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ダンジョン経営勉強中。  作者: イマノキ・スギロウ
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第014話「迎撃戦」

バトル展開、特に大規模な戦いはほんとに考えるのに時間がかかる。

 攻略部隊が到着し、二日目の朝となり、大地達もいよいよ向こうが攻めてくる直前だという空気を感じとり、いつ攻め込まれても大丈夫なように戦闘態勢を取っていた。


「水橋、アクアスライムの用意は?」


「ばっちりだ。アウラウネに火炎攻撃があった時は即座に水をかけるように指示も出しといた」


「よし」


「大地さん、新しくした通路内で指定の場所にゴブリン各部隊配置完了しました」


「サンキューPちゃん」


「大地様、私はオーガとコアの間で待機という事で本当によろしいのですか?」


「セブルティス、今回はお前とオーガが最終防衛ラインだ、お前が抜かれたら俺達は死ぬしかないからな、頑張ってくれよ?」


「はい! 必ずや大地様たちのコアを守り抜いて見せます!」


「あぁ、頼んだぞ」


「だっちー、あの子たちはどうするの?」


「ああ、そっちは遊撃部隊にする。ゴブリン達で迷宮の各所を防衛しつつ、あいつらで向こうをかき回すんだ、迷宮でばらけさせればそれだけ各固撃破しやすくなる」


「生まれたばかりですけど大丈夫ですかね?」


「まぁ、やばくなったら必ず戻ってこいって言ってあるし、今回からは魔導具の[写し画の水晶]で映像も見れるようになったから大丈夫だろう」


「…ならあとはエステラちゃんとスレイちゃん、あと水橋さんがDPギリギリで作れた結晶スライム6体でこの最奥の間を守りながらしのぎきればこっちの勝ちですね」


「そうだな、手持ちのDPあるだけつぎ込んだからな、来るなら来てみろ、目にもの見せてやる!」


「もっちー言い回しふっるー」


「おや、大地さん、そういってる間に向こうが動き始めたみたいです」


「よし、戦闘開始だ!」





「リオル様、探索班、戦闘班ともに準備完了です」


「よし、突入せよ! 探索班で安全確認を行いながら確実に重装歩兵で制圧していけ」


「は、分かりました」



 ダンジョン攻略部隊 構成内訳


 軽装歩兵 400名

 重装歩兵 200名

 補給部隊 60名   


 冒険者 74名



 本来、腐っても将軍職にあるラリゴ将軍の権力をもってすれば、1000名単位で兵を動かせるのだが、先の『スライム魔窟』、水橋望太郎のダンジョン攻略の際に、大部分の兵を負傷させられ、戦えないと判断された兵はすべて王国に引き返していたため、斥候の報告で追ってこれた部隊の数は半数に以下にまで減っていた。通常の戦いなら一度戻り態勢を立て直すという選択肢をするのがまともな判断であるが、今回はトップが功を焦ったラリゴ将軍であるという事と、ダンジョンマスターを取り逃がす危険性を天秤にかけたリオルの苦渋の決断でこの戦いは始まってしまった。


 


「ち、この草邪魔だな」


「構わん、剣で引きちぎれ!」


 兵士たちは無造作に剣を振るい、ダンジョン入口の植物たちを切り裂きながら進んでいく。


「ん、この蔦、なにか妙に固いな く、このぉ、 うお、ぐぅ!」


「おい、どうし、ぬお、足が!」


「は、離せ! 離しやがれ! このぉ!」


 兵士たちが洞窟内に入ると、植物に擬態して待ち構えていたアウラウネ達が蔦による熱い抱擁で出迎えた。

 

「おい冒険者! 火炎の魔法を使えるやつはいないか!?」


「はいよ、たく、騎士団っつてもたしたことねぇなぁ」 


「まあ、ぼやくな、これで褒美の一つで追加されりゃもうけものってな」


「ねーと思うぜ、だって今回の指揮官あのラリゴだぜ?」


 兵士たちに乞われ、しぶしぶ魔法を使える冒険者たちは愚痴りながらも報酬分仕事をするべく、魔法を放った。


「火炎魔法【フレアランス】!」


「火炎魔法【バーニングボール】!」

  

「火炎魔法【ヒートニードル】!」 



 三つの火炎魔法がアウラウネ達に殺到し、葉と花に包まれた緑色の肌を焦がすその寸前、天井から十数条の水が降りかかり、アウラウネ達を包もうとした火を消してしまった。


「なにぃ!」


「どこから水が?」


「おい、上だ、上になにかいるぞ!」


 天井を指さす一人の言葉につられ多くの者が上を見るとそこには大量のスライムが張り付いていた。しかもそのスライムたちは水風船のようにパンパンに膨らんでおり、ぽたぽたと水滴まで滴り落ちていた。


