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怖ろしい生き物



   6



 白いガードレールが、血液のような赤に染められていた。

 数台のパトカーと一台の車が、ガードレールの前に止められている。パトカーは警戒心を煽る赤色灯を回転させているが、このあたりには警察以外、誰もいない。その虚しさはサイレンが鳴っていないため、さらに倍増していた。

 深山はガードレールに腰掛け、落ち着かなさそうに片足を踏みならしていたが、林の薄闇から溝上が出てくるのを見つけると、主人の帰りを待つ犬のように彼のもとに駆けつけた。

「……どうでした?」

 溝上は白い手袋を外しながら、悔しそうに首を振った。

「遅かった。手遅れだったよ」

「そうですか……」

「脱走者はいまだ逃走中。そう本部に連絡してくれ」

 溝上は手近な制服警官を捕まえて、そう伝えた。

 目頭を指で押さえる溝上に、深山がタバコを差し出しながら言った。

「しかし怖ろしい女ですね」

「いつの時代も女は怖ろしい生き物だよ」

 溝上はタバコをうまそうに吸い込んだ。

 深山が助手席のドアを開いて、溝上を招き入れる。軽く頭を下げて溝上は車内に乗り込んだ。

 深山が運転席に座り、シートベルトを胴体にくくりつけながら溜息を吐く。

「まったく……おそろしくタチの悪い異常者っすね。自分に特殊な能力があると信じ切っているんですから……」

「ああ……」

 溝上は疲れ切ったように頷いた。「思いこみというやつは、本当におそろしい」



 ひとけのない波止場で、翔子は車を止めた。

 たゆんだ海が闇を飲み込み、目の前に広がっている。波の音だけの世界、光のない世界、そして人のない世界。

 車を降りると、心地よい潮風が髪をなびかせて通り去った。

 やはり人混みは苦手だ。雑踏にまみれると、あの声が聞こえてくるから。聞きたくもない醜い声が、わたしを苛むから。

 翔子は長い髪を掻き上げた。ぬめりとした感触があった。手のひらを見ると、指先に乾ききっていない血が付着していた。それを見て、ついさっき自分が人を殺したのだと思い出す。

 とりあえず、逃げなければ……。

 何も刺激のない、あの狭い部屋には、もう、戻りたくない。

 逃げなきゃ。



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