第七章
「義兄様、もうアナスタジア家の者ではないんですねぇ・・」
「そうだね、寂しいよ・・あの家は本当居心地良かったから」
それはアナタが私の分の愛情を持っていったからですよ、なんて言わないけれど。無表情で睨む。雰囲気だけでも分かったのか「怒ってる?」などど聞いてきた。
「・・義兄様がアースグランドの王様だなんて、失礼ですけれども信じられません。だってヘタレだし」
「・・」
否定できないので困った顔で笑って誤魔化すミケーレ。お世辞でも男らしいところは一つも無いので、王に相応しいとは言えないの。
「でも、ボクは・・ボクは本当は―――」
「ミケーレ様」
インファが現れると、恭しく頭を下げた。
「ネルシオラ后がいらっしゃられます」
「后様!?」
ミケーレは急いで立とうとしたので椅子に足を躓いてヨロケ、机を掴もうとしたが、シーツだけ掴んでそのまま倒れこんだ。
机まで巻き込むなんて・・。
(ドジっこ?)
そうこうしているうちに后が参られた。
后らしく美しく着飾っている、その優雅な様子は例えるなら芍薬の花のようだった。
「・・まぁ」
倒れているミケーレを発見し、助け出そうと駆け出した。・・が
「きゃ」
この人も倒れた。
ミケーレのどじっこは、どうやら血らしい。
「后様大丈夫ですか?」
インファが実にマイペースに助け起こす。
「え、えぇ・・ありがとう」
マリはマリでミケーレを起こす。
なんで親子の感動の再会ってのが無いんだろう・・。
「あぁ」
后はミケーレに手を伸ばすと抱きしめた。
「私の子・・ミケーレ」
「・・お母様」
后はさめざめと泣いた。ミケーレが下げ渡されるのは彼女の本望ではなかったらしい・・しかし、ミケーレが殺されず、ネルシオラ后が身分剥奪されなかったことを思えば、彼女は黙っているしかなかったのかもしれない・・。
「あぁ・・私がどんなにこの日を待ち望んだことか・・生んだ貴方のことを忘れた日など一日も無かったわ、この17年間・・どんなに会いたかったことか・・」
「お母様」
「ネルシオラ・・やはりここにいましたか」
「お姉さま」
インファと私は頭を垂れる。
今度はネルシオラ后の実の姉、三人の姫を産みなさったマーサ正妃だ。厳しく聡明なことでもしられる。まるで薔薇の花のような鋭さと美しさを持ち合わせている。王が求婚を申し出たとき、結婚して欲しくば己の身一つで来いと言い放ったという噂まである。
「お前がミケーレか」
「は、はい」
当たり前だがすっかり緊張しているミケーレ
「お前はこの国の王となる、名誉なことです」
「・・はい」
「娘達に貴方のことをよく聞き及んでいましたが、成程弱い。そんなことでは王は務まりません!精進なさい」
さすがアマンサ姫の母君・・威圧感がスゴイ。ミケーレは既に泣きそうな顔をしている。
「ぼ、ボクは・・」
「あまりミケーレを苛めないでちょうだいお姉様!この子は王宮のことをまだ詳しく知らないのよ?」
「既に知っていてもおかしくはないぐらいは日にちは経ってます、甘やかすことは許しませんよネルシオラ!貴方には発言権はないのですから」
身分的な処罰はなくとも、権限は無いようだ・・そのぐらいの罰があるのは当たり前のことだろう。しかし母は強いというもの、ネルシオラは引かない。
「まだ王位継承式までには時間があるわ!ソレまでには立派になるでしょう」
本人が「えぇ」って顔してますけど。気にしないんですね、分かります。
「それならいいですが、いいことミケーレ・・王族に恥だけはかかせぬよう」
「っ!?」
(?)
義兄様が過剰に反応した。圧力にビビッタのだろうか・・?
「あぁそれと」
帰ろうとしたマーサ正妃が振り返り、マリの顎を掴んだ。
「双子姫から聞きました、・・あまり調子に乗らないように。ココは王族、貴族とは根本的に違うのですから慎みなさい」
「・・かしこまりました」
「そうそう、素直が一番ですよ、・・『影姫』」
姉が歩いていくとネルシオラも後をついていくように去っていった。
・・私、あの人嫌い。
「なぁ、『影姫』って何だ?」
「ステラいたんだ」
「さっき来た」
手にはこれからミケーレがやるつもりだった茶会のセットがある。
「『影姫』は私のあだ名だよ。いつも誰かに背を向けられている影・・姫は言わずもがな」
「身分だけはお前たっかいもんなー・・あ、ゴメン泣きそうな顔すんなって」
頭を撫でられる。
「お、お前撫でられるの好きなんかーまだまだガキンチョだなー」
私の顔って通常が無表情で、たまに泣くか怒るかぐらいでしか変わらないけど・・ステラはよく僅かな表情の変化を見分けてくれる。ソレが恥かしかったりも嬉しかったりもする。
本来なら笑う練習を毎日シーヴァーとしていたのだけれど・・もうそうもいかないし、一人でしても痛いだけだし・・今度ステラに手伝って貰おうかな・・。
「あれ?」
ミケーレがさっきからピクリとも動かない。
「義兄様?」
「うひゃあ!?」
ビックリして急にうごしだしたから床に落としたままだったシートで足を滑らせ、また再び顔面から地面とぶつかっていた。
「・・」
この人、本当に王様になれるのだろうか・・
・・多分無理。