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プリンセス・プリンセス  作者: 心太
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第ジュウキュウ夜

一部〜空の見えない街〜

家の外では巨大な自動人形ゴーレムが膝を抱えこむような姿勢で鎮座していた。その佇まいには妙な哀愁があり、フレシは何ともいえない顔をする。

すると自動人形ゴーレムの足元にある、二メートル弱の光沢をもった物体が目に入った。


「……あの、あそこの鉄製品を思わせる物体は一体?」

「お嬢さんが寝てて暇だったのでな。石の自動人形ゴーレムをクリアした後の自動人形ゴーレム、鉄鉱石バージョンだ」

「少しだけ戦ったんだけど、あれって魔道石も混ざってるみたいで魔術耐性があるんだよ!! もうね、私の火の魔術じゃ焦げ目すら付かないんだ!!」


なぜか楽しそうに笑うインフィに、フレシはとりあえず無言でデコピンを繰り出す。

「ふにゃっ!?」と痛がりうずくまるインフィを他所に弐爺を問いただそうと思うーーのだが、やめる。

どれだけ文句を言おうとも既に準備されているのだから、弐爺は使う気なのだろう。


(私達なら石の自動人形ゴーレムをクリアすると信じているって事よね)


規格外に優秀であろう弐爺に認められているようで、少なからず悪い気はしなかった。

そんなフレシの内情など露知らず、先を歩いていた番爺は振り返ると額を押さえるインフィを指差した。


「はい、ではここら辺でいいでしょうか。フレシさんとリリアナさん以外は見た事があるので新鮮味は薄いですが、視覚効果は素晴らしいのでーーぜひ堪能を」


そう言った直後、辺りのユグが震えだすのをフレシは肌で感じた。

足元の地面には巨大なエノク語が現れ、走る曲線と記号の羅列が光り輝いている。

そして指を指されたインフィの足元にも一人分のエノク語が現れ(当のインフィは目をぱちくりさせるだけである)、瞬く間に光を強めていく。


《ーーの者に奇跡を与え給え。奪い取る者ラーン》


番爺の声が頭の中に響くような感覚は、フレシの父ケルファが経験したそれと同じである。

周囲には可視化したユグのかたまりが舞い、幻想的な光景が広がる。輝きに包まれたエノク語の陣内で一際輝くのは番爺の指差す先ーーインフィの頭の上だ。

ちょうど本を開いた大きさ程の光る板が形成され、くるくると回りだす。


《網を投げ入れよ。隠し布を千々に千切ちぎれ。暴いた全てに形は与えられんーー〝根幹之全覧こんかんのぜんらん〟》


まさに光の乱舞ーーと言っても過言ではない光景が目の前に広がった。

見開いたフレシの視界の中でユグは綺羅星きらぼしとなり、この世界から姿を消して久しい『妖精フェアリー』のように飛び跳ね消えて、また現れてを繰り返している。

森や砂漠では度々フェアリーサークルが目撃されるが、それは白蟻や菌糸が引き起こす現象だと証明されている。

今より幼い頃に書物でその事実を知り、フレシは落胆したものだった。

だがその書物は子供の夢を守るかのように、人の子供ほどの大きさの妖精フェアリーが輪になって舞っている挿絵があった。

自分達小妖精族と起源を同じとされ、しかして肉の身体を持たない魂のみの存在。

目の前の光景には、そんな忘れていた感情を思い出させるほどの衝撃があった。

しばらくしてユグの塊は音もなく消えフレシが感動の余韻に浸っていると、とんとんと誰かに肩を叩かれる。

うるさそうにそちらを向けば、インフィがにこやかに片手を振り、もう一方で頭上を指差していた。


「フーちゃんフーちゃん、これが私の加護だよ〜」

「加護? ーーまさか今の魔術って!?」

「いえいえ、あれは魔術ではなく魔法ですよフレシさん。人魚族の使う加護を調べる魔術、それの元になったものです。本来は行事やお祭りを盛り上げるお遊びの魔法で、加護を見れるのはオマケみたいなものですけれど」

(……れ、錬金術上級以上の自動人形ゴーレムに、神話の時代より生きる魔物族の龍種。そして次は奇跡を成す魔法ね)


フレシは驚きを通り越して苦笑を浮かべ、改めてインフィの頭上で輝いている光の板を見た。


「文字は見たことのないものだけど、意味は伝わるようになってるのね。さすが魔法。それで、とーー〝番爺の加護〟、〝忠魂ちゅうこんの加護×三〟、〝●●を司る女神の寵愛ちょうあい〟ーー女神が何を司っているか分からないのは、神姫プリンセスとして真に目覚めていないからかしら?」

