You have my word
げっ、仕事の忙しさに合間にやろと思ったら一ヶ月(´;ω;`)ブワッ
というか、遊んでいたわけじゃないのに暇もないのが辛い。
とはいえ、仕事を辞めてまでやることじゃないしなぁ。
世界は負けて脱落すれば、競争社会が嫌なくらいによく見えていく。
それは、17年間に生きた中での結論で人を憎むことや騙すことを生き甲斐に生きている人間が案外多いことだ。
ならば敗者に、栄光はあるのだろうか。そして、勝者は本当にこの世界に価値がある存在なのだろうか?
Dクラスと呼ばれるここは、帝都大付属高校における最底辺。
俺は脱落者の中一人窓の外を物思いにふけ、翌朝の天気は昨日に比べ降水確率は30%未満で嘘のように晴れ渡っていた。
一ノ瀬太一にとって昨日の出来事から1日が過ぎ停滞気味の気持ちとは裏腹に、微かな湿気が頬を寄せそれは梅雨の特有のジメジメ感というやつだ。
昨日の西園寺さんと別れ帰り間際に見せた表情を何度思い返しても決して明るいものではなかった。
「晴れときどきお天気雨か」
何故そこまで気にかけたのは、今日早朝に西園寺絢音が生徒会室へ呼び出されることを知って、俺はただこうして窓の外を眺めるしかできず、彼女に何もしてやれない。それが、とても心底悔しかった。
「どうした? 太一にしては珍しく感傷に浸るなんて」
「悪かったな。考え事だよ、優作」
親友に声をかけられて、模索していた気分を切り替えて彼に視線を向けた。
「今年も梅雨が入りやがって、俺のバイトは梅雨になると多忙しになるからな」
「優作のバイトって、たしか配達だったよな」
「ああ、有名なピザ屋でお陰にこの時期は懐も身も心も温かいわけだけど。なんせこの学校鬼畜高校だから、Dクラスというだけで問題起こせば直行便で停学コースだ」
そう言う遠野優作という人物は少なからず俺の親友だ。
同じDクラス。気さくな奴でよくクラスメイトからは優作と呼ばれ金髪に染めた髪と校則違反のピアスを右耳につけて、隣の席に居座っている。いうなれば、悪友に近い。
見た目上よく不良に間違われるが、実は大の社会奉仕マニア。
よく地区の行事で行われるゴミ拾いや、草取りなど普通のこの時期の学生には無視さえがちではあるが彼はそういった社会的善意とやらに全身全霊を込めている。
「考えてみれば、優作はかなり変わっているよな」
「そうか? 地区の爺ちゃん、婆ちゃん共にはこれでもアイドルだけどな」
これを自信もって言われると返す俺の立場はどうすればいいのかと一人悩む。
教科書を取り出す際不意に、
「ああ、でも彼女は同じマニア同士だよな」
去年の今頃にもそう言った話題をしていたが、優作は他校で彼女がいたことを思い出した。
「ああ、今年で2年目ラブラブだぜ」
「爆発しろ。なんなら小麦粉買ってきてやろうか?」
「冗談ですってば、太一さま」
彼のせせら笑いも他所に、やはり放送は気になっていた。
幸いそれを優作には感づかれることはなかったようだが、内心クラスを抜けだして生徒会室にまで足を運びたい。
「そういえば、今年の生徒会長候補は解任になった噂だぞ。西園寺絢音だっけ」
「本当なのか?」
「ああ、今さっき友人のツテで回っていきた噂だけど。なんせこの学校は他人を蹴落として自分の地位を築くわけだ。誰かが情報を漏らして有利になる立場なんて沢山いると思うぞ」
昨日の事。
学校を変えてしまおうとした彼女の決意も、なにもかもが不条理にも潰える。
自分には到底届くこともない、届く筈もないSクラスのしかも生徒会長候補として名高い地位まであった彼女。
もう多分会うはずもない、それなのに昨日以前の俺だったらなにも感じなかったのだろう。
「その話を詳しく聞かせてもらえないだろうか?」
「太一が珍しいな。ここまで関心的なのは」
「気になっただけだ」
そう言って、優作は小型端末を開き、情報はどうやらインスタントメッセンジャーを通じて配信されたものだ。
具体的な内容は先程に告知されたとおり。
どうやら生徒会室内の掻い摘んだ内容だったものだが、これが正しければ彼女の行動には内通者がいたようだ。
