You have my word 2
キャラの会話シーンがかなり長いため、だれてしまう可能性があります。
それでもよければ読んでみて下さい。
それと、総合評価ありがとうございました。へっぽこな小説でも誰かに読んでもらえて幸いです。
屋上のテラスは、普段から天気の良い日には絶好の場所だった。
身分も、階級も、クラスも関係ない場所。Dクラスが行ける場所はそうそう限られている。
特に、俺のような人間が落ち着ける場所など此処しか無い。
「初めて、屋上のテラスへ行くわ」
「そうだろうね。今は利用している人間は殆どいないから」
「では、さしずめ秘密の場所といったところかしら」
「そんな大層な場所でもないよ。ただ屋上の自動販売機と庭園と木陰に座れる場所があるくらい」
屋上の扉を空けて、一面に開けた世界は遠望。
景色は最高に格別だ。特に群像とした名高いビルや有名な会社の建てた施設。上下ノ2層構造になった吊り橋は、開通してもう何年も経ったが東京臨海新交通が走行する光景を目にして、名所である吊り橋が今日も視界に入る。
俯瞰から仰望へと変えれば、高名としたホテル日航東京がそこにある。台場駅直結で、羽田空港から15分。
天気も多少雲が出てきたくらいで、好晴で穏やかな気候に長い階段の疲労感を忘れさせてくれた。
整備された苑地と、ひっそりと佇む小洒落た机と椅子が2つ。
「すごいわ、こんな場所があるなんて」
腰掛けるように椅子を引き、彼女の横顔を間近で凝視。
長い黒髪と綺麗な輪郭と整った鼻立ちが、知らない人がいたら一瞬振り向いてしまいたくなるほどに美人といって過言じゃなかった。
背筋がまっすぐ伸び凛とした姿をして周囲を惹かせ、それでいて本人は無自覚にもきょとんとした目。
生徒会長候補として貼りだされた顔写真は、誰も寄せ付けることのない冷淡さと気高さが存在していたけど、今の形相とは全くといっていいくらいに相違している。
「1つ得した気分になっただろう。天気が良ければ俺のお気に入りだよ」
「ありがとう。我儘を聞いてくれて」
「そんなことないよ」
彼女の透き通るような澄んだ紫色の瞳から視線がこちらに向けられた。
椅子に腰掛けて、その瞳に映る自分が酷く対比して純粋さをなくし濁っているのだから。
その言詞とした謝礼の言葉に、何故か動揺してしまった。
「私も、学校の階級制度なんてなくなればいいと思っているわ。だってそうすれば一ノ瀬くんに迷惑をかけないで済むから」
「そうか。でも俺からしてみればSクラスなんてこの学校の頂点なのだろう。気に食わないと思えば教師まで解雇できるとか出来ないとか」
布に包まれて渡された弁当箱を広げ、とりあえず軽く確認してみようと思う。
弁当箱自体の外観は、とても可愛いらしい人気のゆるキャラ。
女子高生には歳相応には見えないファンシーさにすこし呆気に囚われていながらも、弁当箱の蓋を開ければ、中身はゆるキャラをモチーフにしたキャラ弁当だった。
「それはあくまで生徒会の関係者でごく一部よ。それに階級制度が無ければ格差もなくなるわ。そうすれば一ノ瀬くんとも気軽にこうして向い合ってお弁当を食べる事も自然に当たり前になれると思うの」
「確かにそう思うけど。でも感謝すべきなのは俺の方だと思う」
「うんん、それにお弁当というものを誰かの為に作ったのはこれが初めてだから」
とはいえ、いきなり直球でキャラ弁当ですかこの人は。
しかもびっくりするくらい可愛いし。食べてしまうのだからここまで拘らなくてもいいだろう。
それぞれのパーツにカニカマで頬を作り、口目、眉毛はチーズで細部にまでゆるキャラそっくりにつくってあるわけだが。
幾つか好みに合わせるようにタコさんウインナーや、唐揚げ、卵焼きなど。
弁当箱の大きさを考えて工夫されているところは、かなり手の込んだ弁当であることは見受けられる。
「ありがとう。というか、俺が寧ろ等価交換方式に根底から釣り合ってないと思うのだけど。もしかしてこの弁当作るのに相当時間を掛けていませんか? 西園寺さん」
「2つで40分よ。もしかしてゆるキャラは嫌いだったかしら?」
何故だろう、しょんぼりとする西園寺さんに、
「きらいじゃないけど、熊本県庁の公式ゆるキャラだし。そうじゃなくて、ここまで時間と労力を掛けて作ってもらったけど、もっと自分の信頼における人物や友達に作ってあげるべきだろう。昨日出会ったばかりの人間にここまでしてもらえるのは嬉しいけど」
取り出した弁当の箸を掴み、とりあえずフォローしてみた。
「……教室に帰っても、今はきっと居場所がないわ」
「そっか、俺もごめん。無神経だった」
