第四十七章
「ケリー、ミケーレ義兄様!あれ?ルジオ将軍にテセヴル将軍」
「お久しぶりですね、マリアンジェラ様。ご無事で何より」
「顔を見れて安心しました」
人懐っこく笑うミケーレがマリアンジェラの手を握ろうとしたが、ルジオが服を掴んで止めた。
「失礼、疑うわけではございませんが、攫われていた場所は魔国、なにか罠があってはいけませんので」
「彼女に限ってないでしょう」
「テセヴル第二将軍は黙っていてくれませんか、一応の安全のためです」
「私は別に良いです」
確かに攫われてから幾日も過ぎている、何かしていると考えるほうが自然だろう。
「それで」
ルジオは睨むようにアローズを見た。
「戦場以外の場所で貴女は何をしているんですか」
「薄幸の姫のお付き添い」
「は・・」
薄幸姫・・影姫より酷い・・。
「ケリーに用があるんじゃなかったっけ?」
「あぁ、そうなの・・ケリー」
ケリーだけ掴んでミケーレの部屋から出て、耳打ちする。
「ステラに密告の仕事頼んだんだよね」
「あぁ、そうじゃが?」
「ってことは、こっそり連絡取る方法とか考えてるんだよね」
「一応、鳥でやり取りをするはずだったのだが、あの農女無視を続けおって!」
「まーまー」
怒りを抑えさせてもう一度耳打ちする。
「もう一度ステラに鳥を飛ばしてくれないかな?」
「いいが・・なんでじゃ?」
「大事な用事なの、だからケリーは頭固いから教えない」
「なんでだ!」
「しー・・後で教えてあげるから・・これ手紙ね・・たぶんこれもつけたらいいと思う」
「花?」
「うん。宜しくね」
ケリーとの会話は終わった。次は・・
「義兄様」
「ん?」
「ミケーレ様の御用ならその場でお願いいたします」
ルジオが目の前を立ちはばかった。
大声でできるような話ではないし、話せば邪魔されるどころか、手紙を奪われ燃やされるかもしれない。スパイとして牢屋にぶち込まれるのが関の山だろう。どうしたものか・・
ココはいったん諦める?
(いいえ駄目よ、こんなところで諦めちゃ駄目・・時には大胆にならなければ)
生まれ変わろう。私は成長したのだから!
「・・・・人には聞かせれない話なのです」
「怪しいですね、ますますもっていけま・・っ!?」
頬を赤らめ、目はウルウルとさせる。
自分よりも身長の大きいルジオを見上げ、両手を合わせお願いのポーズを決める。
前回の私だったら絶対しなかった。
「義兄様にしか、身内にしかできない相談なの・・お願い・・ルジオ将軍」
お願い攻撃が聞いたのかルジオはうろたえた、その様子をみてアーロズは微笑んだ。
(やるねぇ)
「ねぇ、ボクからも頼むよ」
ミケーレも上目使いで頼んだ。いや、義兄様のはいらないから・・。
「し、仕方ないですね」
よし!
ミケーレの傍に行き耳に囁く。
「義兄様、表情を変えずにお聞きください」
「ウン頑張る」
そこは黙って頷いてください。
「魔法の国のほうでは今、世界の危機が及んでいるの」
「・・?魔法の国のほうで世界の危機?」
「はい、黙ってね」
ミケーレは黙って頷いた。
「『パンドラの扉』っていうものがあってね、そこには化け物が・・あ、なんか説明がめんどくさくなった。とにかく化け物が魔法の国で解放されたの」
「それって、ココを攻めてくるってこと?」
「そうなの」
「大変だ、魔法の国に今すぐ対策をうたなきゃ」
「違うの!」
水平ちょっぷが綺麗に入った。泣きそうな顔と疑問の顔とよくわからない表情を浮かべるミケーレにマリアンジェラは真顔で迫った。
「その化け物は無差別で人々を襲うらしいの、私もよく分からないのだけれど・・向こうの人も困っているの、私お世話になっていたから・・恩返ししたいの」
「恩返しって、向こうは君を攫っていた国じゃないか」
「そうだけど、ココの人たちよりは温かく感じたの」
この国の人がつめたいわけじゃない、でも、あまりにもココは息苦しくて・・私には辛かった。
「それに」
「それに?」
「このままでは本当に皆死んでしまいそうな気がして・・怖いの」
パンドラの扉を見て、帰ってから、ずっと胸には不安しかなかった。どうしてか分からないけれど、色んな人とかかわればかかわるほど、涙が溢れた。一生分の涙が流れていくような気さえする。
不安を打ち消すために私は頑張る。
後悔はしたくないから。
「義兄様お願い」
両手をあわせた。
「王様になって」
「うん・・僕にできることなら・・って無理ー!?」
やっぱり??スケール大きすぎた?
「無理じゃないって!だって次期王様じゃない!少し早いけど王様に隠居してもらって」
「どうやって!?」
「主張するの!」
今まで王子だというのに日陰に置かれ、今も次期王様だといったわりには囚われの身の姫様のように、毎晩監視がついて、王様の教育は長姫だけが教え込まれている。
「これを国民に主張すれば同情して推してくれる、そうすれば王様も従うしかないはず」
「難しいと思うなー、上手くいってもすぐには無理だし」
「・・・そうだよね」
自分でも無茶ぶりだなって、言ってて気がついた。
「でも安心してマリアンジェラ」
「義兄様」
「ボクは役には立てないかもしれない、けれど、できることをするよ」
こんこん
ノックがすると、そこには双子姫が居た。
「テセヴル将軍私達には内緒でこんなところにいるなんて」
「お仕事とはいえ、少しは私達に顔を見せてくださらない?」
相変わらず無茶苦茶な双子だが、こちらをみると驚いた顔をみせた。
「あら、『影姫』じゃないの?帰っていたの?」
「帰ったのなら報告するのが礼儀というものじゃないの?」
「教養のない娘ね」
「仕方ないわ、両親からも見放された娘ですもの」
この二人は本当にどうしてこうも人を目の敵にするのか・・。
「そういえば魔国に田舎娘が行ったと聞きましたけど?」
「えぇ、賤しいくせに王である私たちのお父様に口答えするなど・・高が知れてますわよね」
「本当に・・身分相応なものには、それ相応なものしか集まりませんものね」
二人はクスクスと笑った。
「・・楽しいですか?」
マリアンジェラはミケーレに頭を下げると、二人の目の前にたった。
「王家の血を継ぐ姫方。さすが堂々とし、美しく、ご聡明あらせられる。……ですが貴女方はそれだけです」
「なんですって?」
「そちらは正直な感想を述べてくださったので、こちらもあえて返しましょう」
マリアンジェラは真っ直ぐな鋭い目で二人の姫を睨んだ。
「王族にあるまじき無恥さで、姫らしく傲慢でわがままで、見目は麗しくとも心が不細工な方々!!」
「「な!!」」
将軍も口を大きく開けた。
「いいですか?」
「え?」
「あまり小鳥のようにさえずりまわっていると、鳥かごに閉じ込めますよ」
「ひっ!?」
黒々しい笑みで牽制すると歩き出した。
ノープランな作者