第三十一章
「ごめんねシア」
頬を真っ赤にしたシアを見て、ケラケラと笑うララージニア。レイモンドはコホンと咳をした。
「すまんな、フロの修理を頼むのを忘れていた」
「だからってさ」
ステラは手に持ったものを持ち上げた。
「みんなで温泉行くことないじゃん」
「汗臭いのはいやだもん、ねー」
ララーは言いながら旦那に抱きついた。
「うん、俺もいい加減血を洗い流したい」
「温泉はいる前にアンタは外の蛇口の水で血を洗い流しなさいよ」
「えぇー」
「温泉汚れちゃうでしょ」
シアはぶーぶーいいながら歩く、そして顔を上げると『温泉戸所』と書かれた銭湯に着いた。
一向は中に入りそれぞれ男湯と女湯に別れて入っていく。
カッポーン
「あぁいいお湯だこと」
「ふぃー擦り減った神経も太くなるってもんだわ」
ステラの言葉にマリは汗を流す。
「おんやぁーアースグランドのお嬢さんじゃーん」
「テルーカ・エニシン?」
湯気の向こうに見えるのは滑らかな白い肌、残念な胸のふくらみ、まさしく狂いの科学者エニシンだった。
「いいお湯ですなぁ」
「えぇほんとに」
カッポーン
「それにしても奇遇ですなぁ」
エニシンは頭に載せていたタオルを身体に巻いて隅っこのほうに寄った。
「お嬢さんも予言の確認しに来たのかい?」
「予言?」
ララーは温泉から上がるとサウナ室に入っていった。ラストに入ったらしい。
ステラは腕をひかれていたが断ってもう一度温泉に首まで使っていた。
「予言爺が97%の確率でココに敵が落ちてくるってさ」
どっごぉぉおおおおおおおおん!!
「うぉぉぉおお!?」
ステラの悲鳴が上がる。
天井がぽっかりと大きな穴が開いていた。
「――――っつ・・!」
「・・消え去るがいい『虚空月下』」
透明な三日月が刃のように相手に襲い掛かる。
「させるかぁ!!」
変な術を放ったマントの男に向かって誰かが上から術式を発動させたが、マントの男は一mmも怪我をしていない。
・・っていうか、さっきの声
「インファ!?」
「え?」
床に着地しながらその声の持ち主は振り返った。上空から入ってきた風に湯気の煙はかき消され、視界がクリアになった。
「・・お嬢様?」
そこには知らないマントの男と、インファと、シーヴァーが居た。
「・・!」
シーヴァーと眼が合った。
「お嬢様、なぜ・・そのような格好で」
そういえばここお風呂場じゃなかった?!
「っいやぁあああああああああああああああああああ!!!変態!痴漢!破廉恥!見ないでぇ!」
「マリアンジェラどうした!」
タオル一丁のウィルシアも入ってきた。
「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」
オケを掴んで投げつけた。
かっっぽーん!!直撃
「お、お前等な~~!」
崩れた天井の下敷きになっていたステラは自力で温泉から出てきた。
「ドンパチは他所でやりやがれ!殺す気か!」
「いてて、あれ?テルーカちん」
「よ」
エニシンと気軽に挨拶するウィル、エニシンはタオルをのけると通常モードの服が現れた。
「最強な盾がてこずってるのはじめてみたぁね」
「我も人の子」
最強な盾は温泉で濡れたマントを絞りながら言った。
「お嬢様、少々汚れていますが上着をドウゾ」
シーヴァーは上着を脱いでマリにかけようとした。
「嫌!」
マリはシアの後ろに隠れた。
「わお」
シアは腰に巻いたタオルが落ちないように掴む。
「・・」
シーヴァーの動きが止まった。
「・・・・・・」
「シーヴァー!!」
インファはシーヴァーの頭をはたいた。
「いったん退くわよ」
「・・あぁ」
ギロ
(おぉ、スゴイ殺気)
ウィルシアは身体が冷えていくのを感じた。
「退くというなら我も手は出さない。いけ」
二人は飛ぶように穴から去っていった、マリはひょっこり顔を出す。
「マリさんマリさん」
ウィルシアは頬を赤らめながらマリのほうを見ずにいった
「何?」
「当たってるんだけど」
「?」
シアが掴まれた腕を指差した。
「胸」
「!」
悲鳴と共に打撃の音もお風呂場に木霊した。
「あーいぃサウナだった!・・あれ?ここ露天風呂だったかな?」
ララーの言葉に脱力を覚えるしかない一同であった。