「あれはアクアスライムか? あんなのがこんな数居たんじゃ火炎魔法なんてすぐかき消されちまう」


「剣や槍で物理的に倒さないと無理だ!」



 攻略部隊がアウラウネたちに苦戦する様を大地は虹色コーヒーを飲みながら、余裕顔で眺めていた。   ふっふっふっ、前回の冒険者戦では数が少なかったから遅れを取ったが、狭い通路内で20体も数を揃えれば、さすがに速攻で負けるという事はあるまい。あとは植物系モンスター特有の火に弱いという弱点を補ってやれば、かなり粘るはずだ。ここでまずは相手の部隊を消耗させて、



「あんたら、どいてなさい!」


 ん、なんだあのいかにも魔女っ娘コスのミニスカ魔法帽の女の子は? ロングツインテールの上に顔立ちもなかなか悪くないな。 冒険者って子どもでもできるのかな?


「げ! あいつは、」


「ん、水橋、知りあ、」


「極炎魔法【プロミネンスバースト】!」



 どごおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!




 魔女っ娘が魔法を唱えると、激しい閃光とともに、すべてが焼き払われ、残ったのはアウラウネとスライムの燃えカスだけだった。


「ほら、さっさと進むわよ、グズども」


「「「「うぉぉぉぉぉぉ、アネイルちゃんに続けぇぇぇぇ!!!」」」」


 ダンジョン入口が焼き払われ、通路がクリアになると、今度はお揃いの上着を来た妙な集団が突入してきた。


「なんだありゃ」


「やっぱ来てたか~、要、あれは今王国で人気の冒険者、女魔法使いアネイルだ、俺のダンジョンに攻略部隊が攻め込んだ時にもあいつは来ててな、帰ってくれてれば大分楽だったんだか…、」


「あっちのお揃い服の連中は?」


「そっちはアネイルの取り巻きだ、分かりやすく言うとファンクラブみたいなもんだな」


「こっちの世界にもそういう集団っているのか?」


「そりゃ、どんな世界でも人気者が居ればその取り巻きだっているさ、ただ、厄介なのは、俺のダンジョンが壊滅した理由の半分があいつって事なんだよな」


「え、それマジ?」


「うん、マジ」


「あの魔女っ娘そんなに強いの?」


「強いぜ、なんせ、俺の手持ちのスライム軍団のほぼ半数以上を一人で殲滅してくれたんだからな」


「そういえば、水橋ってなんでかたくなにスライムしか使わないの? ガチャとかで他のモンスターも出せるだろ?」


「え、知らないのか? ダンジョンのモンスターは一種族だけで固めてると能力値が倍加するって、まあスライムを使ってるのは俺のこだわりもあるんだけどな」



 能力値倍加なんて初めて知った。 今度俺もやってみようかな…、いや、だめだ、一種族に絞るなんて俺にはできん。



「それよりどうするんだ? あいつがいるんじゃゴブリン達の防衛線もすぐに焼き払われちまうぞ、」


「くそ、こうなったら一度、ゴブリン隊をこっちに戻して総員でかかるか?」


「いや、この広間に誘い込んでも結局でかい魔法で吹っ飛ばされたら終わりだろう」


「んじゃ、どうすりゃいい?」


「ここはやっぱり、あれだろ」


「あれ?」


「ザ・ゲリラ戦!」






 兵士たちに続いてアネイルはダンジョン内を突き進んでいったが、何やら先に進んだ兵士たちが戻ってこないという会話を聞き、新しい情報が来るのを待っていた。


「ちょっと、まだこの先の状況分からないの?」


「今、新たに探索班を向かわせている。少し待て」


 待たされる事が嫌いなアネイルはイライラしながらも、情報が届くまでの辛抱と自分に言い聞かせ、いつでも戦えるように周囲を警戒する。

 まったく、こいつらスキルの【サーチ】すら使えないくせにどうしてダンジョン攻略なんてしようと考えたのだろう。おまけに民の人気を取りたいがためだけにこの私に「ついて来い!」なんてギルドに強制依頼まで出して、これで報酬を渋るようなら帰ったあとに事故に見せかけてあの将軍の頭の毛を全部燃やしてやろうかしら?



「ぐぁ!」


「いでぇ!」



 ん、なに? 後ろから悲鳴?


