二人とも真っ白なロングコートを羽織っていて、しかも切れ目が入っていたり焦げや汚れがあったりとお世辞にも綺麗な格好をしていない。


「ああ、ここはそういった娯楽みたいなの少なそうよね。だからインフィは朝から元気だったの」

「元気だったかな〜、いつもと同じだよ私は。フーちゃんはお祭りとかよく行ってたの?」


ころころと表情を変えながら群青色の瞳を輝かせる少女ーーインフィが聞くと、金の瞳を伏し目がちにしてピンク髪の少女ーーフレシが小さく息を吐く。


「……行ってたと思う?」

「あ……うんごめん!!」


この街にフレシが来て一ヶ月、その間に二人は色々な事を話した。小妖精族の都シュルツに住んでいたフレシの事、空の見えない街に住むインフィの事。

同世代の友達が居なかったり殆ど住んでいるところから外に出た事がないなど共通点の多い二人であるが、フレシはインフィほど活発に動き回ってはいなかった。

屋敷にある書斎で本を読み、中庭で魔術の研鑽けんさんを積む。専属メイドのリリアナに付き添われながら専門の講師の授業や運動、月一で招かれる付加細工品アクセサリー個人装具オーダーメイド、服飾関連の職人から必要なものを買うなど、屋敷から一切出なくても生活が出来てしまっていた。

当然、出歩く頻度は著しく低下する。


「今風で言うと引き篭もりだよね!!」

「喧嘩売ってるのあなた?」


ちょうどその時の話を思い出したインフィの発言に、にこにこと笑いながらも変換の魔術で生み出した杖を握り、一回り大きく作れるようになった赤い宝石ーー〝火〟の宝石魔術で生み出したそれを握り締めるフレシ。

インフィはまだ笑っているが、重心を片足に傾けいつでも走り出す準備と〝風〟の初級魔術を発動している。

どちらも詠唱破棄をこなすなど、自動人形ゴーレムとの模擬戦の時より実力が上がっているのだが……まだまだ十歳の子どもらしく感情そのままに行動してしまう節がある。

それは決して悪い事ではなく、むしろ年相応と言えなくもないのだがーー


「ほう、二人の街中での魔術行使は止めているはずだが?」

「にっ!!」

「じい、さん」


ーーこういった時に限ってだいたい見つかってしまうのも、子ども時代特有と言えるのかもしれない。


「それだけ元気が余っているのなら自動人形ゴーレムとの組手をもう一セット追加だーーそら走れ!!」

「「は、はいっ!!」」


弐爺の大声に押し出されるように走り出す二人。そんな二人を励ますのか笑っているのか分からない陽気な笛の音色が空の見えない街に響き渡る。

そうして街は、一週間に及ぶ収穫市場バザールの期間に突入するーー


▲▲▲▲▲

〜誰得用語解説〜


※今回は無し。

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