第009話「激戦」
思ったよりかかってしまった。
-紅の剣-のメンバーは洞窟の通路から広い空間に出ると、周囲を確認しながら、お互いをサポートできるように展開する。
「アンの言う通りゴブリン達とホブゴブリンが数体いるな、あとは…、なんだ? 人間が三人?」
「いや、少女の方は羽が生えてる、有翼人種かモンスターだろう。襲われていないところを見るに、誰かがダンジョンマスターと考えた方が良い。」
「え? ダンジョンマスターって人間なんですか?」
「教会の連中の話を聞いたことがないのか? ダンジョンは邪神信者とかその使いの悪魔が作るって話らしいぜ」
「ってことはあいつらを倒せばOKってこと?」
「か、もしくは後ろにあるいかにもコアですってやつを破壊するかだな」
ダズルスは大地たちの背後にある台座に乗った赤い水晶のような球体をを指さしてそう言った。
ダズルス達が方針を決めている間に大地は彼らが来る前に決めていた作戦を実行すべく皆に指示を出した。
「さて、エステラ、セブルティス。作戦通り行って来い。無茶はするなよ」
「了解です。ますたー」
「仰せのままに大地様」
「総員、作戦開始!」
「「「「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!」」」」」」」」」
俺の号令のもとにゴブリン達が一斉に咆哮し、エステラ、セブルティスとともに半数が冒険者たちに向かって突撃をかける。
「来るぞ! マルク、左頼む!」
「おうよ!」
リーダー格の男が声を上げると冒険者たちは連携の取れた動きでそれぞれの配置に動き、エステラとセブルティス、ゴブリン達を迎え撃った。エステラとセブルティスはリーダー格の斧を持った男と剣士がそれぞれ迎え撃ち、残りの三人がゴブリン達の相手をするという形で戦いは始まった。
「うまくいったようだな」
洞窟内という音が反響する環境下では20体以上のゴブリンが一斉に叫ぶその音量は身構えていても一瞬、相手の動きを硬直させるに足る武器になる。おかげで相手の出鼻をくじき、まずは先手を取れたようだ。
「ゾルファ! 援護頼む!」
「任せてください!」
冒険者の支援要請で杖を持った魔法使いっぽい男が仲間を援護すべく呪文を唱えている。
「させるか! クロスボウ隊、射撃開始!」
俺が準備していたものの一つ、クロスボウを装備したゴブリン達が一斉に引き金を引き、放たれた矢が魔法使いとその周囲に殺到する。
「な、くそ、炎熱魔法、【ファイヤーウォール】!」
魔法使いがそう唱えると、ヤツの正面に炎の壁が出現し、突き刺さった矢はことごとく燃え落ちていった。
「クロスボウ隊は続けて射撃しろ! 相手に反撃させるな」
「リョウカイデス、オマエラ、ウチマクレ!」
やっぱりホブゴブリンを各ゴブリン隊のリーダーに据えたのは正解だった。いちいち指示しなくてもゴブリン達の行動をホブゴブリンが統率してくれるので戦闘の指揮がスムーズに行える。
今度本格的にホブゴブリンに指揮官としての教育を施す事を考えてもいいかもな。
エステラは戦斧使いのダズルスと対峙し、隙を伺っていた。
「お嬢ちゃんみたいなのと戦わなくちゃならんとはな」
「あら、ならばおとなしく負ければよろしいのでは?」
「そうもいかん」
「では、実力で倒させてもらいます!」
「おう、来い!」
エステラは右手に長剣、左手にダガーを構え、ダズルスに向かって真正面から突っ込んで行く。
「ふん!」
それに対し、ダズルスは若干斜めの角度から横なぎに戦斧を振るう。エステラはそれを跳躍して躱し、上段から長剣の一撃を加えようとする。しかし、戦斧を振り切る形で素早く一回転したダズルスは戦斧の柄尻の部分を使って追い打ちをかけ、エステラはすんでのところで長剣を使って受け流し、そのまま距離を取る。
「強いですね」
「お嬢ちゃんこそ、」
エステラは以前戦った剣士よりも今、眼前にいる者ははるかに強いのだという事実を認識し、剣を握る手に力を込める。
「感謝します」
「なに?」
「あなたと戦う事で私はもっとますたーのお役に立つ力を得ることができる。
本当に感謝します」
エステラの浮かべた狂気すら見え隠れする笑みに若干気圧されながらもダズルスは戦斧を構え直し、目の前の相手を倒すべく、突進していった。
「お前、人間か?」
「はて、人間であるかどうかが気になるのですか?」
「だってモンスターじゃねーならこんなとこで戦う必要もねーだろ」
「そうですねぇ、私たちの目的は主であるあの方を守る事ですので、あなたたちがあの方を害するつもりがなければその通りですね」
「あの方ってダンジョンマスターか?」
「えぇ、そちらの方からはそう呼ばれているそうですね」
「なら引く気はねぇんだな?」
「はい、ありません」
「じぁ仕方ねぇ! スキル【斬風】!」