 アネイルが振り返ると通路の先からクロスボウを構えた複数のゴブリンがこちらに向かって矢を放っていた。



「くそ、たかがゴブリンの分際で、待ちやがれ!」


 何人かが逃げるゴブリンを追って通路の向こうに消えた。そしてすぐに、


「ぎゃっ!」


「うぐ、」



 今度は右手側の通路から矢が飛んできた。


「アネイルちゃん、ここは危険です。下がった方が、」


「うっさい、この程度でいちいちビビるな!」


 取り巻き連中を黙らせ、私はうっとおしいゴブリンたちを仕留めるため、魔法を放った。


「風雷魔法【ホーミングサンダー】!」


「ギギィィィ」

「グギァァァ」


 私の放った雷はゴブリン達を正確に追いかけて命中した。あれなら確実に死んだだろう。

 通路内で極炎魔法は蒸し焼きの危険があったから使いやすい魔法にしたが、それでもゴブリンに使うにはもったいないくらいだったかも、魔力だって無限じゃないし、節約できるところでは節約しないと、



「くそ、またゴブリンどもだ!」


「貴様ら、うろたえるな! おそらく確固撃破を狙った陽動作戦だろう、つられてはならん!」


 さすがにそれくらいは理解できる頭はあったか。腐っても王国騎士団の兵士、戦術の教育も受けてるみたいだな。


「隊長! 探索班からの報告でこの先はトラップ、モンスターともにいないとのことです」


「よし、重装歩兵を前にして前進だ!」 



けど、なぜだろう? この先に進むのはどうにも嫌な予感がする。



「まて、前から何か来る」


「探索班じゃないのか?」


「いや、足音が変な上に探索班用のランプの明かりも見えな…、」


 次の瞬間、先頭に立っていた重装歩兵の男は目の前に現れたものがなんなのか分からず言葉を詰まらせる。見た目はフルプレートの鎧に見えるが、あんな装備の人間は突入時に見たことがない。しかも一つだけ色違いなこと以外はすべて同じ型の鎧だ。まだそれだけなら我々より先にダンジョンに入った冒険者かなにかかもしれないが、おかしい点がある。鎧のサイズがまったく同じなのだ。普通、鎧は着る人間に合わせて微妙にサイズが異なり、胴体はともかく、手足には微妙な差が出るはずなのだ。しかし、今目の前に現れた6体の鎧は見た目はすべて同じサイズに見える。


「こいつら、リビングアーマーか?」


「まて、…おい、お前たち、冒険者か?」


 しばしの沈黙の後、帰ってきたのは言葉による返答ではなく、クロスボウによる重装歩兵の鎧を貫く攻撃だった。


「くそ! やっぱり敵か!」


「応戦しろ!」


 兵士たちは剣を抜き、鎧の集団に向かっていく。



「大地様の指示通りに行くぞ、皆の者よいか!」


「「「「「御意!」」」」」


 彼らは大地が攻略部隊に対抗して新たにクリエイトで創造し、購入リストによって数を揃えた新しい仲間、『アイアンゴーレムのムラサメ』とその量産タイプで、今回の迎撃戦のメイン戦力として作戦に組み込まれていた。


「大地さん、ムラサメちゃん達が会敵しました。ゴブリン達も今のところなんとかゲリラ戦をこなしてます」


「よし、そのまま、少しずつ相手を誘い込んで囲んで潰すを繰り返そう」


 何とかゲリラ戦で相手の斥候を強襲し、足止めに成功した大地は、冷静さを取り戻しつつあった。


「要、向こうが新しい斥候部隊を出したぞ!」


「そっちにはクロスボウ装備のゴブリン隊を2小隊回してくれ」


「分かった。さっき2匹やられた隊は補充をしとくか?」


「いや、各10匹で編成してるから、多少やられても何とかなる 隊長のホブゴブリンにはその数で何とかするように伝えてくれ」 


「了解、んじゃ[音送りのコップ]借りるぞ」


 魔導具[音送りのコップ]は任意の相手に自分の声を届けるられる魔導具なのだが、声を送るだけの一方通行なので2つ以上ないとあまり使えないため、冒険者の間では人気のある魔導具ではなかった。



「くそ、この鎧の連中強いぞ!」


「たかが6人に、ぐあぁぁ」


 ムラサメ達は通路という狭い環境を利用し、可能な限り、一対一での戦いになるように立ち回りながら、確実に相手の数を減らしていた。そしてある程度傷ついた者が増えたのを確認したムラサメは主である大地の指示を忠実に実行する。

 

 「よし、一度下がるぞ。皆ついて参れ!」


「「「「「おう!」」」」」



 素早く撤退していく鎧集団を後方から睨みつけながらアネイルは悔しがった。


「くそ、前に兵士たちが居なければまとめて吹っ飛ばせたものを!」


「アネイルちゃん、どうか落ち着いて」


「そうそう、まだこれから追い詰めて行けばいいだよ」


「その時こそアネイルちゃんの魔法を炸裂させれば!」


「……そうね。焦っても仕方ないか」


 取り巻きに宥められ、すこし気持ちが落ち着いたアネイルは先に進むために歩き出した。


 ダンジョン迎撃戦の戦いはより激しくなって様相を見せていた。    






 次回予告


 魔女っ娘と将軍、二つの強敵を前にダンジョンマスター大地はどう戦うのだろか? 

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