昔の記憶1
シーヴァーは生粋のドラゴン。
私とは違う。
インファは新しくいただいたメイド服に身を包みながら鏡に映る自分を見つめた。
「忌々しい人の形よ」
どうせなら人の形ではなく、完璧なる竜の姿に生まれたかった。
そうなら、忌々しい魔法使いの陰に苛々させれることはなかったのに・・。
「インファさん」
奥様がミケーレ様をつれて顔をのぞかせた。
「マリアンジェラを見なかった?あのこったらせっかくミケーレがあの子のためにお花を摘んであげたのに、あのこったらお花をミケーレに投げつけたのよ」
お説教しなきゃとミケーレを連れていく。
「見かけたら教えてちょうだい」
なんて、そんな命令。誰が聞くものか、めんどくさい。
適当に微笑み、適当に流し、適当に生きる。竜の長に育ててもらい、情をかけてもらった恩がなければ私は此処にはいないだろう。
竜族は今居場所がない、人に借りている状態。新天地に行くにはまず仲間を増やさなければ、それまでの契約で、我々は人に力を貸さなければならない。
「ふう」
お嬢様の部屋に行き、布団のシートを洗うため回収した。
ころん
「!」
布団の中からマリアンジェラが転げ出てきた。
「・・・・お嬢様」
おずおずとした瞳でこちらを見上げてきた。怒られるとでも思っているのだろうか
「邪魔です」
シートの上にちょうどのっかっていた。
「ごめんなさい」
でものかない。
「・・・・・・・」
ぐいっとシートをつかむと勢いよくと持ち上げる、転げ落ちるお嬢様は怒らず泣きもせず驚いた顔でこちらを見上げていた。
「なんです?使用人が生意気とでも?」
「インファ・・って力持ち?」
「えぇ、お嬢様ぐらいなら持ち上げて生ごみのようにぽいっと捨てれますよ」
「ぽいっと?」
我ながら子供相手に大人げないとも思うが、なんというか、なぜ自分でもこういう意地悪したくなるのかわからない。
「捨てられたくないよ、いじわるだねインファ」
お嬢様はのんびりと起き上った。
公爵の身分に生まれたのにひどく卑しい生活をしている、なのに何にすがって生きているのだろう。どうしてこんなにも・・まっすぐ
「お嬢様ってさ」
「え」
座り込んでマリアンジェラと同じ目の高さになる。
「生きててみじめだなって思わないですか?生まれたくて生まれたわけじゃないのに、生まれた状況が最低って、なんか生きててくだらないなー出だしから失敗だーって感じしません?」
きょとん、その言葉がぴったりの顔をしている。
「わかんない」
「んー、つまんなくない?」
『ふつう』じゃないことが、『ちがう』ってことが。
誰が悪いわけじゃないけど、何かが違う、わからない歯車のピース。世界に取り残されたような感覚
「つまんない」
「だよね」
「でも」
お嬢様は私の服の袖をつかんだ。
「インファはつまらなくない、よ」
「!」
「インファはね、私の憧れのお姉さん。ほかの人と違って話してくれるし、私をみてくれるから」
「・・・・お嬢様なんて見てませんよ」
「え、そうなの?ごめん」
しゅんっと首をうなだれる。
何この子かわいそう。痛い子
「シーバーがね」
「ヴァですよ、彼が何か?」
「ひとりじゃないよって、言ってくれる」
「はぁ、・・そうですか」
「インファも、一人じゃないよ」
「主語とつながりがなさすぎて理解に苦しみますわ」
マリアンジェラは小さな手を私の服から離した。
口足らず、というよりは人と話すことに慣れていないのだろう。彼女は広い館で一人でいるほうが多い。
「花はね、一生懸命手入れされた花とね、放置された花があるの」
「雑草ですね、わかります」
「野花!」
珍しく反論してきた。ちょっとおもしろいかも
「雑草・・失礼。野花がなんですか?その例えはお嬢様ですか」
「うん。違う」
「あらま」
マリアンジェラは窓のほうへ駆けると、大きな窓を開き、外の景色を指差した。
「手入れされた花はきれいだけど、自然に咲き乱れた花はこんな感じ」
窓の外を見れば、無法地帯。
雑草に混じった小さな花が咲いている程度・・というか手入れしてやれよ。
「きれいではない」
「そうですね、お世辞に風情があるとも言い難いですね」
「でも、見て」
何を
「放置されてるけどね、生きてるんだよ。ぐんって首を伸ばして、花咲かせてる。これって学ぶべきだと思う。インファ、これっぽい」
「しばきますよ。雑草扱いだなんて」
頭を守りながらお嬢様はこちらの様子をのぞきこんでいる。
「インファ、泣きそう?」
「・・・・っなぜ、私があれ?」
お嬢様は野花だ。
私は雑草
折れそうな茎を必死に上へ伸ばし日の日差しを浴びようと懸命な花は、どうしてこうも・・
「お嬢様」
その小さな体を見つめる
あなたは、生きているんですね。