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Promenade2

出来ればもう少し早く投稿したかった(* ̄□ ̄*;


 雨粒が更に強くなり、タイル張りの大理石を叩く重低音が身をゆるがせる。

曇天に阻まれた日光がうっすらと顔を出しているものの、この濁った一面の視界にはどうやらお天道様もへこたれるようだ。

青色が夕暮れであると薄いオレンジ基調の色をして、その情景が心に響く。

行客、ほとんど過ぎようとする通行人の中に紛れた私と彼は鉄橋の下の駅から発進した新幹線を他所に、スターバックスからみた光景を体感していたのは相反した。

「傘がないと不便ね」

 近くのコンビニエンスストアまで、歩いて5分。

駅構内からでて目的地には更に遠くなってしまい、彼には申し訳ない気持ちなりそうに私だけ傘を差し彼はその真横で雨に打たれている形姿を罪悪感が芽生えてくる。

罪の意識に苛まれながら彼を並べ歩くわけだから、私は咄嗟に開いた自分の傘に彼を半ば強引に引き入れた。

「一ノ瀬くん、肩濡れている。もう少し私によって構わないから」

「肩にぶつかって歩きがぎこちなくなるだけで」

「風邪を引かれては厄介でしょう? それとも、私では不服かしら」

 思い掛けない時に肩が触れ合う。

ぎこちない、でもなぜかドキドキした感情とそんな至近距離がすぐに体が火照ってしまうのが自分でよくわかった。

冷静を装って、

「相合傘なんて、小学生以来だわ」

 素っ気のない言葉と釈然としない感情が騒ぎ始める。

その足先から、彼が態々自分の小幅のペースに合わせて身長の低い私が無理して傘を持ち上げているのが、すぐにでも見つかって彼は私の手からそっと優しく自分の手に持ち替えながら私に気配りされてしまう。

「ごめんなさい、身長の低い女で」

 気恥ずかしくなった私はそっと俯きざまに、彼に聞こえなさそうに呟く。

かすかな話し声を聞き取ったのだろう、『俺は、初めてだ』と多分彼は空に向かって恥ずかしげに口を開いた。

「小さい頃はなにも考察せず、自然にできた筈なのに今は気恥ずかしいものね」

 余計戸惑いながら、落ち着かない気持ちを紛らわそうと視線を変えた。

商店とした建物が立ち並び、23区内にでも比較的ここは混雑が見受けられない。

疎らな人通りに、たった駅から5分だというのに今まで見た風景とはまた違った物を感じた。

通り沿いの人工的に植えられた紫陽花は、そんな私をどう思ったのだろう?

「一ノ瀬くんはどうして、今日初めて会った人間にも優しくすることが出来るの」

 飾り気の無い私が、遠慮もなしに尋ねる。

彼はあまりにも単刀直入だったからか、困惑した後に思案しつつ唐突な質問。

「今までに西園寺さんは何人の人を救った事がある?」

「私は、わからないわ」

 何故そんな質問をしたのだろう。私は今まで高みを願望とし、固執していた人生において他人とは執着するように自己の利益の対象くらいしかみていなかった。

だから、正直いえば自分が嫌いだ。

 難関大学で多くの合格者を出さなければ競争が激化するなか、より優秀な学生をできるようにするための補習が、更に向上しよりできるようにするものへと変わった。それができない学生は排除、弱者は切り捨てられている。

「虐めをしてきた人間が、人の痛みが分かる人間になれるならどれだけ幸せだろうな。多分俺自身これ以上歪みたくないから、弱者だからこそ他人に優しくしたいのかもしれない」

 くだけて笑ってみせる彼の表情はどことなく、今まで辛い経験をしてきたらからだろうか。

「うんん、でも一ノ瀬くんに救われたわ」

「まだこれからでしょう。西園寺さん」

 目的達成すらできていないのだからと一線を越えた足に再び思い止まらないように。

でも、彼を巻き込んだ事は、きっと心の底では後悔していたのだろう。

 5分位のコンビニエンスストアに10分以上掛けて到着する。

普段から親しみのある名称のそのコンビニは、どうやら雨を予期してか入り口に傘立てを設置し、尚且つ店内にはビニール製の傘が幾つか商品がここにはあったのだ。

 パンプスが雨によって滑りながらも、入り口の自動ドアの聞き慣れた音に中は少し冷房が効いていたのか鳥肌が立つのが自分でもわかった。

店内には雨の影響だろう、学生やサラリーマンで数人と新製品であるワンコイン珈琲に、1番くじでは今期はカピバラさんが目に付く。

改めて一ノ瀬くんの肩の辺りがぐっしょり濡れていたので自分の鞄からハンカチを取り出して彼の胸元に押し当てた。

「それだけ濡れてしまったら、気休め程度かもしれないけど」

「ありがとう、西園寺さん」

 私は財布を取りビニール傘を購入している間。その僅かな時間がとてもなんとも口に出せない感情に、急いで会計を済ませて戻る。

最底である心の後悔を打ち払うように、そうして入り口付近で待っていた彼に足を運びふと顔を見た。

『虐めをしてきた人間が、人の痛みが分かる人間になれるならどれだけ幸せだろうな。多分俺自身これ以上歪みたくないから、弱者だからこそ他人に優しくしたいのかもしれない』

