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メガホンを通した女子生徒の声。何度か聞いた声だ。顔を向ける。緩く巻かれた明るい茶髪の生徒――三好裕子だった。なんでこんな時に? だが、全校生徒の衆目が集まっている中で慌ててはならない。
「すいません、質問の意味が分かりません。もう一度お願いします」
落ち着け俺。そう言い聞かせ、言葉を返した。
「頭わりいな、生徒会の優等生もよ」
裕子のスピーカーを奪い、話しながら体育館内に入ってくる生徒。髪は銀とも茶ともつかない色に染められている。菊川勝。総会中にも関わらず、普段通りの崩した服装だ。
メガホンを持っていない右手は何かを隠しているのか、体の後ろに回されている。
「ちょっと! 今は総会中ですよ!」
席を立ちあがり、雛が叫んだ。だが、勝はそれを無視して、生徒会役員達へ視線を投げた。それに憤りを覚え、さらに口を開いた雛を帳が制する。助かった。彼が居なければ余計に話がこじれるところだった。
「俺らがこうして総会に割り込んだのは――お前らと戦うためだ。ささやかな復讐ってこったな」
「戦いたいなら後でにしてもらえますか。今は総会中なんで。迷惑なんで」
「そんなこと言っていいのかなー?」
勝は体の後ろに隠していた物を掲げた。それが何かを理解する前に名月が叫び声を上げた。
「うさちゃんんんんんんんんん!」
名月が愛してやまない飼育小屋のウサギだった。
「お前らふざけんなやあ!」
椅子から立ち上がり、ウサギの元へ駆け寄ろうとする名月。蒼冱が反射的に彼女の腕を掴んで押さえた。
「落ち着け! 今は総会中だ」
「そんなもん知らんわ! うさちゃんに触れたクソ野郎に制裁加えるんやあ!」
名月は叫び、蒼冱を振りほどこうともがく、しかし、女子の中でも細い部類に入り、筋肉の少ない名月に男子の手を振りほどくことはできない。
「ウサギを飼育小屋から勝手に出さないでください!」
摩胡が立ち上がり、勝に向かって叫ぶ。委員長として見過ごせないのだろう。勝はそれを面白そうに眺め、扉の向こうに視線をやる。それを受けて彼の仲間たちが現れた。ほぼ全員がウサギを抱えている。
名月の怒声とも奇声とも判別がつかない叫びが上がった。こいつらの目的は何なんだ……。
「なんでうさちゃん達連れてきてるんや! お前らが汚い手で触っていい存在じゃないんやあ!」
「落ち着け」
蒼冱が名月の口を押えて黙らせた。そのまま舞台袖に引き込んでいく。ウサギが大切なのはわかるが、ああも叫ばれては話が進まない。蒼冱の判断に感謝だ。
「お前らさ、何が目的でウサギ連れてきてんだよ」
「お前ら生徒会を潰すためだ」
梳玖の一件の後、出かけたコンビニで出会った裕子と心愛。あの時の裕子の言葉が思い出される。『今、アタシら面白い計画立ててんだよ』。こういう事だったのか? だが真意が分からない。ウサギ等連れてきたところで勝達に何の得がある。
勝は勿体付けたようににやにやと笑いながら口を開いた。
「俺達はお前ら生徒会とゲームがしたい」