会話を打ち切った剣士のマルクは自身の愛剣を振るい、相手を切り裂く風を巻き起こした。セブルティスはそれを距離をとって回避しようとするが、避けきれず、服の一部が切り裂かれる。
「なるほど、これがスキルというものですか、なかなか興味深いですね」
「悪いが一気に決めさせてもらうぜ!」
マルクは二撃、三撃と続けざまに【斬風】を放ち、セブルティスを追い詰めていく。そしてセブルティスは攻撃をかわそうとするたびに避けきれず、服と身体が切り裂かれていった。十撃以上の【斬風】を放ったところで、体のあちこちを切り裂かれ、服が血まみれになっているセブルティスを見てマルクは口を開いた。
「ふぅー、…おい、降参するなら一思いに楽にしてやるぞ」
「おや? なぜ降参しなければならないのですか?」
「は? どー見てもお前、もうそれ以上戦えねーだろ」
「ふむ、どうしてそう判断されたのでしょうか…、ああなるほど、確かに人間の場合、ここまで血まみれになったら戦闘不能ですからね。ご安心を、私はまだまだ戦えますのでもっとあなたの力をお見せください」
「…お前、やっぱり人間じゃないのか…?」
「そういえば、自己紹介もまだでしたね。私の名はセブルティス。我らが主に創造していただいたクリエイトモンスターが一体、バンパイアのセブルティスでございます。どうぞお見知りおきを、」
「バ、バンパイアだと?」
モンスターの中でも危険な部類に入るバンパイアがこんなダンジョンに居るのか? マルクはセブルティスの放った言葉をにわかには信じられずにいたが、血まみれであるにも関わらず、服の裂け目から覗く傷がすでに完治しかけている様子を見て目の前にいるのは紛れもなくバンパイアなのであるという事実を受け入れるしかなかった。
「今ンとこ、一進一退だな」
「エステラちゃんとセブルちゃんが頑張ってるみたいですしね」
「ホブゴブリン達も良く働いてくれてるしな、」
俺とPちゃんはクロスボウ隊のゴブリン達と一緒に後方から戦況を見守りつつ、次の変化に即座に対応できるように構えていた。
「アルジサマ、ソロソロ『ヤ』ガナクナリマス」
「え、もう撃ちつくしちゃったのか?」
「モウシワケアリマセン」
「いや、気にするな、…けどまずいな、あの魔法使いを押さえておく方法を何か考えないと、」
大地は当初、開けた空間のあるこの最奥の間で前衛によって相手を押さえながら、クロスボウによる飽和攻撃で一気にケリを付けるつもりでいたのだが、相手に魔法使いであるゾルファが居たことによって、予定していた作戦に移れず、なけなしのDPで購入した矢もすでに尽きようとしていた。
「大地さん、まずいです。ゴブリン達が抑えていた冒険者二人が魔法使いと合流しそうです」
「くそ、クロスボウ隊の半分は武器を持ち替えて前衛のゴブリン隊の援護に向かえ。残ったクロスボウ隊はあの魔法使いに少しずつ矢を打ち込んでできる限り時間を稼げ、エステラ達が勝てば一気にこっちが有利になる。それまで持たせろ!」
「ワカリマシタ」
「だーもう、うっとおしい! スキル【トリプルランスチャージ】!」
女戦士のメルーがそう叫ぶと、腰だめにに構えた短槍から三条の光と衝撃波が撃ちだされ、彼女を取り囲んでいたゴブリン達の半分が吹き飛ばされる。だが残ったゴブリン達は怯むことなくメルーに向かっていき、メルーはその攻撃を捌くために防戦を余儀なくされる。
「普通のゴブリンなら仲間がやられた時点で逃げ出すのに、なんなんだこいつらは!?」
ダンジョン内において召喚されたモンスター達は大地の指示に対して絶対服従となっている事を知らないメルーにとって、このゴブリン達の行動は想定外であり、なんとか仲間と合流して合同で戦える状態に持ち込みたいところであった。
しかし、
「こりゃまずいかな、」
大地が差し向けた増援のゴブリンが後方から近づき、メルーは十体近くの相手を一人ですることに不安を隠しきれないでいた。そこに後ろから一人の仲間が駆けつける。
「メルー!」
「アン! あんたそっちのゴブリン達はどうしたの?」
「半分は倒したよ、あとは振り切ってこっちに来ちゃった」
「バカ! それじゃ余計こっちの数が増えるじゃない」
「ごめん…、」
「……いや、来てくれてありがとね」
「え? 今なんて言ったの?」
「いいから、あいつらまとめてぶっ倒すよ!」
「うん、わかった!」
彼女達とゴブリン達の戦いはまだまだ予断を許さない状況が続いていた。そんな一方で…、
「…私、いつまで【ファイヤーウォール】張ってればいいんでしょう?」
クロスボウから放たれる矢によって身動きが取れなくなっているゾルファは時折、魔法を弱めて相手の様子を見ながら矢の間隙を狙おうとするが、そのたびに矢が打ち込まれ、戦闘開始当初から一歩も動けず釘付けになっていた。
次回予告
各々の戦いが激しくなる中、最初に勝者となるのは誰なのか?
ダンジョンマスター大地はこの窮地をどう乗り切る?
次回 絶対絶命? お暇なときにでもお読みください。