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影姫の暴走奇譚  作者: 綴何
本編
3/71

第二章

「うぶぶぶーうぅぅ」

 泣き声を口を塞ぐハンカチによって阻止された。

「なーくなー!マリーお前いっつも泣くときだけココ来るな!」

「ステラーあんたのぶんやっといてあげるから・・その泣き声黙らせといて」

「ちょ、ケリー!あーもう・・泣くなって!」

 ステラは幾分は綺麗なタオルを取るとマリアンジェラの手をひいて川に連れて行くことにした。大きな貴族の家を少し出れば農民の家がある、その農民の娘であるステラとマリーは特別仲が良かった。

 それは多分、ステラの世話好きの性格がマリーを懐かせたのだろう。

「で、今回は何で泣いてるんだ?あれか?お婆様に皮肉言われたのか?お母様に怒られたか?それとも女官に無視されたか?」

「よけい泣けてきた」

 川の近くにある畑仕事をはじめたステラをみてマリも泣くのを止めてクワをもって耕すのを手伝い始めた。

「いーよ毎回毎回泣きながら畑仕事手伝うなよ~怖いだろー」

「うぶぅ」

「お前の泣き方毎回思うけど変!・・いい年で泣くなよ・・何歳だっけ?」

「・・14」

「あたしが14んころは泣いてないぞ!」

「ステラは何歳?」

「17だ」

 そこで黙るな。

 いくらか泣くのを落ち着いたマリを見たステラがマリの頭を撫でた。

「・・で?どうした」

「インファが・・」

「女官か?」

 コクリと頷いた。

「シーヴァーを好きにならないほうがいいって・・シーヴァーも、望んでないって」

「へー・・身分違いってヤツか?」

「分からない・・でも、それでも良かった・・ただ・・私が嫌なのは」

 また泣き出しそうな顔をしたのでステラはクワを置いてタオルを常備した。

「傍にいてくれるだけで、よかった・・」

 ぶわっと涙が溢れる。

「居なくなるなんて聞いてないぃー!」

 ステラは急いでタオルを渡した。

「お前本当泣き虫だよな・・てか泣くときにいつもココ来るなよー」

「ごめん」

 本当は迷惑だといいたいが、少女があまりにもデリケートなことを知っているため中々いえない良い人なステラさん。

「あ、ほら」

 グギッと頭を掴んで曲げられる。・・痛い

「!」

 小丘の上でこちらに向かって小走りでやってきたのはシーヴァー だった。

「お嬢様、やはりこちらでしたか・・インファが心配しています。お戻りください」

 いやと断る間も与えず、シーヴァーは慣れた動作でマリをお姫様だっこした。それをみてステラはマリの頭を撫でる。

「もう来るなよ」

「うっぶふぅ」

「その泣き方はもういいから!それにな、マリ」

「?」

 ステラは小さい声でマリにだけ聞こえるように囁いた。

「言うのは自由だ。たとえ実らなくとも言うだけ言っとけ」

 マリは小さく頷いた。

 館に帰るとお風呂の用意がされており、出た後は部屋でインファが髪の毛を梳いてくれた。

「お嬢様、過ぎた言葉お許しください」

「許す・・」

「・・お嬢様」

「うん?」

 インファの手が震えだした。

「・・お嬢様の泣き方・・大変・・か、かわいらしゅうございますね」

「・・笑って良い」

「失礼します」

 インファは逃げるように去っていった。あの様子だと、大爆笑するようだ。インファは大変な笑い上戸だ。そしてインファと入れ替わるようにシーヴァーが入ってきた。

「失礼します」

 櫛を手に取ると髪を梳き始めた。

「・・」

 シーヴァーは何も言わない。私も何も言わない。

 沈黙だけがその場を支配した。

「お嬢様」

「?」

 伏せていた顔を上げると、いつの間にかシーヴァーの顔が目の前にあった。顔といっても仮面だから眼が合っているのかすら良く分からない。

「インファに何を言われたのですか?」

「・・」

「私には言いにくいですか」

「・・」

 下を向いていると顔を上げられた。

「マリアンジェラ」

 名前・・ズルい・・。

「此方を向いて、さぁ」

 顔を上げる。うぅ泣きそう

「・・一人でも平気なようにお強くなりなさい。私はもうすぐ・・」

「義兄様がウェザーミステルに行かなければ、シーヴァーも行く必要は無いでしょ?!」

 シーヴァーが驚いた顔をした。

「行かないで!シーヴァー・・私はシーヴァーが」

 口を手のひらで軽く押さえられる。シーヴァーのお気に入りの香の香りが手袋にしみこんでいて、むせそうな匂いの濃さで頭がくらくらした。

「・・お嬢様」

「!」

「私とインファは・・お嬢様のものでもなく、旦那様や奥様のものでもなく、ミケーレ様のものなのです」

 それは、丁寧でいて、率直な・・拒絶だった。

「・・最期まで言わせてもくれないのか」

 涙が頬を伝う。う・・もう・・駄目

 ぐい

「!」

 再び走り出す前に腕をつかまれ包むように抱きしめられた。

「もうすぐミケーレ様が王宮に上がられます、そのとき私もインファもついていきます」

「王宮・・」

「お別れです、お嬢様・・」

 胸がズキッと痛んだ。胸の痛みって一瞬だけかと思っていたのに・・ズキズキと痛み続ける。声の出ない涙だけが溢れる。

 シーヴァーは身体を離すとそのまま頭を下げて去っていった。

 私はその場で崩れるしかなかった・・。

「居てくれるだけで・・よかったのに」


農民の娘だけど村の中ではまだ上のほうのステラさん一家。

ちなみに家族構成は父・母・爺・姉・自分・妹・弟・弟・妹・弟の七人兄妹。

貧乏でもないけど裕福でもない。

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