表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリンセス・プリンセス  作者: 心太
23/29

第ニジュウ夜

一部〜空の見えない街〜

「ぶくぶくぶくぶく……」


湯船に口まで浸かりあぶくを出しているフレシ。目は死んだ魚のように光彩がない。

十二時を示す鐘が鳴って少し経った頃、お昼休憩として設けられた時間にフレシ達は湯屋へとやって来ていた。

そんなフレシにインフィは後ろから水鉄砲を掛けるのだが無反応で、さすがに心配になって声をかける事にした。


「フーちゃん大丈夫〜?」

「ぶくぶくぶーーはっ!? あまりの過酷さに魂が抜けかけてたわ。私、もう無理かも」


いっそ清々しい笑顔でギブアップ宣言をするフレシに、同じように湯船に浸かっていた女性が近づいて来た。銀髪をアップにして、なぜか黒のフェイスベールは付けたままの番爺である。

見た目は女性型だが中身は龍種で、また名前も番爺なので扱いが非常に難しいのだが、本人曰く「龍種は完全体で生まれるので性概念はない」との事。

フレシは最初反論していたが、インフィとリリアナが自然に受け入れていたのと修行による極度の疲れもあり、人造人間ホムンクルスを操る番爺はとりあえず女性として考える事に決めた。面倒くさかったとも言える。

それより今は、この何とも言えない疲れのほうが問題であった。

番爺は近づくとフレシの顔をじっと見て、納得したように一つ頷く。

フェイスベールはなぜ湯船に浸かっているのに濡れないのだろうと他愛ない事を思うフレシ。番爺が次に何を言うか大体予想が付くゆえの現実逃避でもある。


「これなら今日はあと十セットは大丈夫そうですね。午後からは午前と同じローテーションで上級魔術を行い、魔力欠乏症になったらまたスラドリを飲んで回復してください。フレシさんの為にスラドリのストックは大量にありますので安心してください」

「…………ぶくぶくぶくぶく」


返事はせずに湯船に沈んでいく。後ろからインフィが抱えるように抱きしめなければ、そのまま湯の中に頭の先まで浸かっていたかもしれない。


「心配しなくても、フレシさんの歳で上級魔術を使えるのは本当に稀なので失敗続きでも気にしないでください。魔力を使う事が目的なので。スラドリも七本に一本はリィンの蜜綿味なので、遊び感覚で楽しめて良いと思いませんか。」

「気にしてませんし思いません!! あとスライムドリンクを妙に略さないでください。インフィもとりあえず離しなーーって何してるの」

「いや〜、自分以外のセフィラを見るのって初めてだから興味があって。てへへ」


抱きついた格好でフレシの肩に顎を乗せ、覗き込むように胸元を見るインフィ。

そこにあるのは五芒星を丸い円で囲んだような痣。インフィの額にもある神姫プリンセスの証、セフィラである。

よく見れば丸い円の外周を沿うように模様があり、それはインフィとフレシのでは少しばかり違っていた。

他人のセフィラを見た事のないフレシもインフィの額を凝視するが、はっとすると身を捩って腕から逃れた。


「そ、そんな事よりこれで本当に魔法を覚えられるんですか? 古来より体内魔力を使いすぎると短命になるとか穢れたユグへの抵抗力が落ちると言われてますけど、魔法が覚えやすくなるなんて聞いた事ないですよ」

「きっと時代の流れから零れ落ちた知識なのでしょうね。魔術がこの世界の原理に干渉するのに対して、魔法は根幹や概念へと干渉します。魔法は元々、神族がこの世界の根幹や概念に影響を及ぼす為に用いた手段でもあるのですよ」

「昔に読んだ神話大全には、確かに神族が世界を管理していると書かれてましたけど……龍種の番爺さんから聞くとまた格別な気がします」

「まぁ、奴らもおいそれと世界の根幹や概念を弄ったりはしないんですけどね。神族は不老であっても不死ではない、若返りの果実を食べながらなお、生に対して偏執的な執着を持っていますからーーと、子供に聞かせる話ではなかったですね。それで魔法を覚えるかですが、せっかくですのでインフィの魔法を見てみましょうか?」

