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Promenade

短編小説から、変更です。内容は変更していません。

ヨハン・ゼバスティアン・バッハの『管弦楽組曲第3番』BWV1068の第2楽章「アリア」の、アウグスト・ウィルヘルミによるピアノ伴奏付きのヴァイオリン独奏のための1871年の編曲版の通称。ニ長調からハ長調に移調されており、ヴァイオリンのG線のみで演奏できることに由来する。

「雨だわ。天気予報はここ最近外れてばかりね」

 外の雨は、どうやら紛らわしい程にお天気雨であり梅雨の季節真っ最中。

外観にいる金糸雀と、雨粒の音色が響き渡り少し風が強く吹きつけて教室の窓を叩く。

「梅雨だから雨が降るのは当たり前だろう? 西園寺さん」

 音楽室内で、彼は卑屈そうに私に語る。

「天気予報に文句を言いたいわけじゃないわ。ただ、私は梅雨が苦手なだけよ」

 別に私が一点して雨女であることを認めたくないのだ。

だが、彼はそのことについて疑念でもあるのか首をかしげて、

「そう言っていらっしゃるわりには、傘忘れて雨に打たれながら帰っていたようなきがするけど」

「仕方ないわ。それとも一ノ瀬くんが、私の代わりに傘を貸して頂ければ全くその問題は起こり得なかったわ」

 深く溜息に近い程に、深呼吸をしていた。

「それは俺に雨に濡れろとのことかい?」

「極端ね。私はただ相合傘をしてくれればそれでよかったってことよ」

 恥ずかしみも呆気無く私は彼に曝け出すと、彼は真正面から即答できない事を言うんじゃないと言わんばかりに調整していたヴァイオリンのコードが激しくズレる。

「そういえば、初めて会った日も丁度こんな雨の日だよな」



 あの学校は、何処か変だった。

それは学校のカリキュラムそのものでもあり、それはこの学校では当たり前の事。

絶対的支配制度。社会の基礎をなし、人々の思考や行動の事実上の準則。

 テストの成績や授業態度、素行などよるクラス分配により主観的な階級差別が存在した。

「帝都大付属高校」

 それは、全国で偏差値の首位を獲得し政治家、総理、その他国内のトップクラスの企業がその高校に集結した形で毎年東京大学のみならず京都大学に多数の合格者を出し、私立大学では慶應義塾大学医学部の合格者が多い。

「その生徒が、先日他校の生徒を性暴行未遂で警察に任意同行されたのに。あろうことか罪を罰せられる事はないなんて」

 しかも、相手側の方が悪いと学校の一方的な見解に私は到底理解できなかった。

いや、理解なんてしたくなかったのだと思う。

だから、私は1人で謝罪の言葉を述べる為に学校から無断で被害者に会うことにしたのだ。

「雨ね」

 視界から開けた外観は予想以上に降水量にもなり、道行く人は突然の雨に対して急ぎながらも国際通り信号を青になったことを確認して早歩き。

 曇りがちな空に傘を差し、滴る水滴が降り始めより少し増してきた。

避けるようにして通行する雨合羽の小学生に、サラリーマンはずぶ濡れる事を覚悟して、どうやら急ぎ足。

交差点は、色とりどりの傘に進む人の人間をまるで心を移すように、その色はとても多種多様に存在している。

 その先に、バス停には雨天の為人が列を成していた。

私は、そんな光景をスターバックス・コーヒーからキャラメルマキアートを注文して一呼吸おいてその景色を眺めている。

 店内は少し肌寒いほどに冷房が効いていて、都会ならでは立ちながら時間を過ごす。

注文した商品を受け取り、漸く窓際に到着して流れる人を観察。

 時間は丁度下校時間30分程度、帝都大付属高校からは電車で4駅。駅から大体15分の距離に目的地の高校があった。

「いきなり会っても、本人が不在だったらどうしようか」

 そんな不安も、たった一人で見知らぬ場所に行くことも、顔に出すこともない焦りも振り向き様に自分の傘が盗まれている事に気がついて早5分。

「……不覚だわ」

 妙にキャラメルマキアートが苦いのも、今後自分が傘無しでずぶ濡れ覚悟も、全部気が進むわけがなかった。

「これも天罰かしら」

 手にしたマキアートには氷同士が擦れる音。

生徒会長候補、なんてあの学校では他の誰よりも成績も素行もいいとかそんなのどうでも良くなる。

なら、どうして1人の女の子を傷つけておいて平然としていられるのだろう。

偏差値1位、全国1位の学校のプライドが何よりもどんなことよりも邪魔をしいているのではないのだろうか?