「どうなのかな〜? 昔から番爺に見てもらってるけど、読み取れた事は一度もないよ。あ、自分で何て書いてあるか確認する時は手鏡使ってるんだ」


あれだけ幻想的な魔法の後に手鏡で確認……何ともシュールな光景であろう。

三つ得ている忠魂の加護はきっと壱爺、弐爺、参爺から得た加護だとフレシは予想する。

一般的に家族や近しい者から得る加護は親愛や家族愛の加護が殆どだが、なぜ魂の文字を含む加護を得ているのか……しかして考えても見当が付かなかったので、それぞれの家の事情だと思う事にした。


(私もお父様やお母様から、愛の文字を含んだ加護は得ていない気がするし)


ふとそんな事を考えてショックを受けるフレシに壱爺が歩み寄り、ずいっと小さな箱を差し出した。


「壱爺さん、これは?」

「儂の作った付加細工品アクセサリーで、魔力調整の能力が付加してある。番の加護に慣れるまでは身に付けておくんじゃ。お前さんは髪が長いから、その髪を縛れるリボンを選んだんじゃがどうかの?」


開けてみると、金色で縁取りされたピンクのリボンが姿を現した。

フレシの髪より濃いピンク色で、身に付ければさぞ映える事だろう。

思ってもみなかったプレゼントに慌ててお礼を言うと、壱爺は厳つい顔を綻ばして笑った。

その横で弐爺が「相変わらず顔に釣り合わないセンス……」と呟くと、壱爺が無言で両手を伸ばす。

弐爺も同じように両手を伸ばすとお互いに掴み合って押し比べを始めてしまった。

仲が良いのか悪いのか分からない二人である。

インフィが「また始まったぁ〜」と言ってるので放っておく事にして、フレシはさっそくリボンで髪をサイドテールに結んだ。


「さすが三馬鹿の中で唯一センスのある壱爺だけの事はあります。溶岩の上でしか咲かない火食い綿花と軟金糸なんきんしで作られたそれは、火系の魔術を強めてくれるでしょうね。さて、基礎鍛錬や魔術研鑽はあの二人に任せるとして、私がフレシさんに課す修行はーーずばり魔法の習得です!!」

「無理です」

「こらこら、間髪入れずに諦めないように。今の時代は魔術が主流ですが、魔法は魔術と干渉領域が違いますので魔術での妨害が効きません。かなりのメリットですよ?」

「……あの、そもそも魔法は無理に使おうとすれば体内魔力が枯渇して死んでしまうんじゃないでしょうか?」

「そういう認識が広がっていますが事実ではありません。神話の時代、魔法は私達の良き理解者であり隣人でした。今は遠いところにありますが……間違った認識が広がったのが偶然か故意かは分かりませんけどね。体内魔力や周りのユグを大量に消費するのも、足りない条件を補おうとする結果です」


指を一本立てて楽しそうな雰囲気を出す番爺。

フェイスベールで顔は隠れているのに表現力が豊かなんだなと、フレシはリボンを触りながら何となしに思った。


「条件、ですか?」

「そう、魔法が使える条件はただ一つです。これは個人では殆どどうする事も出来ない事なので、今の時代で条件を満たしている者は運が良いと言えます。その条件ですがーー〝神族の因子を持っている事〟です。邪神と称される龍種である私の血と、女神の寵愛を賜っているフレシさんなら血反吐を吐くくらいで魔法を習得できますよ」

「ちなみに私は血反吐を吐く前に何とか覚えたよ〜」

「あなた、魔法が使えるの!?」


最初に会った時インフィは飛行魔術の練習を行なっていた。魔術の上位互換とされる魔法が使えるのに飛行魔術は練習中とは、矛盾極まりない事だ。


「インフィも私の血と女神の寵愛のお陰で覚える事が出来ました。まぁ魔法は覚えるより使いこなす方が大変なのですが……ではお喋りはこのくらいにして、皆大好きな修行といきましょうか!! えいえいおー!!」

「え、えいえいお〜」

「そんな気合いじゃ血反吐を吐いても魔法は覚えられませんよ? さぁもう一度、えいえいおー!!」

「え、えいえいおー!!」


ーー最初は特使として空の見えない街へやって来たフレシ。

しかしてその身は川を流れる葉っぱのように、もの凄いスピードで過ぎていく様々な事柄に翻弄された。

本人がどうこうする事も出来ないまま、そうしてあれよあれよというまに修行をするに到るのであったーー


▲▲▲▲▲

〜誰得用語解説〜


「奪い取る者ラーン」

迎え入れる者の妻であり、嵐の日には海に網を構え難破した人を海中へと引きずり込むとされている。

だが捕まった時に黄金を持っていれば安寧の館で持てなしを受けられる。

※迎え入れる者にも名前はありますが、今は特に書く必要がないので書かない事とします。

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