第三十三章
「結構さー、この戦争酷いもんだぁねぇ」
エニシンは研究室でモニターを見ながら後ろに居るであろう同じ存在のテルカに話しかけた。
「そうだな、ウェザーミステリの被害が酷い。最強な盾が留守にしていたからな」
「今この国の魔法はこの『パンドラの扉』に注がれているから、今狙われると危ないんだよねーっていっても、もう攻められてんだけどサァ」
「しかし大丈夫だろうか」
テルカはモニターに映るマントの男を見た。最強な盾と呼ばれる男・・。
「最近戦意を感じられないが、必要なときにこうでは・・」
「戦意を持たせたらいいんデショぉ?」
エニシンはにっこりと笑った。
「?」
「考えがあるよぉ~んふ」
◇◇◇
「二人が一緒に来るの、珍しいね」
マリアンジェラがウィルシアの宅にきた来賓客を見ていった。やってきたのは普段よく分からない関係のテルーカ・エニシン(♀)とテルカ・ユサラ(♂)だった。
「うぉ!?双子?」
のこのこと現れたステラが驚いた声をあげていた。
「血は繋がってないちゅう」
「赤の他人だ、よく言われるがな。我々精霊属は元々性別はないし、似たようなもんだから誤解しないでくれ」
いい加減うんざりしているらしい
「私に何か用?」
「うん、マリアンジェラに『男を誘惑』してほしんだぁよ」
「・・は?」
ステラも後ろで口を開けていた。
エニシンは嬉しそうだったが、テルカはあまりノリキではなさそうだ。
「ん、貴女に男を無意識に虜にする天性の才能を見出したよ」
「見出さないで下さい」
とんでもないとマリは手を出して否定した。
「そゆわけで、頼んだよ」
「いえいえ、私は許可していませんって」
ひゅん
魔法で飛ばされた。もう、この国の人って強引なんだから・・。
「ここは?」
何もなさそうでいて草花が咲き乱れ、空があるようでいて、天井がある。なんとも不思議な空間だった
「最強な盾という名の男が居るンよ、その男を虜にしてほしんだぁ、頼んだ!」
「え?!ちょ」
言うだけ言うと去っていった。
・・どうしろと!?
「誰だ」
あぁ!見つかった
「ここに入れるのは王だけだ、去れ」
「あ、あの、出口が分からなくて」
最強な盾が現れた。
こ、ここ、怖い
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
何故か見詰め合う・・。
「お前」
そっと、頬を触れられる。
「何故泣きそうな顔をしている?」
怖いから、とはいえない。
「・・・・」
なでなで
「・・・・」
なでなで、なでなで、なんで頭なでられてるのかな?
「あの」
「ん?」
・・実はいい人?
「あの、最強な盾さん?」
「なんだ」
「名前・・のほうは?」
「我に名はない」
「どうしてですか?」
「どうして?」
最強な盾は、黙ってしまった。
「誰もつけなかっただからではないだろうか」
・・私、今まで自分がかわいそうな子だとか思ってたけど、もっと可哀想な人を見つけたのかもしれません。
「・・ごめんなさい」
「何故謝る?・・名前がないのはおかしいのか?我は最強な盾としか呼ばれたことがないから分からんが、ないのが駄目なら、名を付けてくれ」
「え?わ、私が、ですか?」
「ほかに誰が居る?我は我以外のものの名を知らん、知る必要も無い」
「そうですか・・でしたら」
・・うーん
首をひねる、名前っていっても、自分もつけたことがない・・しかも目の前の人のこともよく分からないのに・・。最強な盾・・
「そう、ですね・・『エイジス』エイジスなんてどうでしょう」
「いいんじゃないか」
即決ですね。
「ふむ、エイジス・・ふむ」
でも気に入ってくれたようだ。
エイジスはひときしり自分の名を呟いた後マリアンジェラのほうを見た。
「お前はなんという?」
「私はマリアンジェラ・アナスタジアといいます」
「マリアンジェラ」
エイジアはマリの手を掴んだ。
ん?
「我の女になれ」
天才の男誑しといった、エニシンの言葉を・・信じそうになった・・。