その疑問は、確信にも生徒会役員共から、『寧ろ相手に非がある』とその結論はとても認めたくなかったのだ。

 だから、私は生徒会長候補としてそんな馬鹿げた話があってはいけないと思う。

「はぁ」

 だけど、まさか一瞬の隙に愛用のお気に入りの傘を持っていかれるなんて思いもよらなかった。

それも、5分前の出来事に西園寺絢音は人生における後悔を経験。

「とりあえず、もう5分は居ようかな。雨は止みそうにないけど」

 そうして現実逃避だと、再び視界を外に移そうと戻せば、移り変わるのは、通過する人の姿だけだろうか。

ストローから口に含んだキャラメルマキアートに一口目と、二口目では味が異なるようだ。

 店内を見渡せば、奥にはソファや落ち着ける照明にどうやら長居出来るスペースも幾つかあるのだが、他校の学生に陣取られているため私は正面入口付近にある立ち飲み出来る居場所にいた。

最後に含んだマキアートに飲み干した残りのカップを一瞬最後の一滴まで残っていないか確認して、氷と分別してプラスチック容器をゴミ箱へと投入する。

「仕方ないわ。これ以上此処に時間を潰していても」

 重たい足を引き摺りながらも、そうして店内出入り口のドアを開けた。

やはり外は、冷たい雨が降り止まなかったわけで。

「つめた…」

 肩にポツリと垂れた雨粒が妙に身体を凝らせる。

一瞬で冷えきったのを追い打ちのように、その雨は決して晴れることはなかった。

まるで自分のしようとしていることは無意味だと、そんな風に受け止めてしまいそうになる自分。

 だから、葛藤を振り払うのだと深く息を吐く。

私は濡れる覚悟で一歩を踏み出そうとした時、不意に見慣れた傘が私に差された。

「……これ、駅前に捨てられていたのだが、もしかして貴女のですか?」

 私は、その人の顔を見ようと少し頭を上げると、自分と同じ制服の生徒が私に手を伸ばしていたのだ。

「ありがとう、感謝するわ。お気に入りの傘だったから」

 胸元に付けられた校章と、ストライプのピンズは帝都大付属高校の最低クラスに準ずるDクラスの証。西園寺絢音にとってそれは天と地の差とも言わんばかりな身分階級の根底から覆せる筈もないくらい。

 でも、彼はそんな事は些細であると私に盗まれた傘を手渡す。

「いえ、偶然にも傘を捨てられるのを目撃したので。たぶん持ち主の名前から貴女の顔をみればなんとなくだけど」

「私は、そんな有名人かしら?」

「選挙管理委員会が、生徒会長候補だって学校中にポスターを貼られているから。すみません、敬語には不慣れなもので」

 申し訳なさそうに彼は私に話していたが、雨に打たれた身体と態々こんな私に献身的な態度をとる彼の優しさがとても嬉しくてはにかんだ。

「いいわ。じゃあ、改めて私は西園寺絢音。貴方は?」

「俺は、一ノ瀬太一です」

 彼の名前は聞き覚えがある。Dクラスという負け組にいる一度たりとも勝者にならない出来損ないだと、誰もが嘲笑っていた。

だけど、此処にいるのは敗者なんかでもなんでもない。

「お礼しないといけないわね。えっと、一ノ瀬くん」

「構わないでください。ただ俺は届けただけだから」

 そう言って踵を返し、自分は傘を差すこともせずそのまま店から駅まで向かうのだろうか。

「よかったら新しい傘を買ってあげるわ。少なくとも今濡れるよりはマシだと思う」

「気持ちだけで十分だよ。俺だって駅から15分くらいに走れば」

 背中を止め、傘の骨が壊れていないか確認し広げてみた。

穴は空いてないし、盗んだ相手もなにも名前入りの傘に気が引けたのだろう。

ほっと一安心して、彼の顔を仰ぐ。

 黒髪から脱色剤によってメラニン色素を分解して明るく脱色された髪、メンズショートスタイルによって髪型も部分で長さを調節する事で、無造作な髪の流れが変わる。

真っ赤な瞳の色が、顔立ちが左右対称に整って鼻筋も通り顔立ちの印象付ける鼻筋は真っ直ぐに通っていた。

「それじゃあ風邪引いてしまうわ、一ノ瀬くん」

 髪質そのものもいいのだろう、少し童顔ではあるが均等がとれている目鼻立ちに髪に隠れた瞳には私の顔が写り込む。

「もう既に濡れているけどね。西園寺さん」

 そんな会話を成立させつつ、スクール鞄から携帯電話を取り出して表示画面をみれば目的の時間から大分遅くなってしまっていた。

これは、道に迷う事を想定してももしかしたら目標である時間には行けない。

「つ、まずいわね。今すぐに嵐ヶ丘高等高校に行かないと」

「嵐ヶ丘高等学校って、先日の性暴行未遂の」

「ええ。これから一人で謝罪の為にその高校へ行きたいの。勿論独断的な判断だけど」

 無茶苦茶だろうと、彼は素直さを口にして、だからといってこのまま見過ごしていい問題ではないのだと彼に視線で訴える。

「もし行ったとしても、西園寺さんの安全はないよ。既にうちの学校が問題を起こした訳だから報復だってありえるわけだし」

「構わないわ。私一人くらいの犠牲なら、帝都大付属だってそれくらい微々たるものでしょうに」

「……貴女は仮にも生徒会長候補でしょう」

「だからこそだわ、一ノ瀬くん。私は一人の人間として生きたい。社会の歯車としてではなくて」

 きっと馬鹿だと思われたのだろうか、それとも愚か者と貶されるのだろうか。

「ここから嵐ヶ丘高等学校へは徒歩で20分かかる。それと道中でいいのでコンビニに寄って傘奢ってくれ」

 それでも私に彼は罵ることはしなかった。

「ありがとう、一ノ瀬くん」

 感謝の言葉を述べて、携帯電話をそっと鞄に仕舞いこんだ。


ようやく定職について早7ヶ月、何か一つでも書いて残したいと思い今回の小説を書きました。

勿論、以前のように長編というわけにはいかないのであくまで短篇集ということであしからず。

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