表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

18 後悔の涙 2

 翌朝も、雨が降っていた。屋敷の中まで湿った空気が流れ込み、憂鬱な気分になる。

 幸いにもレイモンは風邪をひかなかったが、それとは違う気だるさを感じていた。


「さあ、レイモン、早く!」


 嬉々とした母に急き立てれ、レイモンは地下階段を降りた。二人が降りきったところでレイモンはカンテラを母に渡し、下から三番目の階段に手をかけた。随分とほこりを被っているものの、耳障りな音を立てながら階段が収納されていく。

 三段をアレンが言った通りに納めると、そこには別の通路がぽっかりと口を開けていた。


「アレンが言った通り、ここが入り口ね。……なぜあの人はアレンなんかを跡取りにと考えたのかしら」


 隣で母がぽつりと呟く。悔しそうな声だ。しかしレイモンは内心激しく動揺していた。やはり跡取りは私ではない、と。


「随分使っていないようですから……私が先に見て参ります。母上はここで待っていてください」


 カンテラを片手に、レイモンは湿った重い空気の中、ゆっくりと階段を降りていった。

 階段を降りて少し廊下を歩き、その奥にあった扉を開けた。取っ手にはほこりが積もり、開けると蝶番が悲鳴をあげた。恐らく母にも聞こえただろう。舞い上がるほこりにむせながら、彼はカンテラを高々と掲げた。次の瞬間、はっと息を飲む。

 これが、財宝……。昨日義兄が言っていた。足が震える。背筋に冷や汗をかいた。

『エスメラルダス家の財宝は、エスメラルダス家以外の者には無価値に等しい』

 なるほどこれならそう言える。きっとあの母には無価値に等しいだろう。しかし私もまた、財宝を汚してしまった。代々受け継がれてきた由緒正しきエスメラルダス家の財宝。何物とも換え難く、また何物よりも価値がある。しかし、これはエスメラルダス家の者以外には恐らくゴミ。

 レイモンはそれを見ていると、なんだか泣きそうだった。慌てて視線を逸らす。


「これは……?」


 ふと足元に目をやれば、二つ折りにされた紙が落ちていた。拾い上げて開くと、頭を殴られたくらいの衝撃がはしった。

 それは紛れもない、まだ幼い義兄の字だった。


『レイモンへ どうかエスメラルダスとざいほうを、まもってください』


 レイモンは愕然とした。記憶を辿ってみても、義兄は父の亡くなった夜、すぐに屋敷を出ていったはずだ。ここに手紙を隠す時間などなかった。まさか、こうなることを分かっていて……?


 階段の上から母が読んでいる。思った以上に考えていたようで、心配している声がする。レイモンは一度上がった。


「どう?財宝はあった?」


 興奮した母が、すでに笑いながら訊ねる。レイモンには全てが億劫に思えた。


「ええ。ありましたよ」


「まあ……!早く見たいわ!どんなにか素晴らしいものでしょう!代々受け継がれてきた公爵家の財宝は……」


 レイモンは先に階段を降り、カンテラを掲げた。二、三段降りて彼は母を見上げた。


「財宝は……もしかしたら母上にはゴミのようなものかもしれません」


 母は首を捻った。顔をしかめ、レイモンに体調がまだ悪いのではないかと訊ねる。静かに首を横に振り、レイモンはまた階段を降りた。

 早く、と急かす母を尻目にレイモンは再び取っ手に手をかけた。先程よりもひどい軋みが響き、母はその暗闇に飛び込んだ。カンテラを掲げ、口を開けて財宝を見ている。

 暫く静かに見ていた母は灯りを下ろすと、震える声で呟いた。


「な……何よこれ……」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