第三十七章
不思議生物チェッピーに餌をやりながら、ステラは木の下でうたた寝をしているマリアンジェラをみた。
―……ここに来てからマリアンジェラは変わった。前よりも笑うようになったし、陰で泣くことも無くなった。やっぱりマリアンジェラは母国よりここのほうが良いのだろう。
それにシーヴァーの件のことも考えれば、忘れるにはうってつけの場所だ。なんていったって暴走しかないからな~ココ・・と
「マリ、起きな!風邪ひくよ」
反応はない。
いまこの館に居るのは、自分と彼女しかいない。夫人は宮殿で茶会で、ウィルは町の復興作業に勤しんでいる(強制)。
全く起きる様子が見えない、溜息を一つ漏らす。
「あー・・ケリー今何してるかしらねー、今は果実の収穫時期だよー」
一人になるといつも考える。やっぱり農民ってのは生まれ育った土地が恋しくなるのが、性のようだった。
「てか風邪ひくよ」
布団か何か取りに行こうかと思い、眠ってしまったチェッピーとマリを起こさないように歩き出す。
◇◇◇
「ん・・」
マリは目が覚めた、そこでチェッピーと居たはずのステラが居ない。何処行ったのだろう。
「んー!」
背伸びして立ち上がる。今日は本当いい天気だ。
「お花摘んで花瓶に飾ろうかな」
広い庭を歩き出し、花畑のほうに行く。一時期ララーちゃんがフラワーガーデンにはまったらしいが、一年も経たずにあきだし、放置したいろんな花々が自分の力で伸び放題に育っていた。旦那様は「コレはこれで風流がある」といって召使に手を加えないように命令してあるのだ。
「綺麗、可愛い!」
お花をいくらか摘みはじめる。
コレ王宮に上がったときにルージア様に差し上げよう・・。
「あら?レーガン今日は歩く気になったの?」
「ばふ!」
長い毛を大地ですりながらごろんごろんごろん!と転がってきた。・・歩く気はサラサラないらしい。抱っこすれば普通に重い。おなかの下腹が重力によって下に垂れていた。
「・・ほら、体中草の葉だらけじゃない・・はらってあげる」
撫でると「ばふ!」とほえて尻尾をパタパタと振り出した。
「あは!もうくすぐったい」
「こんにちわ」
「!?」
声のほうを振り向いた。
館には二人しかいないし、街から遠いところにあるはずなのに、声?
「どなたでしょう、生憎この館の主は出払っておいででおりませんの」
「それは好都合」
声の主が風に吹かれるように出てきた。白いマントを身に纏った斜めにスライドされたかのようなショートヘアの少年、害のある笑顔で微笑んだ。
「誰!?・・きゃぁあああああああああああ!」
「マリアンジェラ!?」
ステラは悲鳴を聞きつけ布団を投げ捨てて走り出した。
そこには少年にナイフを突きつけられたマリが居た。ステラは少年をにらみつける。
「あんた何者!マリを離せ!!」
「ステラ!」
「いいよー」
少年はあっさり返事するとマリを横に放り投げた。
「きゃ!?」
「マリアン・・っ!?」
少年は音もなくステラの背後に回っていた。「ばふばふ!」レーガンが吼え異変を叫ぶが誰も来ない。
「止めて!ステラに何する気!?」
「ステラサンてゆーのぉ?ちょーっと付き合ってくれる?」
「あぁ?」
少年はマリアンジェラのほうを向くとにこぉぉっと笑った。
「取引しよう、君が最強な盾をひきつけておいてくれれば、彼女を殺したりはしない」
「・・最強な盾・・?エイジスを?」
「そう、彼が居たら邪魔だからねー」
「何する気よ」
ステラが暴れながら言うと少年は笑った。
「野暮用」
マリアンジェラは涙目でうなずいた。
「分かったから・・じゃあ行きましょう」
私のたった一人の理解者なの・・。
「じゃあ、行こうか」
「・・えぇ」
少年が城に向かうために魔法を使った。
ひゅん
一瞬で城に着く。
「こんにちわー!!あのー!マリアンジェラですけど・・エイジスを知らないかしら!」
少年は姿を消しているが、ステラが苦しそうなところをみると、近くに居るらしい。
「なんだ?マリアンジェラ・アナスタジア」
(フルネーム・・)
まぁいいわ
「すこしお願いがあるの、いいかしら?」
「あぁ、別に構わないが・・」
マリは振り返った。
「ステラも行きましょう」
「え?」
少年は驚いた。この女・・邪魔する気か・・?この人どうなってもいいのか?
「ねぇ、あなたも行くでしょう?」
マリは微笑んだ。
「勿論、君も来るかにゃ?」
『な!?』
ステラは振り返って叫んだ
「ウィルシア!」
どす
「うげ!」
姿の見えなかった少年が倒れた。
「誰だコレは」
「最強な盾さん、ちゃんとしろ守らなきゃー。ね?」
足で少年の頭をふんずけながらウィルはにこやかに微笑んだ。エイジスはそれにムッとした。
「たすかったぁ」
「よかったステラ無事で・・」
「でも何で・・うお!?」
わらわらと城の人達が現れた。
「なんだー?マリ姫じゃねーか!おいショーン俺の言ったとおりだろ?」
「はい、クレト将軍!・・でもよく稽古場から聞こえましたね」
「はっはっは!」
「何事だ?」
「だー?」
王様とルージアまで現れた。
囚われた少年は苦笑いを浮かべる。
「あぁ、残念・・頭イカレてる国だと思ったのに」
少年はだんだんとその色素が薄くなると消え去った。
「消えた?!」
ステラが驚いた声を上げると、ウィルは微笑んだ。
「テルーカちゃんに聞きに行こうか」