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ダンジョン経営勉強中。  作者: イマノキ・スギロウ
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第010話「絶対絶命?」

ちょっと用事があるので次は3日後くらいになりそうです。

 エステラとダズルスの戦いは互いに決定的な一打を加えることができず、

千日手のような状態になっていた。


「お嬢ちゃんとの戦いも楽しいが、そろそろ終わりにさせてもらおう」


「あら、素直に後ろの仲間が心配だと言ったらどうですか? そして私がそれをさせると思いますか?」


「…嬢ちゃんとは敵でなく味方として会いたかったな、」


「褒め言葉として受け取らせてもらいます」


「なら食らえ! スキル【撃震斬】!」


 ダズルスは戦斧を大降りに振り下ろし、地震かと思うような揺れと地を伝って伸びる斬撃を発生させた。しかし、エステラにとってはその程度、いまさら驚くほどの攻撃ではなく、横に跳躍してなんなく躱す。


「スキル【縮地】!」


 エステラがそれに気づいたのはダズルスの攻撃で発生した土煙が不自然な揺らめき方をしたからだった。

尾を引いていた土煙の先を辿り、視線を背後に回すとそこには正面に居たハズのダズルスが回り込んでいた。

  


「スキル【オーラアクススラッシュ】!」


 ダズルスの戦斧が薄い紫色の光に包まれ、そのままエステラめがけて振り切った。

あれは食らったらまずい!


 一瞬、エステラの中の本能が危険信号を発し、エステラはカウンターの事など考えず、

全力でその攻撃を回避することだけに意識を集中する。


「うぐぁ、」


 なんとかすんでのところで戦斧の直撃は避けられたが、薄い紫色のオーラまでは躱し切れず、

浅い傷が背中についていた。


「今のを躱すか…、」


「ふ、ふふっ後ろからとはずいぶんと臆病ですね」


「俺は冒険者であって騎士じゃないからな、正々堂々なんぞで生き残れるならそうしてるが、俺達の世界はそれじゃ生き残れん」


「もっともです、弱肉強食こそが自然界のルール、だからこそ、私も負けられません!」


 エステラは背中の翼を広げ、大きく跳躍したかと思うと、そのまま滑空するようにダズルスに向かっていく。



 あいもかわらずスピード頼りの正面攻撃一辺倒か…、初めこそスピードについていくのに手こずったが、もう慣れた。悪いが、次で決めさせてもらう!  


 ダズルスはエステラの戦法を的確に予測し、カウンターを仕掛けるべく、戦斧を構える。


「終わりです!!」


「スキル【オーラアクススラッシュ】!!」




 金属がぶつかり合う音が鳴り響き、交差して互いに背を向けて立つ二人、

ほぼ同じタイミングで振り返り、果たして先に膝を折ったのはエステラだった。


「くぅ、まさか失敗するとは、」


 エステラの翼は片方が無残に切り裂かれ、千切れかける寸前と言った状態だった。


「驚いたな、今お嬢ちゃんが使ったのって【アイアンガード】か?」


「えぇ、前にここに来た人間が使っていたので見よう見まねで練習していましたが、まだまだ使えるレベルではなかったようです。」


「俺の戦斧をこんなにしといて使えるレベルじゃないとか、どこまで上を目指す気だよ…、」


 そう言って驚愕するダズルスの手に握られている戦斧は刃の部分が金属の塊にでも叩きつけたのか? と思われるほどに刃こぼれをおこし、ボロボロになっていた。


「悪いが、あんたみたいな危険なモンスターは今のうちに仕留めさせてもらう」


「そうそう、うまくいくと思わないで下さいよ、たかが人間風情が!」


「……お前のマスターもあれは人間じゃないのか?」


「ますたーだけは別です」


「そう…か、」 






 セブルティスと剣士マルクの戦いは一方的な展開といえた。


「さぁ、もっと元気よく! 次のスキルに行ってみましょー!」


「できるかー!」


「おや、元気はあるのにできないとは、なぜです?」


「コノヤロー、【斬風】二十発以上撃ち込んで、俺の切り札である【炎結ノ大刀】まで食らった上、あと何を出せってんだ!」


「あぁ、あのスキルは本当に興味深かったですね。炎が結晶のようにはっきりとした形として刀身になるとは思いませんでしたよ。ヘタしたらほんとに私、死んでたかもですね」


「ぴんぴんしてんじゃねーか!」


「いやぁ、これでも結構無理してるんですよ? ほら、いまなら倒せるかもですよ? もう一回あの炎のスキル出しませんか?」


「ふざけんなぁー!!」


セブルティスがその気になればすぐに決着がつきそうな状態のまま、彼らの戦いは続いていた。





「大地さん、前衛のゴブリンが半数以上倒されてます。このままだと、」


「アルジサマ、イマウッタノデヤガナクナリマシタ」


 まずい、まずいまずいまずい、どうすりゃいい? 