 この言葉が彼の真意ならば、自分はきっと彼とは逆の立場なのだ。

買ったばかりのビニール傘の柄の部分を彼に渡し易いように、手から抜けていくビニール傘が、水滴の付いた部分を払っている。

「そ、そのちゃんとした傘を買えば良かったのに」

「いいよ、コンビニはビニール傘しか取り扱っていないから。それに時間無くなっちゃうだろう」

 自動ドアからすり抜けるようにして出れば、外やはり雨だった。

淡い期待なのか、相合傘でなくなったのが元来と違った気持ちを抱きながら私はその自然音に耳を傾ける。

「一ノ瀬くんは雨好き?」

「好きだよ。特有の匂いとか。昔水溜りを飽きずにずっと見ていられた」

「私は雨が苦手かもしれない」

 雨模様の舗道に降り止むことはない。すれ違うOLは何かの意思を示し先に向かう。

車は赤信号で停止し、通行人の中には高校生とおぼしき制服の女の子。

薄暗くなりはじめた世界、入り交じる傘の回廊に、統一された色はそこには存在しない。鳥のさえずりが、恵みのしぐれと共に謳う。

相合傘をする必要がなくなった為、お互い傘をさして目的地まで距離は救いようがないくらいに会話はなかった。

「雨、止まないね」

 沈黙に耐えられない私が受け答える。

「……この調子だと、夜まで降っていそうだわ」

 そして、些細な会話ですら途切れてしまう。

その歩数も次第に感覚が短くなり、

「Sクラスなんていうけど、そんな人間が会話すらまともに続けられないようでは駄目ね」

 少しばかり弱音を吐いた。

だけど、彼はそんな私にまるで年上のお兄さんのように囁く。

「そんなことない。寧ろSクラスなんて帝都大付属の全校生徒にたった13人しかいない存在だから、もっと人間味のない人ばかりかと思っていた」

 各学年クラスの頂点かもしれない、だけどそんな頂点にいたからこそやるせなく感じていた。

「そうね、一ノ瀬くんの言うとおり人間味はないかもしれないわ。私たちのクラスは機械的にこなしその頂点で高みから見渡すだけ。いずれ国の官僚や総理大臣になる人間ばかりよ」

 もう、その後の言葉が詰る。

その視線には、重くただ彼の顔も見られなくなりそうになって息苦しさに深呼吸。

「いいよ、身分階級が違うことくらい十分承知しているから」

「あの、だから」

 常に他人を蹴落とすだけ、周りの人間を利用し如何に自分の優位に立て都合が悪ければ、切り捨てられる彼の頂点はまるで極論の自己利益だ。

「だから? べつにいいじゃないか。西園寺さんがやりたいということが心配だから勝手に付いてきているだけだよ」

 一ノ瀬くんはそんな私でさえ、異を唱えることせず。

自分の行為に背くことはないのだと、振りかえる彼の背中にお人好しだと声にならない音吐で抗議した。

 首都圏に珍しくもない小さな坂道に柚子の花が一輪咲いているのを見つけ、横目を盗み見るようにしてみる。

五月雨は、オリーブの花の開花にも影響しているのだろう虚ろな空は、灰色一色と同色の勾配の少ない坂道。足取りを態々大股にして彼に迷惑をかけまいと、私は彼の歩行に邪魔にならない程度に距離をおく。

 もう下校時間を過ぎているのか、坂道を下る見慣れぬ制服の生徒の視線が降り注ぐのは当然だった。

「あの学校って、もしかして帝校じゃないのか?」

「おい、やめろ。また揉め事になるぞ」

 逆境に耐えかね足が痛い。

後ろ指指されることくらい分かっていたから、この足の痛みを我慢してでも先に進まなきゃ意味が無い。

だから、無言のまま彼らを横切り振り向けなんてしない。

「西園寺さん?」

「平気だから。少し歩き疲れただけ」

 彼も足の痛みに気がついたのだろう、置いていた距離から自ら近づいてきた。

大丈夫と暗示をかけながら、

「少し休もうか?」

「いい。それよりも時間がないから」

 動き出した足先に、靴擦れが起きて擦りむけて僅かにも彼の声に、余計に挫けそうな私を蹴り倒しつつ動く。

その一歩踏み出した足に、家についたら労ってやろうと。

「西園寺さん、着いたよ」

 そうして登り切った坂から見渡す限り広大なグランドと檜で作られた校舎が広がっていた。



次は5日ペース位を目安に頑張りたいです。

内容としては1話で補足しきれなかった内容と、どうしての理由がわからない部分もあると思うので書き足してみたい。

3話目には実際に被害者と面会して、彼女がどう変わっていくかを書いていきたいと思います。

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