第四十二章
「嘘・・どうして?シーヴァーがここに・・っ?!」
抱きしめられた身体を離そうとして、手首を掴まれた。
おどろくほど激しく強く身体を抱きしめられると、顎をつかまれ上に向けられた唇に、シーヴァーの唇が触れた。冷たい感触が熱いものに変わった・・舌が交わる。
「ん・・」
何度も、何度も・・涙が自然と溢れた。
「『好き』だ・・」
小さくそう囁く。
今までずっと、聞きたかった言葉・・あぁ・・やっぱり、私は嫌いになんかなれないんだ。だって、今こんなにもシーヴァーを求めている。
しばらく抱き合っていたが、シーヴァーは手を払うと、炎が一気に掃われた。
「あら、お嬢様!」
インファも居たらしく、服のところどころがこげていた。
「はぁ、暑い・・早く移動しましょう」
インファは流れた汗を拭うとシーヴァーにそういった。半分は人間の血をひいているため、焼死することはないが、熱いものは暑いらしい。
「長老は私に任せてください。お嬢様はシーヴァーと安全なところに」
「あのドラゴン長老様なの?」
「えぇ、気配を感じておかしいと思い、此方に忍び込んだのですが・・このありさまで驚きました」
「お嬢様、帰りましょう」
シーヴァーはマリアンジェラをお姫様抱っこすると、背中にドラゴンの翼を生やし飛びだった。
「おぉ・・」
すごい。
「はい、ちょっと待ってねー悪魔紛いの執事君。パクリになるよ」
「悪魔ではなく執事です。狂れ坊や」
「言うね」
二人の間にバチバチバチッと火花が散った。
「ウィルシア」
「俺の奥様盗らないでくれる?」
「私のお嬢様が大変お世話になりましたね」
会話があってない・・。メラ!長老の炎など匹敵にならないほどの炎があがる。
「……(汗」
バァァァン!
「きゃああ!?」
魔法のバトルが始まった。炎が魔法を蹴散らすが魔法は容赦なく獲物を狙う。まったくの互角・・ウィルシアって強かったんだって、感心している場合ではなかった。
また落ちそうなんですけど!?
「アンタマリアンジェラふったじゃんか、返せ!」
「離れて分かる想いというものがあるのですよ」
「うっわぁー未練たらしい男だなー男なら一度決めたことをやりとうしなさいよ。俺は有言実行でマリアンジェラ姫を返して貰う」
「もともと私のものですからご生憎。貴方はもう用済みです」
人を抱いたまま喧嘩しないでほしい。
自分のために争ってほしいなんていう人は、本当馬鹿だと思う・・。
「止めて!」
マリは声を荒げた。
二人の攻撃がやんだ。
「ごめんなさい、ウィルシア・・私は・・彼と帰る」
シーヴァの服を強く掴んだ。
「貴方のことも好きだけど・・私、シーヴァのほうが・・好きなの」
涙が頬を伝う。ウィルが酷く傷ついた顔をした。ごめんなさい・・あんなによくしてくれたのに。
「ふられたかぁ・・じゃぁ仕方ないよね・・」
「ウィル」
「っていう俺じゃないよね」
魔法の矢がシーヴァーをかすめた。お面が下に落ちる。
「卑怯で姑息ですね」
「なんとでも」
「未練たらしいのは其方じゃないですか」
「お互い様だろ」
シーヴァーの紅黒い瞳が炯炯と輝いていた。
「ステラはどうするのさ、ララーちゃんは?ショーンにだってお別れいってないだろう?レカードは君が来てから少しずつ歩くようになったんだ。君が居たから王様は戦争に魔物をつかったりしなかったんだ」
ウィルは泣きそうな顔で叫んだ。
「君が来てから俺も変わったんだ!君が必要なんだ」
「ごめん、シア・・ありがとう」
シーヴァーはマリを抱いたまま去った。
「・・・・っ」
燃え盛る炎も後から来た軍によって消え去り煙を上げていた。
「なんでだよ!!」
怒り任せに魔法を放つ、どぉぉぉん!パンドラの扉に当たったがどうでもいい。
マリはもう居ない・・帰ってしまった。
最初は興味本位だった。でも、だんだんと惹かれて・・本気で好きになってた。シーヴァーと聞くたびに嫉妬した。イラついて、アースグランドをなんども滅ぼそうと思った。でも、君が、マリアンジェラが泣くから・・
「・・・・マリアンは勝手だよ・・俺、エイジスになんていえばいいんだよ」
涙を流したのは久振りだった・・。