エステラは劣勢だし、セブルティスは実は再生力に数値を割り振ったせいで攻撃力、防御力はエステラよりはるかに低い、今ンとこ優勢に見せているけど、要はなかなか決定打を与えられるほど相手が弱くないからそう見せているだけだ。


 このままだとじり貧、最悪全滅だ。なにか手を考えないと…、

手持ちの道具、事前に設置したもの、この場の状況を切り抜けるのに利用できそうなもの、

なにか、なにかないか?


「あ、大地さん前衛が突破されました!」


「なに!」


「魔法使いが自由になったからゴブリン達が蹂躙されてます!」


「くそ、クロスボウ隊全員、接近戦用意!」


「リョウカイデス」


 残っていたゴブリンとホブゴブリンが棍棒や俺の用意した銅剣を構え、女冒険者たちに向かっていくが、瞬く間にスキルで倒され、俺は一人(と一羽)になってしまった。


「あんたがダンジョンマスターか、」


「いえ違います、人違いでしょう、じゃあ俺は帰りますんで、」


 俺のボケに対してつっこみとして短剣と短槍の切っ先を突き付けられた。


「さっさとやっちゃおうよメルー、」


「まて、ダンジョンについてはまだわかっていない事も多いんだ。せっかくだし、こいつの知ってることを洗いざらい吐き出させてからでもいいだろう。」 


「あんま知らなそうだけどなぁ、どう見ても下っ端っぽい」


 自分の顔が平凡なのは自覚しているが、こうも卑下されると素直に傷つく。


「とりあえず、お前たちがどうやってダンジョンを生み出しているのか教えてもらおうか?」


「嘘を言ってるって感じたら私が殺しちゃうからね♪」


 怖えぇ、一応今の俺ってコアが無事なら復活できるらしいけど、わかってても怖い。

つーか、今殺されたら最悪だ。そのままコアまで破壊されちまう。

ん、コアまで破壊…? あ、……よし、こりゃいちかばちかの賭けだな、マジで。

 

「ダンジョンが生まれるためには、コアの存在がすべてです。コアなしだとダンジョンができません」


「まぁ、そうだろうな」


「それくらいは私たちでも知ってるよ」


「で、そのコアがある限り、俺のようなダンジョンマスターは何回でも復活できます」


「なに?」


「死なないってこと?」


「いや、コアをつぶされると俺達はそのダンジョンと一緒に消滅する。」


「ということは、コアを壊せば、そのダンジョンのマスターが生き延びて新たにダンジョンを作ることはないということか?」


「そう、です」


「じゃあ、お前を殺すより、あの後ろのコアを潰せば良いということか」


「そうなりますね」


「で、お前たちダンジョンマスターは組織としてのつながりはあるのか? あるのならその規模は?」


「いえ、俺は偶然よそのマスターを名乗る人にコアをもらっただけで、詳しくは知りません。」


「ほんとかなぁ~?」


 刺さる、刺さっちゃう! 短剣を持ったシーフっぽい女の子が俺ののど元に突き付ける切っ先を近づけてくる。 

 

「待てアン、で、他になにか知っている事は?」


「俺が知ってるのはこれくらいです。つーかこの身体を殺しても復活しちゃうからどうしても殺るならコアをやってください」


「ふむ、では試してみるか、アン、こいつを見張ってろ。変なことをさせるな」


「はーい」


 大地を仲間に預けたメルーはダンジョンコアに向かって進み、短槍を持ち替えて、

柄尻を上にすると上から勢いよくコアに向かって振り下ろした。


 パキイィィィィンッ


 ガラスが砕けるような音が響きわたり、コアの破壊を確認したメルーはアンと大地の方に急いで戻ってきた。それもそのはずで、彼ら冒険者の間でダンジョンについて周知の事実がコアの存在以外にもう一つある

それは、「コアを潰したダンジョンは必ず崩壊する」というものだった。


 コアを潰したためにあたりの壁や地面からは破裂音とともに岩や土が崩れ、洞窟内のものが砕け、飛び散り、ダンジョンそのものが少しずつ崩れ始めていた。


「よし、引くぞ! アン!」


「え、こいつはどうするの?」


「ほっとけ、コアと一緒に消滅するなら構うだけ時間の無駄だ」


「そうかなぁ? な~んかまだ秘密がありそうなんだけど、」


 アンは疑いの目を大地に向けようとしてある事に気が付いた。大地の周囲が白く光り、大地を包み込んでいるのだ。

 

