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頭を回しても答えは出ず、いつの間にか下がっていた視線を向かいに座る男子生徒に戻す。
「いや、でもさ、俺ら普段から魔法見てるじゃん? だからもう慣れたんじゃねえの?」
久炉は机に放置されていた飲みかけのジュースを一気に飲み干すと、紙パックを近くのゴミ箱に投げた。それは妙な回転が加わり、ゴミ箱の淵に当たって、床に落ちた。
「ああ、そんなに動揺しないでください。私はただ話をしに来ただけで、脅かしに来たわけではないのです」
「動揺とかしてねえって。適当に投げたら外れただけだっての」
それは虚栄であった。実際、彼の話を聞いて少なからず動揺していた。すぐ近くにあるゴミ箱に投げた物のコントロールができないくらいに。魔法って……何なんだ?
「では、話を戻しますが、見ているだけで、日常の一部だと錯覚できるほど、魔法の印象は弱かったのですかね? 初めて私たちが目にしたのは先週の入学式の日だったはずですが」
わずか十数日で生活に溶け込んでしまった魔法。彼の言うとおり、この短期間で、創作世界にしか存在しない、非日常のものが生活に浸透し、自分達はそれに対する疑問を忘れている。
よく考えたら、これはとてもおかしくて――恐ろしいことじゃないか。
いつの間にこんな事態になったのだろう。考えようにも、知らない間に慣れていたのだから何も思い当たらない。
初めて魔法を使った時はどうだっただろう。ゆっくりと記憶を探る。仮面で顔を隠した女子生徒に襲われ、自衛のために魔法を使った。思い出すも何も、ただそれだけだ。
「ダメだ、わかんね」
久炉は大きく息を吐き出した。魔法を初めて使った時は、大まかに魔法がどのように発動するかがわかり、その時点で当たり前のように使用していた覚えがある。
「では、話題を少し変えますが」
まだ何かあるのかよと言いたげな久炉の視線をよそに、神奈は鞄から緑茶の半分ほど入ったペットボトルを取り出し、中身を一口飲むとまた鞄に戻した。
「この学校のシステムについてどう思いますか?」
「んー、それは、なんていうか……。やたら閉鎖的なのが気になるかな。あと、こんなポイント制とかもおかしいと思うな。なんで学校側が魔法管理するどころか争い促すのって」
「おお、やはり疑問を抱かれていましたか」
「いや、誰だって変だと思うぞ? うん。危ないしな。あと普通の高校が敷地から生徒を出さないなんてさすがにやりすぎだろって」
神奈はまた、笑みを浮かべて数度頷くと、体を起こし、腕を組んで視線を下げる。そして一分ほど何かを思考していた。
「あなた以外に学校のシステムの疑問点を話している人はいますか」
「え? ああ……特に話してないかな……?」
記憶を漁る。覚えている限りでは他の生徒とはそのような話題にはなっていない。生徒会の仕事が立て込んでいたことでその件は意識の外にあった。
神奈は少し頷くと、他の役員もなのかと尋ねる。しかし、久炉の答えは変わらない。そのような話題があれば多少なりとも記憶に残っているだろう。
「なるほど。あなたの知っている限りではあなた以外の人は特に気にかけていないということですね」
「いや、気にかけてないこともないんじゃないか? 単に口に出さないだけでさ」
「本当にそう言えるのでしょうか。もしかしたら、気にかけてすらいないという可能性もありますが?」