いいわ、と彼女が弁当のおかずの唐揚げを箸で一つ摘み取り、美味しそうに召し上がる。
とはいえ、昼休みが長いかもしれないが、悠長にのんびりするわけにはいかなかった。
「一ノ瀬くんは人に気を使い過ぎよ。もし私の事Sクラスだから謙遜しているのならば普通にクラスメイトみたいに扱って構わないわ」
「謙遜とかより、階級が天と地の差だから俺は」
知り合って日が浅い、いやまだ昨日知り合ったばかり。
「じゃあ、こうしましょう。今から私は一ノ瀬くんとは六次の隔たりのような知り合いだとおもえば階級の差なんてなくせるわ」
「すこし、強引過ぎないか。それに人は自分の知り合いを6人以上介すと世界中の人々と間接的な知り合いになることができる仮設だろう」
「強引でも構わないわ。それとも私を極度のメンヘラ女だと思えばいい。自傷癖や承認欲求や感情的欠如とか」
細目にして、自分を一言で纏めるならばその言葉ですっぱりと言い切る彼女。
「西園寺さん、それは唐突過ぎるって。普通自分をメンヘラ女とは言わないだろう」
「……そうかしら?」
いや、そこを疑問形でぶつけられても困るのだが。
「はぁ、メンヘラ女はともかく西園寺さんは律儀なのはよくわかったよ」
食べるのも惜しいが、おにぎりであるゆるキャラを口に咥えて、俺は深々と深呼吸。
それにしても、普段弁当でも作っているのだろうか。
改めてこれほどの弁当を40分と作るくらいの腕前なのだから、きっと料理に長けているのを感じざるを得ない。
「おいしい」
「良かった。その言葉がずっと言われなくて内心ドキドキしていたわ」
撫で下ろすとはこういうのだろうと、彼女も釣られて深く深呼吸していた。
「いつも自分のお弁当は持参しているのか? 弁当の出来栄えがとても凄く上手だから」
「お褒めに預かり光栄です♪」
西園寺さんは恥ずかしがってかはにかみながら、頬を染めつつ持っていた箸を左手に持ち替え右手を添えている。
ぶわっと、円らな瞳がとても印象的に俺は頬張っていたおにぎりを落としそうになるのだった。
弁当を食べ終えて、蓋をしつつ洗って返すべきか西園寺さんに確認しようと、
「弁当はそのままでいいよ、一ノ瀬くん」
「でも、いいのか? してもらってばかりで申し訳ない」
彼女に手渡した弁当は綺麗に包まれて袋へと仕舞われていく。
最後にポツリと西園寺さんは普段より小声で聞こえるように話した。
「一ノ瀬くんが良ければ、またお弁当作ってきてもいいかしら?」
それは、とても嬉しいのだと。
ただ、それを伝えてしまえばそれこそ彼女に対して重荷になってしまうのか内心不安にもなった。
「西園寺さんが、無理しない程度にね」
「うん」
なのに、西園寺さんは嬉しそうに笑っていたのだから気恥ずかしい気持ちと複雑だった。
「西園寺さんみたいな人だったら、異性の男性から好意を寄せられることだってあるだろうに」
「そんなことないわ。Sクラスになって有頂天にも自分が如何にして頂点に君臨したかとか。ひたすら勉強するだけよ。それに話しかけても冷たくあしらわれるだけよ」
「Dクラスとは別世界だな」
「ええ、だから心底羨ましい。高校生活を私だって謳歌したい。勿論私にもSクラスに唯一人の友達がいるし、現実的に無理であることは理解しているわ」
真正面から対向していた彼女が、ぽつりぽつり呟いた。
心寂しげに、まぶたを閉じて在り方をとやかくいうわけでもない。
ただ、自分の気持ちに嘘はつきたくなくて、
「まだ2年生になったばかりだし、まだ出来なかったことだって今からやればいい。自分がそうしたいってことをすればいいんじゃないか? 西園寺さんのすることは間違ってなんかいないのだから。西園寺さんの役に立てるかわからないけど、俺に出来る事はなんでもするよ」
自分なりの励ましをした。
「変な人だよ、一ノ瀬くんは」
それでも寂しさがほんのちょっとでも紛らわせれば、俺はよかった。
「よく言われる」
「ありがとう。一ノ瀬くんに打ち明けられてよかった」
席から腰を上げて、液晶端末を左手の学生服の内ポケットから取り出して時間を確認している。
どうやら時間も残り少ないのだろう。
「放課後、もし良かったらここで待っている。西園寺さんが良ければだけど」
「私も、必ず行くわ」
別れ間際に言葉だけが交差して、俺は彼女の味方にでもなりたかったのか。先に屋上をあとにして振り返ることもせずに。
ただ、これでよかったのだと自分に納得できたのだろうか。
お盆休みだぁと張り切ってプール、海にでも行くわけじゃありません。
ああ、どうでもいい話ですが、気晴らしに地元の映画館でパシフィック・リムを見て来ました。友達に勧められてでしたが、ロボ臭い所はとてもおもしろかったです。