第五十三章
・・・・アナタが教えてくれたんです。生きることの大切さ、健気さ、面白さ
「お嬢様はそんなの身に覚えが無いとか思いでしょう?」
「うん・・」
「でもね、生き様で教えてくださったんですよ」
インファは立ち上がると、翼を広げた。
「・・行きます、お嬢様・・今までお世話になりました」
「や、インファ」
マリアンジェラは立ち上がり、インファに抱きついた。と、同時にめまいがした・・。
「お嬢様は横になっていてください」
シーヴァーにマリを渡すとインファは振り向かず、去っていった。
「お嬢様」
シーヴァーはマリの顔を撫でて何かを呟いた。
「愛しています、これからもずっと」
唇が重なった。
「シーヴァー・・?」
「たとえ、姿は見えなくとも、気持は変わりません」
シーヴァーはその身を真っ紅な鱗を纏う竜になった。魔法使い達がざわついた
「おい!」
ウィルシアは叫んだ。
「あんた人間になる魔法をかけられた竜だろう!?なんで強引に魔法を解いたんだ!」
「どうなるのですか?」
ショーンが床に崩れていたマリアンジェラを抱き寄せた。
「命が削られる・・」
「!!」
「死ぬ気か!?」
『お嬢様、お嬢様の人生好きに生きて良いんですよ・・?』
シーヴァーは微笑んだ
『インファは、死なせません』
翼を広げて吼えた。そのまま飛んでいく、マリアンジェラは手を伸ばす。
みんな、みんな行ってしまう・・私は何をしているのか・・私はどうしてこうも何もできずに居るのか・・。大切な人は私から去ってしまう・・私の返事も聞かぬままで・・
シーヴァー・・
「行かないで!シーヴァー!!!」
手を伸ばす、届くことのない手を・・
「イヤ、行かないで、傍にいてよっ・・シーヴァー!」
アナタだけ居れば、私はそれでよかったのに・・
アナタはいつも、私に背を向ける・・
こんなにも・・愛してるのに・・愛しているといってくれるのに・・
「どうして?」
黒い化け物が聖女隊を嫌がるように黒い触手を伸ばしたり縮めたり、身体を変化させていたが、聖女隊の力によっておさえつけられて居るので全く身動きが取れないでいた。
「アーロズ将軍」
インファは将軍の前に降り立つと、羽をしまった。
「私があの扉のところに行くまで、援護してください」
「は?」
うわぁあ!という驚きの声が聞こえ、将軍は上をみた。・・今日のお天気は悪雲時々竜ですか・・?
どすん、竜は大地に降り立つ
「シーヴァー何故来たの?!アナタはお嬢様と居なさいよ」
『お前より私のほうが適任だと思ったからきたんだ』
「へたれ!いっつも逃げてばっかりね」
『五月蝿い、今はそんなときじゃないだろう』
「今じゃなくて何時話すのよ!」
二人は睨み合う。
「お嬢様の気持、本当考えないわよね!」
『・・結ばれないだけなら』
「え・・?」
『いっそ離れようと思った』
一緒に居られないのに好きになっても、辛いだけだ、ならいっそ・・この想いが押さえきれるうちに、かくして閉じ込めてしまおう・・そう思っていたのに
『でも、ミケーレ様が言ったんだ『言わないよりは言ったほうがいい』・・あれは確かにそうだった』
心が震えた。体温が上がった。愛しさが増した。
他のことがどうでもよくなるぐらい、好きが溢れた。そんなこと誰にも言わないけれど・・
「一緒に居てあげなさいよ・・私なら、未練は無いから」
『インファ』
オォォォオオオオオオオン!!!
「うわっ!?」
アローズやインファが吹き飛んだ。強風をおこした化け物が危険を察してか動き出した。聖女隊の人も疲れからか大地に座り込んでいた。
「・・っ」
ケリーは剣を大地に刺し、かろうじて立っていた。
「負けるものか!」
魔力を放出する。
「あぁっと、ちょっと・・ケリー・ボードヴィンの・い・てー!!」
「んな!?」
どっさ!!ぶつかった。
「うわ!」
「危ない」
ケリーの背中を誰かが支えた。
「ルジオ将軍」
「大丈夫か?」
インファは腰を抑えながら立ち上がった。
「いてて・・あぁ、アーロズ将軍とはぐれてしまったわ」
風が巻き起こり、何人かも吹き飛ばされていった。
シーヴァー以外は
オォォォッォ!!
『・・お嬢様』
愛していました。本当に・・
「シーヴァーァァァ!!」
インファは叫んだ。
「お嬢様に黙って逃げるなんて卑怯よ!」
光が、まるで閃光のように発せられると、爆発したかのように光が皆を包んで、視界が真っ白に変じた。
「シーヴァァァ―――っ!!!」
インファの声も虚しく、光がはれたとき・・そこに在ったものは、何も無かった・・。
「やったー、敵を倒したぞー!」
湧き上がる歓声の群集の中、インファはただ呆然と、立ちつくしていた。
私、お嬢様になんと言ったらいいの・・?