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Promenade4

更新が遅くなりました。

今回の話で一応プロローグは終わりです。

前回から1週間以上に渡って更新が不定期になってしまい申し訳ありませんでした。

その一瞬、彼女が友達であることを脳裏に忘れかけてしまっていた自分を恥じた。

彼女はなにも変わっていない、いや変わっていた事さえ気付けない私。

忘却の彼方へ置き去りにしてしまって、今こうして止めようもない感情だけが支配する。

煙草の匂いが染み付いた壁にアルミ製のブラインドには茶色く黄ばみがかった色味。

ホワイトボードには、教員が生徒に為にと態々余白に書き込めるスペースを残し大学の入学時期や、面接の予定表等が乱雑に記され膨大な進路情報の束を背に長机に対面しながら座っていた。

「久しぶりだね、絢音ちゃん」

「……涼奈、ちゃん」

 笑顔を浮かべてみるが、その左目のガーゼで覆う眼帯が頭部も左に包帯を巻き、両頬に傷を隠すために湿布を貼られてそれでも何事もないように振る舞っている健気な姿。

子供の頃に約束さえ守れなくて悔しさに私は涙が自然と頬から流れている。

「ごめんなさい、私は貴女を守る約束をしていたのに」

 俯く私は、あの頃の無邪気な自分を生まれてはじめて呪った。

私の人生初めての友達。交差点で、屈託のない笑顔を浮かべてよく帰り間際に鯛焼きのクリームを半分にしていた時の記憶も鮮やかに奥底に忘れてもいない。

「絢音ちゃん。大丈夫だよ、たしかに怖かったよ。いっぱい殴られて怪我もしたけど、危ない所を先生に助けてもらったから」

「でも、許されるわけじゃないのに」

 塞き止められない想いが、無情にも溢れ出る気持ちとは裏腹に慰められてしまうこの矛盾が彼女の優しさが辛かった。

殆ど泣き寝入りの状態で、警察も動いてはくれない。まして裁判もきっと有利とはいえないし、まして加害者である帝校の生徒の行為が不問になった事実も。

「いいの。わたしは絢音ちゃんに会えたから許す。だって加害者の生徒とは無縁の人なのにここまで会いに来てくれた。それだけで十分」

 それでも彼女はティーカップを私が取りやすい位置へと置き、紅茶をゆっくりそそぎ入れていく。

薫り立つ湯気、まるで優しさをふり注ぐようにミルクを傾けて時間を掛けてゆるやかに模様を描いた。

「……ありがとう」

 ただ、それ以外の言葉を発しようとすれば喉奥で詰まる。

「相変わらず、律儀さに感銘しちゃうよ。わたしだって小学生の時の約束なんて普通の人は覚えてもいないと思う」

「そんなことないよ。だって涼奈ちゃんが私の初めての友達だから」

 本心からだろう、私は心の内側を開き彼女にそう伝えた。

彼女も、

「わたしも、絢音ちゃんが初めての友達で良かったよ」

 おどけてみせている彼女に申し訳なかった為ティーカップを口元へと運び、一口。

「おいしい」

 紅茶そのものの甘みが透き通る。

風味も、気品さえ感じられる程にほのかな茶葉の薫りが鼻をくすぐった。

味の良さもそうだが、淹茶式と従来の方法にしてはシンプルだろうと隣にいた一ノ瀬くんも肯定するほど。

「えへへ、奮発してダージリン最高級のシルバーティップスっていう品目なの。他の先生も嗜んでいるみたいだから、お裾分けしてもらいました」

「なんだか、高級そうね」

 紅茶の種類は詳しくないが、相槌をうちつつも普段から飲み慣れていないから余計に美味しく感じた。

「わたしこそありがとう。もし良かったら、お願いを聞いて貰っていい?」

「また破っちゃうかもしれない。それでも私」

 手にした紅茶を置き、私は俯いた顔をあげる。

一ノ瀬くんはそんな私を横目にして、ただ黙然と絢音ちゃんの視線を拾い静かにティースプーンをカップに沈めた。

「いいの、それでもいいの。わたしのような人がこれ以上増えないために、優しい学校に変えてほしい」

 謝罪ではない、彼女の純粋な願い。

それがとても無謀にしかみえない事も、とても理想論を論じるようなとてもとても現実になんて実現することは不可能だった。

だけど、

「生徒会長になれたなら、可能性はゼロじゃないわ。こういった場合約束を破れば針千本かしら」

 少し突き刺さってくる痛みが抜けた気がして、彼女の願いに答えてみようと思う。

それが、どんなに困難でどんなに辛いものだろうとしても。




次は、生徒会長候補を目指そうとした彼女とそれにおける一ノ瀬くん視点で書こうと思います。

まあ、夢物語には当然現実的な面でのしかかるわけですよ。

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