「え、魔法を使ってもいいの!?」


フレシから離されて一人水鉄砲で遊んでいたインフィが、番爺の言葉を受けて嬉しそうに声を上げる。

不思議に思ってフレシが首を傾げると、「飛行魔術が安定するまで禁止されてるの〜」との事。

見るからにウキウキしているインフィに「発動だけですよ?」と番爺が念押しして、インフィ以外は湯船から出た。

こんな時でも湯桶に入れたお銚子を離さないリリアナにフレシは乾いた笑みを浮かべる。

インフィのほうを見やれば集中しているのか目を閉じ、と、インフィを中心に湯船にエノク語が浮かび上がる。

少しだけ周りのユグが震え、朗々たる声がフレシの耳朶を震わせた。


《ーー我が身に奇跡を与え給え。倍する帯メギンギョルズ》


インフィの腰に光でできた帯がゆるりと巻きつき、その両端が両の手を覆っていく。

元の手の五倍ほどの大きさまで広がるとインフィは握ったり広げたりを繰り返す。が、途中で光の手は輪郭を崩し、帯と一緒に霧散してしまった。

見ていたフレシは湯船に浸かり直すとインフィに近づき、その手を取ってまじまじと観察した。


「身体に影響がないって事は、あれは原理の現象化というよりユグや魔力の可視化と捉えたほうがいいのかしら? 番爺さんと呪文が違ったのは干渉する根幹や概念が異なるからね。 けれど〝の者〟と〝我が身〟だと発動する起点から変わってしまう……神姫プリンセス候補だから呪文が違う、とか?」

「フーちゃ〜ん、目が怖いよ〜〜」


握られている手をにぎにぎと握り返すインフィに、ここでフレシは思考に没入していた事に気付く。

慌てて手を離すのだが、インフィのにんまり顔がむかついたので水鉄砲をかけてやった。


「フレシさんの勉強熱心は美徳ですね。インフィもこれの半分くらい考える力を身につけてくれたら……」

「考えるより感じろ、だよ!!」

「弐爺の脳筋論は覚えなくていいです。正常に発動させるには残りの詠唱と魔法名を唱える必要がありますが、インフィが魔法を覚えているという事を見せたかったのでここまでです。午後からも頑張れそうですか?」


問われたフレシはしかして「う〜ん」と唸る。別段やる気が起きない訳ではないのだが、中級上位の魔術すら扱えない自分がそれらを無視して、魔法を覚えるのは正解なのか分からないのだ。

階段を三段くらい飛ばしたような、いやむしろ別の階段を上り始めた気がしないでもない。

不確定要素の魔法習得よりも魔術研鑽をお願いしようと思った時、「そういえば!」とインフィの声。


「フーちゃんと会った時、確か魔術を教えてもらう予定だったんだよね。結局うやむやになっちゃったけど、出来たら飛行魔術のコツとか教えて欲しいかも〜」

「……そういえばそんな事言ったわね」

「うん、街長まちおさの館におんぶした時約束してくれたよ」

「確かに体力絶無のお嬢様はおんぶをされる際、インフィさんに悪どい顔で魔術のコツを教えると約束されていました。純真無垢で妖艶可憐なメイドの私が言うので間違いありませんひっく」

「酔っ払いは黙らっしゃい」


久しぶりに喋ったと思ったら毒を吐くリリアナをひと睨みし、番爺へと向きなおる。


「そうでしたか……正直に言えばフレシさんが魔法を覚えるより、インフィが飛行魔術を完全に習得するほうが大変だと思ってたので、でしたら午後は弐爺と合流して魔術研鑽ですね。さぁ、身体の汚れも取れたでしょうから上がってお昼を食べに行きますよ。スモーブローやフリカデラの美味しいお店があるんです。デザートに木苺を使ったペイストリーズも美味しいんですよ」

(何かこなれてる……)


そうして脱衣所に向かいながら食に対して語り出す番爺は、おそらく人造人間ホムンクルスの身体を使って何度も食べ歩きをしているのだろう。知識と情熱が並ではない。

神族の天敵、生ける伝説の龍種がライ麦パンの美味しい組み合わせを熱く語るのを見て、フレシは思わずくすりと笑ってしまう。

その反応に不思議そうな顔をするインフィの頬を軽く押して、「何でもないわよ」と笑いかけるフレシ。

これじゃ何も分からないのに「そっか」と言って朗らかに笑うインフィに、可笑しくなって更に笑ってしまった。

飲みすぎたスラドリ(長くて面倒なのでフレシもスラドリと略す事に決めた)でお腹が膨れている気がするが、美味しい物ならきっといくらでも食べられる。

湯船を出た瞬間『ぐぐぅ〜』と期待の声を上げたお腹の音は、鳴らしたフレシ本人も気づいていなかっただろうーー


▲▲▲▲▲

〜誰得用語解説〜


「スモーブロー」※Wikiより抜粋。

バターを塗った黒パンやライ麦パンに卵やソーセージ、肉や魚、チーズなど様々な食材を乗せた一枚パン。


「フリカデラ」

豚肉と仔牛肉に香辛料を加えて作るミートボール。


「ペイストリーズ」

穀粉、バター、ショートニング、ベーキングパウダーや卵等を焼いて作った食べ物。

小さなケーキ、タルト等の菓子類をペイストリーズと呼ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