少年少女たちよ、大志を抱け
なんとか、ここまで辿り着きました。
えっと、更新頻度が酷く遅くなってばかり、仕事に託けて続けて小説をかける時間を作らないから、一行に読んでもらえる機会もないのに。
これは西園寺絢音の物語。
学校を革命する為に、最低6人のメンバーと場所が必要になる。
人員については、生徒会候補としての名前が広く知られていること。それと同じ志があることが最低条件だと思う。
紫陽花の花がより艷やかに感じられたのは、早朝に降った雨の影響だろうか。
6月の水無月には『梅雨で天の水がなくなる月』『田植で水が必要になる月』とかいわれている。
そういった本質の解釈と相違しながら、近所で蜜柑の花が咲いていた光景をふと脳裏から思い出した。
「随分、今日は寒いわね」
衣替えだということを家の玄関寸前で発覚し、お陰様で冬服を急いで脱ぎ捨てクローゼットから夏服を引っ張りだしたのだが1年前と違って少し窮屈になった制服に袖を通す。
そうして、外の空気を一呼吸吸ってから第一声。
学校帰りに柚子の香りのする入浴剤でも近くの雑貨店で購入しようと、鳥肌が立つくらい寒さを感覚的に感じていた。
外は、多分そんな心情を察してか酷く冷たい向かい風に青紫色の紫陽花が揺れて雨粒が滴る光景。青々とした6月の桜の並木道を遠くで展望。
ブレザーに着慣れたからか余計に寒く感覚に囚われたなびく髪を手で押さえ、西園寺家の戸口の鍵を閉めつつ人を待たせているので足早に動き出す。
この付近に駅が近いため、色々な人を見かけた。学生がふざけ合いながら、家の前の路地を歩いていく姿。
私は不意にストラップシューズのつま先でコンクリートを蹴った足に合わせ、無理やりにやる気を出しつつその彼らに聞き耳立てた。
「昨日テレビでガッチャマン特集やっていたぞ」
「まぢかよ、最近リニューアルとかいうけど俺ら全然知らない世代だろう」
「それがリニューアルしたみたいだよ」
学生の服装からして、中学生なのかもしれないが一瞬の出来事で指定された鞄の色と統一された学ラン姿から推測する。
短い髪、部活動で必要になる大きな手提げバックはきっと運動部のものだろうと些細な考察し、数分間。
そうしているとサラリーマンの忙しそうな姿で走り歩きに過ぎ去る。この時間からしてまだ会社はやっていないし、商業交渉のための外交周りだろう。
朝から疲れ切った顔が社外営業というのもその徒労も、家族を養う為という名目で頑張る大人の表情は晴れやかなものではなかった。
「大人って大変だわ」
少し出遅れながらも10分足らずで駅に到着し、正面には通勤客を乗せて賑わいをみせ、周辺の車は渋滞を期していた。
駅、というよりも外観はかなり白一色の統一感のあるビルで、朝の通勤ラッシュ時間帯を除けば、のどかさえ自然を与えてくれる緑木とした木々。
駅北口交番では、缶コーヒーを片手に欠伸をした警察官が陰鬱さを紛らわすように虚ろな表情。
どうやら、この人の多さでは対応しきれないのだとふてくされ顔をした新任の警官なのだろ。
それを隣で新聞片手に全くといっていいほど気にしていない上司は、どうやら競馬に夢中のようだ。
「三鷹駅は交通機関の充実度はいいけど、人が多いのが難点よね」
その中を掻き分けて、なんとか駅の改札口を抜ければやはり人ごみで。
今の新宿はとてもではないが、立ち止まってしまう程の停滞気味な混み具合に歩幅が小さくなる。
そうして駅のホームへとようやく足を進み、5番ホームの中央に設置してある硬いベンチで一人座って私が来る事を待っていてくれていたようだ。
毎日律儀に私が到着する時刻より、30分も早く来ている。
その肩にまで伸びた髪、ロマンスグレーという白髪に少し黒髪が残るそんな特有の髪色にやや茶色が残っているウェーブのかかった白銀にカラーのつなぎにトーンと色味のグラデーション。
身長は私よりも低く、北欧と日系のクォーターであるためか誰よりも視線を惹きやすい。
穏やかな性格もあってか、妙に人に好かれやすいタイプで人に配慮する余裕もないくらい私が彼女だけが唯一人の理解者であった。
目にした時のハイライトがより輝いてまじまじと、鮮やかに彩るジャスミンの花に似た瞳がこちらを凝視。
「おはよう、アヤネ」
その顔が朝陽に照らされて眩しさを憶え、そんな私を温かく迎え入れてくれる。
疑うことを知らない、純心無垢できょとんとした面様に熱っぽいのか時より頬を染めていた。
「おはよう、鈴蘭。風邪はもう平気なの?」
尽かさず私は鞄の中から500mlのスポーツ飲料を取り出しながら、自分の買ってきたミルクティーでないことを確認しながら、病み上がりだからと手渡すと鈴蘭はにっこりと微笑んで蓋を開けて一口。
ホームの混雑も人通りも激しいので、鈴蘭の体調も踏まえ次の電車には乗り過ごす。
その間の会話は酷く、とても和むものではなかつた。
会長候補になって、一番真っ先に喜んでくれた彼女に解任された事実もそうせざるを得ない状況も。
「うん、昨日休んだからもうヘイキだよ」
語尾が片言の日本語を、まだ日本にきて3年。慣れない国、見慣れない光景に未だ環境に適用することが難しいのだと。
胸を撫で下ろした様子を見て、安心しきったのだろう。
「良かった」
ただ、その言葉でしか喉を通らなかった。
「昨日時点で、私は生徒会候補をクビになったわ。辞めさせられるのは覚悟の上だったから」
冷静に、自分でもびっくりするくらいに。
伝えなきゃいけないと思うと、彼女への焦点を合わせられないのではないだろうかと思う程。
「そうか、でもアヤネが決めたことだから」
今までただひたすらに自分が頂点に登りつめることしか考えていなかったからか、それとも友達への罪悪感かどちからなんてわかりもしなかった。
だけど、
「今日のアヤネは、いつもよりスッキリした顔シテイル」
隣にいた鈴蘭はどことなく私に対し感受したのか、口元が緩んでいる。
「そうね。もう生徒会の重圧がないと思うと清爽とした気持ちになれるからかしら」
本音を交えて、その屈託の無い笑顔につられて私も笑った。
「茶道部は、皆なかなか理解シテモラエナイ。中々新入部員を集める事は難しい」
「まだ部員0だったわね」
茶道部というだけあって、最近の学生には嫌厭されがち。それも去年いた先輩が卒業してしまったので、今は部長である鈴蘭しか部員がいない状況。
厳密に部員一人ではあるが、先輩の功績もあり生徒会としては目を瞑る形で暗黙の了解があるらしい。
「仕方ないデス。ポスターで呼びかけはしているのですが、アヤネにお願いがあります。新入部員が欲しいデス。最低一人でもいいので、お手伝いして」
「…ええ。その代わり物置として使っている部屋を1つ私に使わせて欲しい。これは友達としてじゃなくて、西園寺絢音としてお願いしたい」
お互いの利害が一致したのだろう、鈴蘭は私の顔を向き合った。
幸い、以前生徒会候補としての名前が広く広まっているのだ。広報活動等で幾つか有力な人材がいるわけだし。
なによりも、友達として彼女の役に立てることが誇らしかったからだ。
所詮、アマチュアといえばそうなんだよね。
簡単に、プロになるなんて思って必死にもなれない自分は。
多分ずっとこのままなんだろうね。