第八章
「そこの子」
「はい?」
いつものように厨房から食事を運び出そうとしたとき、後ろから誰かに呼び止められた。
表現するならまるで柊の木・・真っ白で細長い。服の色が私達とは違い、紺ではなく青なので、どうやら彼女は侍女長様らしい。
「なんでしょう」
「貴女ミケーレ様の身辺の子でしょう、一つ頼まれてくれないかしら」
「はい」
「この書類、テセヴル将軍に渡してくださらないかしら。あの方は姫身辺にあまり来られないから会えないのよ」
「分かりました」
茶色の封筒を手に取った丁度そのとき、後ろからひょっこりとインファが現れた。
「あら、アユリじゃない?アーロズ女大将軍は元気?」
「・・アーロズは戦場以外牢屋から出ることを許されていません、お忘れですか?」
・・牢屋?
「それから、インファ殿・・私に軽々しく声をかけないでください、貴女と知り合いだと思われたら心外ですから」
はっきり言うとそのまま後ろを見せて歩いていった。明らかな拒絶
「・・インファあの人になにかしたの?」
「してないわ、あの人の姉・・アーロズっていう方がいるんですが、その人のこと大嫌いみたいで、私と似てるところがあるみたいです」
インファのような女将軍?
「何で、牢屋に?」
「あの二人のお父上は、もとは巨人族でその豪快さと破壊力をアローズは受け継いで、先の戦いのとき、魔法使いの罠に幾戦もの兵士が命を落としていき、その時女性だけの軍『聖女隊』が救援に向かったのです」
聖女隊は普通の兵士とは異なり、魔法使いと同じような不思議な力をもつ戦いのエキスパート集団、と聞いたことがある。魔法使いも聖女隊が苦手らしい
「そのタイミングであの人は力を溜める余裕ができ、魔法使い共が一気に集まったそのときに己の持つ力を爆発させた。・・そして、彼女以外の敵も、味方も・・全滅した」
「え!?」
その戦は結果痛みわけで終わり、でも数少ない聖女隊や立派な大将軍達を殺した罪によって、戦争のとき以外は牢屋で終身を終えることになった。
「あ、そうだ、この書類テセヴル将軍に渡さないと、でもその前に私食事運ばなきゃいけないから持ってて」
「かしこまりました」
部屋に戻り、ミケーレの目の前で食事を並べていく。・・とシーヴァーがインファの手に持っているものに目を留めた。
「インファ」
「あ?」
「それは?」
「恐らく内密の指令」
「誰からだ」
「アユリから、テセヴルさんへ」
「・・アユリ殿の母君はアマンサ様の乳母だったな、信用がある・・となると」
「なかなか、重要なもの・・かしら?」
ミケーレが終えた食事を片づけしていると、インファとシーヴァーが書類の中身を勝手に見ていることに気がついた。
「ちょっと!何勝手に開けているの!?私のせいになるじゃない」
「まぁまぁお嬢様、無表情よりも怒った顔のほうが可愛いですよ?」
「誤魔化さない!」
「どうかしました?」
扉の向こうからテセヴルが現れた。インファがいい笑顔でお届け物ですと封の開いた封筒を渡した。
「え・・開いてる?」
「目の錯覚ですわ第二将軍」
いえいえ、錯覚じゃないですから。しかし将軍気にせず中身を見る、重要機密らしいのにこんなオープンでいいのか
「!」
「どうかしたのかな」
ミケーレが首をかしげた。
「・・新たな『聖女隊』の創立を命ぜられました」
「聖女隊の?」
普通の少女ではなれないと聞いたが・・?
「『能力』をもつ少女を探し出せと・・」
「それって重要機密じゃないんですか?」
「いえ、各部署にいる将軍クラスには伝わっていると思います・・近々調べを王宮内でも行うそうです」
調べたら分かるんだー・・って能力もちって分かったら強制的に『聖女隊』になるの?
「能力ってどうやって判断するんですか?」
「魔法使いが魔法を使うとき、身体を包み込むような靄があるそうです、ソレが見えたら能力持ちだそうで・・男性より女性のほうが見える方が多いそうです」
こんこん、ステラが入ってきた。
「マリーだけにこんなの届いた」
黄色の手触りのいい紙で『徴集書』と書かれていた。
「なんだこれ」
「・・なんで、私はチェックする前に徴集決定なんですか・・」
将軍はサァって両手を挙げた。
・・なんで?