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Promenade3

今回は前に書こうと思ったキャラクターをゲストに登場させてみました。

とはいっても内容的にも繋がりがあるので、また気が向けばそちらも書いてみたいと思います。


 木の温もりが冷えてしまった体を癒すのではないか、校舎の中は夕刻を過ぎて生徒との賑わいとは別にこの場所はとても静かだった。

来客入口の文字が目立ち、玄関前にはパンジーが所狭しに並べられている。

年期のはいった靴箱と似つかわしくない新品当然のスノコが木目調とした入り口の色は、中に入った瞬間から木の匂いがした。

「一ノ瀬くんは、もし怪我をした子が何年も会っていない自分の小学校の友達だったらどうしますか?」

 校舎の来客用の職員玄関から事務室へと行く途中に、上履きがない為スリッパに履き替えつつ、他愛もない一言。

「どうしただろうか、俺は連絡を取らない時点で友達と呼べるかどうかの方が問題かもしれない」

「そうよね。でも、もしその子が強姦未遂の被害者が同姓同名の友達だったならば」

 だから、こんなに不安な感情が入り交じり、スノコの軋む音だけが、答えにもならなく響いて聞こえた。

「もしかして、被害者って」

「ええ、人生初めての友達と同姓同名だったわ。偶然だって思いたいけど」

 まるで凝りのように不安の塊が取り払えなくて、胸が苦しい。

事務員に案内されながら、入った場所は応接室だろう。

小奇麗にされた室内。目新しいソファ、質感の悪い居心地の悪さは応対した教頭の表情は決して穏やかなものではなかった。

 シックな部屋は、普段から整備が行き届いている。

何点か生徒の作品だろうか、優秀賞に特別な額縁で飾られた作品を背に生徒の賑わいも、ここでは微かな声にしかならない。

数分後、代表として教頭先生が面談に応接室に入るが、

「率直に言わせてもらいますが、あなた達にはモラルという言葉はないのですか? 今回の強姦未遂の少女はまだ登校して1日目。まだ心に傷が残っています。なのに、帝校は警察関係者と癒着して一切の罪を負うこともせず、無関係のあなた達が謝罪に来たと」

