第五十章
「駄目だ」
ウィルシアは王宮の書庫を漁り、過去の文献を探し回ったが『パンドラ』の扉についての文献は何一つとしてなかった。
「これはますます、ご先祖様でも紹介するしかないか・・?」
できっこないことを言って、自嘲する。
「はぁ・・せめて化け物の正体をつかめればな」
「教えてやろうか?」
「ユサラ!?」
振り返るとそこにはフワフワと浮いている、シュシュだった。
(あ・・そうだった、ユサラは、死んだんだった・・)
「ぶっぶー」
シュシュは怪しい光を秘めた瞳で笑った。
「ボクはテルカ・ユサラでもあるし、テルーカ・エニシンだぁよ~」
「?!」
シュシュは地面に降りると頭を叩いた。
「ちょっと!テルーカ勝手に喋んないでよ!え~いーじゃぁーん、死んじゃったンだぁからぁー」
一人で二人の声色になった。この声は確かにテルーカ
「どうゆうこと?」
てゆーか気持悪いんですけど?
「僕の能力は他人の脳を見る力、テルーカは脳の情報を操る力、そして・・」
瞳の色が変わった。
「俺の力は、同属に憑依できる、自分につけることも可能だ・・あのときテルーカが飲まれる前に魂を回収し、自分が自爆する寸前に、シュシュに乗り移った」
「あれ?シュシュの存在知ってたの?」
「テルーカ・エニシンの脳の情報を~、テルカ・ユサラにコピーして、ボクは乗り移られたのさ」
すんごく迷惑そうにシュシュは言った。
「またあえて嬉しいけど」
ウィルは複雑な顔をした。
「見た目は変わんないの?」
「あくまで『憑依』だからねぇー」
「ふーん、まぁいいっか・・で?正体は分かったの?」
「まぁー、間近どころか・・食われたかぁらねぇ~まぁテルーカの見立てによるとアレは、『分解者』だね」
「分解者?」
「何事にもはじまりというものがあるんだよぉー?この世界や我らが祖を造った基礎・・『創造主』がいるわけさぁ、それをあえてモノに例えるなら『大きな林檎の木』」
林檎の木は無条件にできるだけいっぱい実を結んだ。新しいのができれば古いものは落ちる。落ちれば地にぶつかる、腐る・・朽ちる・・『分解者』は腐敗したものが積もりに積もり、木に害を与えないように落ちた林檎を喰らう。
落とす、喰らう、落とす、喰らう、落とす、喰らう・・その繰り返し・・その輪廻が崩れたとき、『分解者』が『創造主』を喰らい、壊れ始めた・・。
「一つ質問していい」
ウィルが話をさえぎった。
「ん?」
「どうやって分かったの?」
「喰われたら分かるよ」
「遠慮しとくよ」
片手で断るとシュシュは鼻で笑った。
「でもなんで輪廻が壊れたのかわかんないんだろぉー?やっくたっだずー・・いて」
「身体も操ろうと思えば操れるんだ?」
「まぁ、『憑依』だからな」
しかも喋る人がコロコロ変わるから、いま誰と喋ってるのか分からない・・
「あ、でも扉の中に引っ張られるときに、ちょっと扉に違和感を感じたんだぁ」
「違和感・・?」
「うん、多分あれは―――・・・・」
◇・◇・◇・
「父上、今よろしいでしょうか」
「・・アマンサか、どうした」
謁見の間、王は仕事をしながら入ってきた娘を見た。母親に似て気の強い表情、娘が誰一人として自分に似なかったことや、息子が生まれなかったことは王としては非常に心残りではあるが、今更もう一人という体力はない・・。
そんなことを言えば『男になる』などと言い出すので、どうもいえない。
「お父様にお聞きしたいことがありまして」
「言ってみろ」
アマンサが王の血を継ごうと頑張っていることは知っているので、できる限り、願いを聞こうと常々考えていたが、アマンサはめったに願い事を言わない。なので、珍しいこともあるものだと娘を見た。
「私に王位を下さるのですよね」
「あぁ、お前ほど王に相応しいものは居ない」
「お父様、私は王に本当に相応しいですか・・?私じゃ荷が重うございませんか」
「そんなことはない!お前に適任だ」
「では、お父様、私を王にさせてください、あさってにでも」
「何?早くないか?」
「私はもう26ですよ・・駄目なのですか」
アマンサはなみだを流した。
「な、泣くほどではなかろう・・!はぁ、分かった分かった、もうすぐ魔国も滅びるし・・よかろう・・余ももうとしだしな」
まさか泣かれるとは思っていなかった。
「王、よろしいのですか?」
臣下が控えめに言った。
「よい、アマンサは聡明だし・・統治力にも長けている・・問題なかろう」
「早急な気もいたします」
「私じゃ、いけないと申すか」
「え!?い、いいえ?!とんでもない」
「えぇい!もうよい、下がれ」
王様は臣下を下げらせた。
「では、アマンサ後を任せるぞ」
「承知」
頭を垂れると歩いていった。
廊下を行くと、拍手をするミケーレがいた。ニッコリと微笑むとアマンサの頬にキスをする。
「お上手」
「ミケーレは悪魔ね・・羊の皮を被った悪魔だわ」
「・・狼じゃなくて?」
ニッコリと微笑むとアマンサも微笑み返した。
王位を手に入れるのもそう遠くはない・・。
ミケーレ腹黒!w
ちゃくちゃくとことが進んでいく。さて、マリアンジェラや他のみんなの運命はいかに!?