第三十九章
「・・そうか、失敗か」
「ごめーんねぇー」
シュシュは心にもこもってない謝罪を述べた。
「ウィルシア・シーアがまさか出てこようとはねー皆仕事をしないって情報あったのに、裏切られたよ」
「怪我はなーい?あと、変なものもつけてないよね?」
「大丈夫だよキャリアナ」
幼女の頭を撫でながらシュシュは楽しそうに笑った。
(まさかテルーカ・エニシンが脳内の情報を操ることができるなんてね・・ボク以上の特殊異能保持者だったか・・)
それだけでも中々面白い収穫であった。相手を出し抜くという行為は何よりも勝る悦びだ。ぎりぎりのゲームはこれだから止められない。
「マリアンジェラ嬢が思いのほかウェザーミステリに馴染んでいるな・・むしろ彼女だけでも良かったのではないか?それに彼女はアースグランドの有力者の娘だろう?」
アキレスの隣で頬杖ついていた青年、セオドラ・シュリューカは自分の緑の髪の毛をかきあげ、立ち上がった。
「てか、まどろっこしーんだよなァ!もう捨て身覚悟で王宮侵入して王を殺そうぜ?」
「賛成、今なら王様も油断バリバリだよ!」
「短気は損気だぞ。セオ、キャリアナ」
アキレスにそういわれ二人は詰まらなさそうに頬を膨らませた。
「でも、打つ手がないわアキレス。どうするの?」
ルイツの疑問にアキレスは答えることができず、黙り込む。
沈黙がその場を支配する。
「あー・・そういえばさー」
シュシュは楽しそうに言った。
「ウェザーミステリの国に『パンドラの扉』たるものがあるらしいよ。それを開けたら両国を制するのは簡単なことになるぐらいの、すっごい大きな力を秘めているらしいけど?」
「お前が言うと怪しいな」
皆が頷いた。
「なんでぇだぁよぉー」
「大事な部分かくしているのではないの?」
ルイツが疑わしげな顔で言うとシュシュは目を潤ませた。
「ボクが頑張って手に入れた情報を、皆は信じてくれないんだぁー」
シュシュは泣きまねをするとセオはうっとおしそうな顔をした。
「わかったわかった」
にや
「そのパンドラとやらはなんだ?」
「あのねー」
・・・・。
アースグランド『東宮殿』の西側にある森の中
「ミケーレ様・・ミケーレ様!!」
「っは!な、何かなシーヴァー?」
シーヴァーは溜息をついた。ココ最近ミケーレの行動がおかしいのだ。
「そのように毎日花を沢山摘まれていかがなさるのですか」
もうミケーレの部屋に花を飾る場所はない。そして今も尚彼の手には大量のいろどりの花束が持たれていた。あっちっこっちの森に行っては花を摘んでいた。
男なのに女と見紛うばかりのその可憐さが逆に違和感を醸し出す。
「もう戻りましょう」
「あ、うん・・そうだね」
ミケーレは頬を染めて馬に乗った。二人は東宮殿に戻り始める。
「・・ねぇシーヴァー」
「なんでしょう」
「シーヴァーはインファのこと好き?」
「は?」
シーヴァーは馬を止めて主を見た、ミケーレは同じように馬を止めると、頬を染めたまま下を向いた。
「何故、インファなのですか」
「え?だっていつも一緒に居るじゃないか!仲も良さそうだし」
「はぁ・・まぁそうですが、好きというのはどういった意味でしょうか」
「決まってるじゃない!愛しているかってことだよ」
自分で言っていて恥かしかったのかカァァーと耳まで顔が真っ赤になった。シーヴァーは主にばれないようにそっと溜息をついた。
「アレのことは確かに嫌いではありませんが、愛するという感情とは違います。そうですね・・どちらかといいますと、妹のような感じです」
向こうは人のことをお父さんのように思っているなどど、ふざけたことを言っていたが。
「そうなんだ」
「はい。それが急になんですか?」
「え?い、いいや!別に!」
明らか何かありますというように頬を染められも・・黙って見つめているとミケーレは話し出した。
「ケリーって居るじゃないか」
「聖女隊の・・ですか?」
「うん・・」
もじもじ・・もじもじ
「・・・・」
「・・・・」
もじもじ・・
「好きなんですね」
「う!・・うん・・そうなんだ・・」
照れ照れとはずかしかっている。シーヴァーは安心した。女装癖のあるミケーレがいつか女性ではなく、男性を好きになってしまうのではないかと懸念していたのだ。いやぁ安心した。
「好きになるのはいいことですが・・でも、いけませんね」
「え?」
「聖女隊は特攻軍、戦争で命を落とす可能性が高い。残念ながら次期王であるミケーレ様の伴侶になることはできません。彼女が聖女隊を辞めるなら話は別ですが」
「わ、分かってるよ」
ミケーレは弱弱しく言った。
「無理だってことぐらい・・」
ミケーレは自分の仕事に誇りを持っている、恐らく本人の中では天職だとさえ思っているだろう。まず、止めることは考えられない。
「たとえ、受け入れられなくとも・・せめて言いたいんだ『好き』だって」
「・・言うだけですか」
「言うだけでもスゴイ勇気がいると思うよ!・・だってボク会話すらできないし」
しょぼーんと落ち込む。
『言わせてもくれないのか』
マリアンジェラの言葉が耳に蘇る。
「言って何になるというんですか」
「え?」
「『好き』だと『愛している』といったところで触れ合えない、傷つけることしか出来ないのならば、いっそ言わなければいい。言わなければ、まだ耐えられるのではないでしょうか」
「シーヴァー・・?」
「結ばれることがないのに、想いだけ伝え合うなんて、酷なこと私にはできません」
「シーヴァー・・誰か好きな人が居るの?」
シーヴァーはハッとした。しまったミケーレの前で言うことではなかった。
黙りこむと、ミケーレは優しく微笑んだ。
「それでも、好きだから『好き』って言ってほしんだと思うよ。大丈夫『好き』と言って誰も傷ついたりしないから・・」
『好き』だと、いえないほうが辛い・・本当にそうなのだろうか、言ってしまった方が・・残酷な気がする。
どんなに愛していても、ドラゴンである自分は・・人と結ばれない。
「・・考えてみます」
それでも、充たされるなら・・いいのかもしれない
アスランダを出す必要なかったような気もしなくもありません。が、物語のキーワードに・・なるはず?