 途端に声を張り上げて教頭はどやす。

「はい、」

 馬鹿げていると、教頭は頭ごなしにまるで加害者であるかのように暴言を吐き続ける。

「面会などさせるつもりもありません。元よりもよくここまで来られたものですね。生徒会長候補? 笑わせるわ」

 ただ、ひたすら頭を下げ謝罪した私を横に、一ノ瀬くんはただぎゅっと握り拳をしたまま俯いていた。

被害届を提出するだけでも躊躇する筈だ、だがいざ提出しても事件を公になる事を恐れた帝校はお互いの罪そのものを無かったことにするという。

 それを許せない教頭も正しい。

だから、

「申し訳ありませんでした。このような事を起こしてしまい、帝校代表としてちゃんと生徒にも謝罪したい」

 それでも謝り続けるしかなかった。

教頭は癪に障ったのだろう激怒して、部屋中に響き渡る程にひどい見幕で散らす。

暴言を吐かれても、それでも尚私には耐えるしかなかった。

帝校としてのプライドなんてないのだと、ただひたすらに顔を上げる事はできない私。

それは、一ノ瀬くんも同じ気持ちだったのだろう。

「先程も申し上げましたが会わせるつもりは毛頭ありません。それは断固として曲げるつもりもないですから、お帰り下さい」

 教頭の立場、いや学校の先生としての苛立ちにぶつけられる。

拭い去る汗、大喝とした咎めを叱る等と良くない点を指摘して導くこと。理に裏打ちされた指導といえるだろうか。

根拠さえ危うくなり、無関心な証拠だけが並び単なる怒りのぶつけどころであった。

「うぃーす、教頭。始末書此処に提出しておくので。あと、あんまり怒っているとシワ増えるぞ」

 だが、無作法に教員だろう男性が応接室へと入ってきた。

その格好から、不良というフレーズが正しいと言わんばかりに教師として不適切かつあるまじき姿。

ボサボサの染めたであろう金髪は丁度首筋から肩にまでつくかどうかに、方耳の銀の十字架ピアスが不覚にも輝きを放つ。

咥え煙草にはさすがに学校ということを考慮してか火はついてなかった。

ブランドのサングラスが獲物を捉えるような鋭い目つきと、噛んでいた歯を見せるように不敵な笑み。 

「神崎先生、今なんとおっしゃいましたか?」

「アンタの無関係者の人間にそこまで怒る必要ないだろうが。ていうか大人として恥ずかしいぞ、くそババア。それに涼奈が帝校の生徒に面会したいって言っているのだ」

 煙草に着火させて、汚い言葉で返し文句をついでに加算して彼は教頭を圧倒させ教頭もこれにはたじたじとした態度を取らざるをえないようだ。

「ですが、これは」

「はぁ、あんまり度が過ぎると帝校の生徒に事件を起こされたとき、俺は他の教員に教頭があまりにもしつこく説教していたのを他の教員に言いふらしますよ?」

「神崎先生っ!!」

「怒鳴らるな、煩い。悪いけど、コイツらは生徒指導室へ連れて行くから」

 一貫してとても教師とは思えない態度だが、心折れた教頭なにも反論することもなかったようだ。

呆気にとられる私と、教頭がものすごい勢いで応接室から扉を叩いて不機嫌な面持ちで出て行く姿を目の当たりし、彼はぼやいた。

「こりゃ、また始末書か。何処のワタミとかいう居酒屋会長だよ、400字詰め原稿用紙100枚の反省文とかあれはマジで地獄だから」

「あの、」

「気にするなよ。俺、まだ入って2日目の新任教師だから初日でクビになりかけた問題教師だし」

 言いかけた言葉もなにも不良教師は遮り、ただ私たちの身を案じてくれたのか。いずれにせよ、これで面会出来るのだと思うと胸をなでおろした。

「あ、ありがとうございます」

「いいって、あのくそババアの説教は長いし。こんな所で話すよりも別の場所の方がいいだろう」

 一ノ瀬くんも突拍子もない出来事に、なんとも言えない表情。

「神崎先生、明日解雇通告を教頭から出される可能性は?」

 冷静な一ノ瀬くんに対し、神崎先生はあんまり気にしていない様子。

「そんときゃ、次の就職先を探すから心配するな」

 一ノ瀬くんの右肩を軽く叩きながら、咥え煙草を携帯用灰皿に押し当てて応接室の扉を開けた。

神崎先生と、教頭先生から言われていたのも目にしていたので、多分間違いはないはずだ。

しかし、彼の後ろ姿はとても教師というのには疑問が浮かぶ。

後ろを連なって歩くのだが、

「あ、あの。公務員はスーツ着用の義務とかないのですか?」

 私は、不意に気になったアロハシャツについて尋ねた。

「一応、あるにはあるが。俺はそんな規則を端から守るつもりはねぇよ」

 清々しいほどに、言い切られる。

とても教職員とは思えない発言に、思わず一ノ瀬くんも呆れている素振りをしていた。

「すごい自慢げにいうセリフではないと思いますが」

「うるせー、俺のポリシーはどんなことがあっても貫く」

 なんというか、反面教師というのはこういうことなのだろうと自分で解決してみる。

少なくとも先程よりは足取りは軽く、改めて見回してみると改築工事が済んで間もないのか各所にLEDの電灯を設置。

洗面所にも、自動のセンサー付きの新型だ。

下校時刻ともあれば、廊下には一人も生徒には出くわさなかったのは幸いだった。

「わりぃ。一つ謝っておかなきゃいけないことがある。無我夢中でお前らの学校の生徒全員病院送りにさせた事をきちんと謝罪しておかないと」

「こちらの生徒にだってきちんと非はありますから。それにお互い示談という方向で解決したみたいですし」

 渡り廊下を抜けて、北校舎1階脇に生徒指導室が点在し入り口には優しく読み仮名まで付けてくれる慈悲。

そうして、辿り着く一行を出迎えたのは乱雑とした室内だ。

生徒指導室ともあって、大医学部の資料や就職先の情報。教員としての資料や日本史におけるなにかのレポートが束になっている。

整理整頓はなされていないが、応接室より何故か落ち着いた雰囲気。

雑然と、ほおけていた私を一ノ瀬くんがそっと目線の先に女の子一人で掃除と諸作業の準備をしていた。

「涼奈、帝校の生徒だ」

 神崎先生はそう、彼女を招き寄せて私はそっと顔を合わせる。

痛々しいくらいに、顔と腕には眼帯と包帯が巻かれ視線を合わせればきっと彼女は教頭のように激怒するはずだと。

だけど、

「ごめんなさい、全然片付いてないのに。先生がいきなり呼び出されてびっくりしたよ」

 寧ろ彼女はにこやかに微笑んでいた。


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