最終虐待
祥子が幼稚園の帰りのバスから降りても、いつものように母の姿はありません。
そんな状況でも、祥子は家まで走って帰ります。
「ママ! ただいま!」
狭い六畳一間の空間に電気も点けないで、缶ビールを片手に母の姿はありました。
もうあの母の面影は少しも残っていません。
「………ねぇ、さっちゃん…。」
「?…なぁに?」
「さっちゃんさぁ〜…、ここのところ毎日つとむ君にお弁当分けてもらってるんだって?」
「うん! そうだよ! つとむ君のお弁当おいしいよ―――」
「冗談じゃぁないわよぉっ!!! あんたねぇ、どれだけママが苦労してると思ってるのぉ?!」
母は机をバンッと叩いて怒鳴りました。
―――5歳の子に何を言っているのか、と正直思えます。
「ごめんなさい…。」
「…そうだわ。さっちゃんの髪の毛を…切れば……」
「?……髪の毛切るの……?」
祥子の髪の毛はこの頃、ストレートロングのさらさら髪でした。
「そうだよ…。じっとしてなさい…!」
そういうと、母は立ち上がり台所から刃先がベトベトになったはさみを持ってきました。
…ジョキ………
ジョキジョキジョキジョキ………。
…髪の毛が祥子の周りに散乱していました。
青あざだらけで、腫れぼったい顔。長さはそろっていないベトベトの髪の毛……。
誰が見ても祥子だと思えませんでした。
「……あんたがいなければ……」
「………ママ……?」
―――自分で産んだのではないか、せめて私がそこにいたらそう言いたかったですね。
「あんたがいなければぁぁっっ!!!」
母はそう唸ったかと思うと、大きなタオルで包んでいた何かを取り出しました。
…何だと思います?
タオルをめくると長細い棒が出てきました。
そしてその棒の先には何やらときらりと光るとがったものが…… そう、釜です。
母はそれを祥子の足めがけて振り下ろしました。