You have my word 3
不定期ですみません(* ̄□ ̄*;
とりあえず、書き纏めておいたのだけでも更新します。
本日ハ晴天ナリ……。
西園寺絢音にとって、その早朝は既に予測していた結果に掴めない雲へ手を伸ばす。
梅雨の気配に、今日の天気はそれを紛らわすように晴天を色鮮やかな情景を描く。
昨日の雨が嘘のようだ。
ガラス張りのビルには彩色鮮やかな雲に爽やかな蒼に包まれ、通勤者の人たちが自転車でさっそうと駆け抜ける。
高気圧に覆われ、おおむね晴天が続くが翌日からは曇りらしい。
携帯端末から表示された天気ではどうやら、爽快感を一層するには些か足りなかった。
だが、この空はなにか陰鬱さを紛らわしてくれる。
何処を見渡しても、青色がまるでキャンバスに一面塗った鮮明さ。
「はぁ」
嘆声をつく私を他所に、歩道橋から歩く通行人はあまり見向きもしない。
元々犠牲等払っていたのだから、より確定事項に対してなんて疑念すら持たないのだと。学校へ登校する時も、お気に入りの傘を忍ばせる際に昨日の出来事を脳裏から蘇らせた。
「一ノ瀬くん、」
あの時のお気に入りの傘を見つけて、そして迷っていた私を導いてくれたもの。
そう思うだけで足の重さは軽減したのだと、踏み出す一歩は決して明朗とはしなかったけど。
降りだす筈もない雨を期待していた私を待ち構えたのは、生徒会員数人。
「お待ちしておりました」
「随分と有名人になったものだわ。まさか生徒会役員様にこんなところまでお出迎えされる日が来るなんて」
冗談半分に、にこやかでもない雰囲気に横槍を入れるのだが、反応されることなく、
「生徒会長がお待ちです」
ただ、憤慨していることは確かのよう。
なぜならば、期待を裏切ったのだから、当然の報いなのか。
「態々ここまでご足労頂かなくても、私は逃げるつもりはないわ」
「それは廉潔とした判断だと思います」
取り囲まれながら、逃げ場のない状況を嘆息とする私は諦めついでに
「わかったわ」
息吹く気持ちを抑えながら、彼らと共に学校の路地へ進んだ。
空は蒼天とした天気なのに、心ではこんなに曇るのだろうと少し遠くを見ながら。
気がつけば、生徒会長候補という肩書欲しさに自分が上を目指していたのかと慢心していた自分がとても馬鹿らしく感じた。
一人の生徒も救えない、いや多分救えたはずの生徒すら救おうとしない生徒会。
『わたしのような人がこれ以上増えないために、優しい学校に変えてほしい』
あの子の約束だから。私はこのふざけた学校を、生徒会そのものを木っ端微塵に破壊しなきゃいけない。
臆病で、弱い自分がきっと他人にはせせら笑われるだろうけど。
そうして生徒会室へと到着すれば、案の定が待ちかねていた様子で多数の生徒会員が配列通りに着席していた。
「やあ、人へ敬意を払うことを僕はモットーとしてきたのだが、君にはまさか失望することになるとはね。西園寺絢音さん」
部屋は、無機質。いや、監獄と言ってもいい。
整頓されたホワイトボードには、各クラスへの処罰対象の言及。発言権は総て会長に委ねられている統制された空間。
冊子には鋼鉄製の牢獄風鉄格子ブラインドに、勾留された被疑者・被告人を収容する施設のような気分にさせる。
真っ白な長机が、対面された配置とはべつに特権とした席に一人深々と椅子に座る人物。
それは疑いの余地はない特別高等人の生徒会長だ。
「そうかしら? 私には敬意なんて払われた行為を一度も目の当たりにしたことはなかったわ」
「君は我が高校のイメージを低下させる越権行為だ。当然処罰については分かっていると思うが」
「皮肉ね、組織も制度も腐敗する。個人の私利私欲が時間の経過とともに当初の意図が見失われ,かえって組織や制度が,活力ある集団活動を阻害する垣根や壁となるなんて」
「口を慎んで欲しいものだな。元生徒会長候補とはいえ、現生徒会長である僕に楯突くとは」
「ただの独り言よ。それに私の行動が組織上の規範・秩序を乱す行為であるとは思ってもいないわ」
「どちらにせよ今日付けで君は生徒会から追放だ。まだこの学校の生徒でいられることがせめてもの情けだと思ってもらいたい」
憤怒を抑えて、生徒会長は要件が済んだのだと咎人を処分するような目付きに、その言葉を発する。
「ええ、感謝しないといけないかしら。ではまたいずれ」
私は罪悪視などされながらも一旦はその場所をあとにし、クラスに戻れば私の居場所はとっくの前に消え去るのだった。
放課後の夕日のせせらぎが、聞こえもしない鈴虫の声を幻聴させた。
情景とした、黄昏の空は微かに赤みに染まり夏の手前耳を澄ませる音。
橙色の中に西に沈む地平線に、飾りもしない言葉が途切れていた気持ちを繋ぎ止める。
ずっとずっと遠くの太陽が沈むのを見て、ただ感嘆と橙色の景観は眺望とした私が今朝の事象を忘れさせてくれるよう。
「夕凪かしら」
1分でも、10分でも、待ち遠しいと其処にやって来る彼はいつ声を掛けてくれるのだろうと心臓の鼓動が早くなった。
「一ノ瀬くんにお弁当美味しいって」
本当バカみたいにただ臆病な自分を嘘なくらい褒め称えてしまいたくなるほど。
その光景とは裏腹にこんなにも高揚した気持ちを抑え心躍る自分が恥ずかしくなるのだ。
もしも、彼に頼りきってしまう自分の弱さが露呈してしまうならば彼は一体どういう反応をするのだろうか。
「ほんとうに、浮かれている自分が恥ずかしいわ」
高架橋を抜ける自動車が吸い込まれるように、欠けていく夕焼けに彩度を同化させていく。
何もない、無風に地平線の波はピクリとも動くことはない。
私は誰もいない自分の教室に、机と向き合い解任通知書を綺麗に半分に折り目をつけて、小さく折り目をつけた目印に三角形にし、更に先端を鋭く折り込み紙飛行機の形にしたそれを鞄から取り出した。
「でも嬉しかったよ。傘の時も、学校へ連れて行ってくれたことも。打ち明けられたことも、だから」
一歩一歩噛み締めて、目標は届くことのない地平線彼方。
ストロークを描くように手を離しそこから微かな追い風が後押しをしてくる最中、私は飛ばした。
勢いを付いた紙飛行機は普段舞い上がることが不可能な高度まで上がり、仰ぐ素振りと太陽に乱反射した紙飛行機は地平線へ消えていく。
遠くなるそれを眺めて、
「今飛ばした紙飛行機は、もしかして重要な書類とかじゃないよな?」
屋上入り口のドアから顔を出すと同時に彼の声。
「もしかして、見ていたの?」
「ああ、バッチリ見ていた」
「そう? いいの。もう必要のない書類だから」
お盆休み終われば、膨大な仕事。
趣味の時間なんてないし、忙しいの嬉しいのか悲しいのか。