彼女の昨日無断で他校へと謝罪がわが校のイメージを著しく低下するのだとした。その口実が彼女を現行退任へと追い込む形となったよう。
巻末を毒づく著者がいるならば、これは彼女にとって悲劇極まりないのだろうか。
それを知った俺は、再び机に突っ伏しながら深く深呼吸。
「これが西園寺さんのいう微々たるものかよ」
「? 太一、なに言っているのだかさっぱりわからんぞ」
「いいよ、知らなくて。それよりも、授業そろそろだろう」
教室内は、授業開始のチャイムを合図に瞬く間に静まる。
自分の座席に戻り、ひたすらに授業が始まる。
教科書を真面目に開くクラスメイト。無機質な黒板には一文字たりとも書くことはない。
最底辺のクラスだから、教科書を読むだけの適当な教師を誰も責めたりするわけでもなく。
何故、学校にこんなカースト制度なんてものを制定したのかと愚痴にも近い気持ちとやはり昨日の出来事が渦巻いていた。
「ん、」
それから授業のチャイムが鳴り終わるまでの50分。
真面目に教科書と睨めっこしつつ、お昼の時間まであまりにも時間が短く感じた。
そして、不意に廊下から誰かを呼ぶ声が聞こえ振り返る。
情報の中心にいたSクラスの西園寺さんが、最下層の教室までやってきて出入り口付近に誰かを待っていた。
「一ノ瀬太一くんはこのクラスにおられるかしら?」
面識は殆どないが、昨日もあってか余計に今朝の生徒会室に呼ばれた事気にかかる。
クラスメイトである女子生徒も、彼女をみた瞬間に態度が急変するほど有名人であったが、
「あ、はいっ。太一。西園寺さんが呼んでいるよ」
まさかこんな所にまでやって来るなどと誰が想像しただろう。
教室内には思わぬイレギュラーに、一斉に平淡と沈黙し始める最中。
「すぐ行くよ。西園寺さん」
俺はいたたまれない気持ちを抑えこみ、教室の出入り口まで重たい足を引きずった。
「長話になってしまうわ。少し場所を変えましょう」
「それなら、屋上のテラスでいいかな?」
「構わないわ。それにしても、クラスメイトには貴方は太一と呼ばれているのね。私も『太一』と呼んでいいかしら?」
いきなり爆弾発言。
「あの、まだ1日しか会っていないので。せめて苗字にしてください」
「くすっ、そうね。では一ノ瀬くんで」
あどけない顔で笑うのだが、とても冷やかされた気分になる。
全くなにを唐突に言うのかと少し身構えるべきなのだろうかと俺は、頭を掻きながら視線を落とした。
どうやら弁当を持ってきている。長話とか言っていたし、俺はポケットに入れた500円硬貨を取り出して、
「俺、購買でパンを買わないと今日お昼持ってきていないから」
彼女にそう告げるのだが、彼女の片手には弁当が2つ丁寧に包みに入れられた袋をぶら下げていた。
「昨日のパンのお礼も兼ねて、一ノ瀬くんの弁当を持参して来たわ。口に合えばだけど」
気にならないのは嘘になるだろうが、想像していたよりも表情が明るく、くぐもる様子もない。
屋上のテラスまでここから階段で上がるが、意外に何回か中学の時に部活で階段を往復していたのを何故か思い出した。
というか、現実に思えないくらい隣に彼女がいることがとても不思議にいてたまらないのだ。
「こんな所で言うのも可笑しいかもしれないけど、でも俺はちゃんと聞きたい。西園寺さんは生徒会長候補を解職させられたって本当なのか?」
足が自然に止まる。
「ええ。本当よ。私だって恨まれる存在だからね」
振り向きざま、背中側に体全体が反り顎をあげて西園寺さんは言葉を発する。
「だったら、尚更」
だが、俺の言葉が途切れて、
「いいの。それでも私なりにこの学校を変えたいの。少なくとも生徒会長候補でなくなったからといって約束を破るつもりはないわ」
たぶん、彼女なりの本心も含まれていたはずだ。
「偉いな、西園寺さんは」
「偉くないよ。だって、一ノ瀬くんだって見知らぬ人間の為に何かしてあげようとした気持ちの方がずっと偉いよ」
そう言いつつ、彼女が登る脚を追いかける形でテラスへと階段から登っていた。
まだ続きます。とりあえず不定期になってしまい申し訳ありません。