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Synthetic School  作者: 南雲 楼
一章 魔法学園、非日常
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4 私立白磁学園

「それにしても……よく生きてたね」


 第二保健室にて。花火は苦笑いしつつ呟いた。記憶に蘇るのは仮面の少女ではなく、自身が起こした爆発の事だ。敵の爆発にばかり気を取られていたが、まさか自分が爆発を起こすとは思ってもいなかった。


 被害はかなり大きく、倉庫室中に爆風が吹き荒れた。その結果、清掃道具が並べられた棚が倒れ、仮面の女子生徒を下敷きにしてしまった。幸い命に別状はなく、気を失っただけだったようだ。彼女は現在、第一保健室で寝ているらしい。


 彼女は現場に駆け付けた教員の配慮で、再びの戦闘が起きないように別の保健室に搬送された。二つの保健室という存在が入学式翌日に役に立ってしまう結果となった。



「おう、マジ死んだと思ったわ……」


 久炉は爆発で乱れた髪を手櫛で直しながら呟いた。思い出すだけで体が痛い。だが、幸いにも巻き上げられた破片で頬を切っただけで済んだ。

 花火に関しては少し離れたところにいたため、爆発には巻き込まれていない。運には感謝してもしきれない。


「ああ、まだあんたら腕輪の詳しい効果聞いてないんだっけ」


 第二保健室担当となっている養護教諭の柴田(しばた)由佳(ゆか)が口を挟んだ。見た目は二十代位だが、実年齢はもっと上だろう。初対面で年齢を聞く勇気はない。柴田は久炉と花火の視線が自分に集まっていることを確認すると、手近な椅子に腰を下した。



「あんたら生徒や私ら職員がつけてるこの腕輪には魔法を使う能力が持てるだけじゃなくて、防御効果があるんだよね」


 柴田は左手を軽く挙げ、手首に嵌った黒い腕輪を示した。自身の左手首に目を落とす。手錠のようにはめ込まれた銀色の腕輪。教職員と生徒の腕輪の色は違うようだ。


 腕輪と腕との間に多少のゆとりはあるものの、自力では外せそうにない。側面には校章をベースにした紋様が掘り込まれている。

内側には学籍番号が刻まれているが外側から確認することは難しい。


 それだけならばアクセサリと呼んでも違和感のないデザインの腕輪だが、一部だけ硬いガラスがはめ込まれている。その奥にあるのは白磁色の鉱石。学園の名前と同じ色――おそらく象徴的な扱いの物だろう。


この腕輪をはめていることで“魔法”が使えるようになる。



「腕輪の防御効果っていうのは、衝撃や爆風から身を守ってくれる効果ね。だからこれをつけているだけで多少のことは防げるってわけ。誰かから向けられた魔法とかね。……まあ、この腕輪が無かったら多分あんた死んでたよ。運が良くて重傷かな」


 もちろん、と柴田は言葉を続ける。防ぐことができるのは、あくまで“多少”であって大きな魔法や事故の衝撃は防ぎきることができない。また、面の衝撃は防ぎやすいが、線や点の衝撃は防ぎにくい。


 なるほど、と久炉は自身の右頬に触れる。マスク越しに先程の傷の上に貼られた絆創膏の感触がある。飛んできた破片は線か点の衝撃であるため、傷ができたのだろう。

 もしも防御効果が無ければ頬の肉が無くなっていた可能性があるのか。……いや、爆風の衝撃で全身を根こそぎ持っていかれた可能性の方が高いかもしれない。

 背筋に冷たい物が走る。


「あ、腕輪をつけている人の身に着けている物にも防御効果は作用するから。だからその服、あまり破れたりしてないでしょ? 全部魔法の力」


 着用している学校指定のジャージに視線を落とす。小さな穴が開いてしまったが、他の損傷は少ない。


 魔法ってのは何でもアリなようだ。入学式後の説明会でいろいろと聞いていたが、予想以上に多様性がある。



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