「疑うのは勝手だけど、こっちはもういつ消滅するかわかんないんだから、最期は仲間と過ごさせてくれないかな?」


 光に包まれる大地を見て、アンはゆっくりと短剣を離す。


「…まぁいいか、好きにしなよ」


「ありがとよ、 エステラ!セブルティス! 戻ってこい!!」



 俺の呼びかけに戦っていた二人は、相手を警戒しながら、こちらまで戻ってきた。


「ますたー!」

「大地様!」


 エステラとセブルティスは俺のそばで膝をつくと謝罪を言葉述べた。


「申し訳ありません。相手を倒すことができず、ますたーの危機に駆けつけることすらもできず、」

「私も大地様の危機に気づいていながらそれに対応できず、どうお詫びすればよいか、」


 俺はエステラとセブルティスに顔を近づけ、軽く頭をなでてやりながら言い放つ。

 

「いいから、お前たちはよくやった。力不足だったのは俺の方だ」


「そのようなことはありません、私たちがもっと強ければこんなことには…、」

「エステラ殿の言う通りです」


 俺は二人がさらに言葉を重ねようとするのを手で制止させ、ダズルス達の方を向いて言葉を発する。


 「冒険者たちよ。この勝負、貴様らの勝ちだ。…だが、早く逃げんと

  俺たちの消滅とともにこのダンジョンも崩落して

  お前たちも生き埋めになるぞ。さあ、走れ走れ! はーっはっはっは…、」


 ダズルス達が見守る中、自らの敗北宣言をして高笑いとともに大地達は光に包まれ、そして消えていった。


 事態の変化についていけていなかったダズルス達はメルーがコアを潰したという事実を知ると大慌てで脱出のためにもと来た道に向かって駆け出した。



 コアの破壊によってダンジョンは崩壊する。その事実はダンジョンを攻略する者達にとってある一つの鉄則を生み出すこととなった。それは、『コアを破壊したという報告があった場合、その真偽にかかわらず、一度即座に撤退せよ』という決まりであった。


 これはダンジョンコアの破壊による崩壊から攻略に入っている者達が全滅するのを防ぐのが目的であり、仮に破壊できていなかったとしてもそれはそれで再度攻略すれば良い。と言う考えから、コア破壊=撤退は冒険者・騎士を問わず、絶対に守るよう必ず教え込まれているのである。


 しかし、いつも速やかな撤退ができるか? と言われればそういうわけでもない。時間をかけて攻略が進んでいるダンジョンならともかく、入ったばかりのダンジョンでいきなりボス部屋まで行ってしまうというのはかなり稀である。(それくらい大地のダンジョンが狭かったというのもあるが、)


 加えて一度通った道とはいえ、彼らは全員こうなる事を予想しておらず、そこまで道をしっかり覚えているわけではなかった。だが、もしもの時のためにとゾルファが簡易的にダンジョンをマッピングをしていたのはこの状況において、まさに運が良かったと言える。  


「もっと急げ! ゾルファ、次の道はどっちだ!?」


「左に曲がってまっすぐ、その先に落とし穴があります。みんな、来るときに付けた目印を見落とさないように!」


「ここまで来てトラップで死んだらバカみたいだぜ!」


「ほんとだよ!」


「しゃべる間にあんたら走りな!」


 断続的に崩落している通路を駆け抜けながら、パーティーの皆が仲間を鼓舞して必死に生き残ろうとしていた。


「外の光が見えてきたぞ!」


「やっと出口か!」


「助かった!」


 ダンジョンの入口にダズルス達が差し掛かった瞬間、逃さないとでもいうように崩落が加速し始めた。


「走れ! あと少しだ!」


「死んでたまるかー!」


「私だって死にたくありませんよー!」 


「アン!急げ!」


「わかってる!」


 ダズルス達が洞窟から脱出するの同時に入口が爆発するように崩壊し、ダンジョンは完全に埋まってしまった。

  


「はぁ、はぁ、はぁ、み、みんな無事か?」


「ぜひゅー、ぜひゅー、お、俺は生きてるぞー!」


「わ、私も無事です。 げほげほ、」


「い、居るよ、」


「こっちも無事~、」


「そうか、みんな無事か、よかった」

 

 ダズルスは背後の完全に埋まってしまったダンジョンを見て、ひとまず終わったのだと安心し、大きく息を吐き出した。 


「なかなかにやっかいな奴らだったな」


「やっかいどころじゃねぇよ! 俺のスキルをいくらぶち込んでもへらへらしてたんだぞ、もう二度と戦いたくねぇ…、」 


「ま、ダンジョンがこうなっちまったらそいつもお陀仏だろうね」


「リーダー、とにかく今回の事をギルドに報告しよう」


「そうだな、おそらく出来て間もないダンジョンだったんだろうが、攻略したからには俺たちの手柄だ。ガズ達の事もあるがひとまず戻ろう」


「異議なし」


「とにかく、ゆっくり休みたいです。あと誰か肩の止血手伝ってくれません? さっき一矢もらっちゃいまして、そろそろ血が足りなく…なりそぅ…で…す」バタッ


「うぉ! し、死ぬなゾルファァァァァァ!」


「急いで山を下りるぞ!」


「りょ、了解!」


 

 彼らの全力疾走はまだ続く。


次回予告 考え中

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