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影姫の暴走奇譚  作者: 綴何
本編
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第四十六章


「じゃあシーヴァー私はケリーを探すから」

「かしこまりました、私はインファを連れ、長に話を伺ってきます」

 シーヴァーと門のところで別れると、城の東側にある、訓練所に行き、訓練衆の居る近くの木の陰で、マリアンジェラは探し人の名を呼んだ。

「ケリー?」

「お、薄幸の影姫じゃーん」

「アローズ将軍・・」

 返事をしたのはケリーではなかった。 豊満なボディは鎧の下でもよく分かる、日に焼けた顔で太陽の様に笑った。

 アースグランド第一新鋭部隊元隊長、アローズ女将軍は、先の戦争のとき、敵もろとも自分以外の者をすべて大量殺戮を犯した罪と当時聖女隊を王の命令無しに勝手に使ったという罪で『終身刑』に課せられている。

 そんな彼女がここに居るということは『戦がある』ということ。

「軍が、動くんですか?」

「動く?面白い事を言うね」

 アローズはマリアンジェラの肩を叩いた。

「いま、ウェザーミステルとわが国は殺しあっているじゃないか、向こうに居たのに知らなかったわけではあるまいに」

 目を細めると肩に置いた手を離した。

「今暇だろう、少し話をしないか、ぜひ私の部屋で」

「あ、いえ私は用事が」

「ケリーは今ミケーレ様んとこさ」

「ありがとうございます、それでは」

「まぁ、待ちなって」

 アローズはマリアンジェラの腕を掴んだ。

「まぁまぁ、せっかく二人で居るのに邪魔するってのは野暮じゃないか?」

「・・え」

 アローズはニマニマ笑うとそのままひきずっていった。



 質素、その一言に尽きる部屋だった。

「もともと牢に入れられる前からあたしゃよく戦争に駆り出されてたからね、何にもないんだ」

「・・・・」

「まぁ、そう硬くならない、ならない。ただ話をしたかったんだ」

「私と、ですか」

 アローズは頷いた。どこか悲しげに・・

「なぜ私?」

「・・似てるからかな」

「誰にですか?」

「エルシオンちゃん」

 ・・エルシオン・・聖女隊 故 隊長 エルシオン・・誰もが彼女に憧れ、誰もが慕い、信じ、誇りを持って生きて戦い散った

「聖女隊長様にですか?私なんてとんでもない」

 両手でふるとアローズはわらった。

「うん、似てないよ」

 ナンですかそれ

「顔とか性格とかじゃないんだ、なんつーの?雰囲気が似てんだ」

「はぁ」

「信じるものは何もないって顔してんのに、まだ信じてんだよね、ハッキリしないとことかそっくりだと思うよ」

「それは褒められていると思うべきでしょうか」

「ふふ」

 笑って誤魔化すんですね・・。アローズはお茶を汲むと机の上に置いた、熱々らしく湯気がはっきりと見える。

「前も言ったけどさ、あの戦い・・聖女隊が到着する前には既に我軍は私以外すべて滅んでいたよ」

「聖女隊が滅んだときですか?」

「そ」

 圧倒的な戦力の差・・さすがの聖女隊もなす術はなかった。それこそ、巨人兵の血を継ぐ、アローズの絶対的な破壊力を使う以外は・・、しかしそれにはリスクが大きすぎた。

「本気で、わたしゃ軍人として死を覚悟したんだけどね」


『ココで諦めたら、アースグランドは滅びるわ!アースグランドには、守るべきものが居るの!私は、私が散ってしまっても守りたいの!!』


「わたしゃ、断ったんだ。そして撤退命令を出したんだけど・・エルシオンちゃんは聞かなかった。他の聖女隊も、エルシオンちゃんと同じ想いで身を挺しはじめてさ・・」

「隊長・・」

「・・本当はさ、巨人兵つったってしょせんハーフだったから、破壊的な力なんて出せなかったんだ」

「え?」

 ただ、皆ばったっばったと死んでいく。何もできない、どうすることもできない、無力だった。

「聖女隊ってさ、なんで聖女隊で選ばれるか覚えてる?」

「・・魔法帯が見える人ですよね」

「そ、見えるってことは使えるってことなんだ」

 あの日の戦いのとき、エルシオンは命を引き換えにその身を越える大量の魔力を開放した。どんな魔法使いよりも強く恐ろしい殺意のこもった魔法だった。

「・・隊長は、平気だったんですよね」

「目を開けたとき、目の前は真っ暗だったんだ」

 それもそのはず、そこにはさっきまで一生懸命戦っていた聖女隊の少女達だったものが、私を囲んでいたのだから

「自分のことを魔法で守らず、わたしだけを守って黒ずみになって散っていったんだ」

 何かが頬を流れていった。アローズ、残虐な将軍と呼ばれた彼女が、泣いていた。

「コレは罪なんだ、兵士なのにツルギを捨てた、諦めた罪・・この罪を背負ってわたしゃ今生きてるんだ、妹が嫌う理由も分かるわ」

「将軍・・将軍は悪くないのに・・」

「あんがとさん。やっぱアンタと会話してよかった」

「え?」

「あんた、最初は無表情で心のない女かと思ってたけど、違ってたわ」

 気がつけば、私まで泣いていた・・どうして?

「ケリーももうミケーレ様との逢引は終わってるだろう、送ってやんよ~」

 分からないけど、彼女はもう泣いていない。なら私も涙を拭い、目の前のことを考えよう

「ありがとうございます」

「ん?」

「私も覚悟を決めて挑みます」

「おう!・・・って何に?」

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