第二十四章
流れる曲に合わせて煌びやかなドレスに身を包んだ女性が男性にエスコートされて踊る。
今宵、パトガー侯爵の娘の婚約パーティに招待されたウィルシア一家に引きずられて、私も連れて行かれてしまった私。パトガー侯爵は顔が広い方らしく、将軍クラスや王族クラスも参加していた。
いいのかなー私人質なのに、いいのかなー
「ねぇシア」
マリアンジェラのダンスのパートナーウィルシアは足元を見ながら返事をした。意外なことにクラシックダンスは苦手らしい。
「もうすぐ奇襲にあうって予言受けたのに、こんなことしてていいの?」
「いいんじゃなーい?それに65%だしょ?所詮予言爺の予言はくじ引きと一緒で当たったり当たらなかったりだし・・とと」
「大丈夫?・・少し休もうか」
ダンス場所から隅に移動した。
「ふー他のダンスならいいけどさー」
「ぷぷ、本当?」
「信じてないでしょー」
「お前しきたりとか苦手だからな、馬鹿だから」
「うん?おーテルカちんかー」
テルカ・ユサラ将軍がいた、コレで会うのは二回目だ。
「こんにちわ、テルカ将軍・・パートナーの方は?」
「・・テルーカに頼んだが、断られた。否、断った」
「あらら、なんで?」
「交換条件が最悪だった」
「なんだってテルーカ・エニシンだもんね、でも女性を連れてこなきゃいけないのにどうしたわけ?」
パトガー氏は交友としての出会いは好きだが、恋愛的な出会いは凄く嫌っている、というのも昔パーティのときに恋人を他の貴族男子に惑わされ、結局別れる羽目になったからだ。
「精霊をつれてきた。風の精霊だ・・気まぐれだから今どこにいるのやら・・ということで可哀想な私めと踊っていただけませんか、マリアンジェラ姫」
「だーっと、それは駄目かなー?」
私の意志は尊重されないらしい、二人はもめて好き放題言い出した。
「おぉ、お前等も来ていたが」
「クレア魔将軍」
と、その傍らにちんまりといるのはショーンだった。
「お久しぶりです!マリアンジェラ様!覚えておいでですか!?自分は魔将軍クレト部隊所属ショーンです」
「こら、ショーンここは軍地じゃないぞ」
「は!そ、そうでした、すみません」
なんだか将軍の隣にいると小さく見えて、可愛いなぁ
「大小魔薬は何時まで保つんだ?」
「エニシンが作ったやつだからな、いつでもいける」
「さすっがぁ」
マリアンジェラは目を細めた。
ココの人たちは酷く意心地のいい空間を作ってくれる、苦痛だった社交パーティも好きになれそうだった。
「久振りに酒の飲み比べでもするか」
「「いやだよ」」
クレトの提案にウィルシアとテルカは即否定した。
「おっさん巨人じゃん!飲む量がちげぇーし」
「しかも下戸じゃないか」
「うっせーレディが二人もいるんだ、気を利かせろよ」
「あぁ」
今度は三人でじゃんけんをはじめた。子どもっぽい動作が可笑しくてショーンと二人で笑った。中々終わる様子が見られないので二人で隅にある椅子に座ることにした。
「それ、その指輪、ウィルシア卿の者ですよね」
「え?どうして分かったの?」
「どうしてって、あの方しかいらっしゃいませんよ、≪愛晶≫の魔法を使える方」
「・・何ソレ」
聞くだけで恥かしい。
「高度な魔法を使える魔法使いのみ使用できるという、愛の絆の魔法です。どちらかが死なない限り指輪が外れることはありません」
「そうなんだ、・・って別に私シアと婚約者ってわけじゃないの」
「えぇ?そうなんですか?ってことは求愛ですね・・羨ましいです、女性は皆憧れてるんですよ」
「そうなの?」
「はい、伝説の一つにララージニア様がその魔法をレイモンド卿にかけた、って・・本当なら指に毎日色の変わる指輪をしているはずです」
「へー、物知りなんだねショーンさん。ショーンさんも私と同国出身でしょう?」
「はい、・・親が税金払えなくて・・親は私を惜し気もなく妓楼に売ろうとしました」
「・・」
「でも、そこでたまたま私の村近くで国の挑発していたクレト将軍が私を救ってくれたんです。その時親は死んでしまいましたが、後悔はありません」
ショーンは真っ直ぐマリアンジェラの目をみた。
「マリアンジェラ様は、人質にこちらに来たと聞きしました」
「・・」
「いずれ貴女はアースグランドに帰ってしまわれるのですか?」
マリアンジェラは答えられなかった。帰らなければならないとは思うけど、帰ったところで居場所がないような気が・・
「お嬢さん、私どもと踊りませんか?」
「え?」
厳つい男と、細長い顔の男・・二人はショーンとマリアンジェラの身体をジロジロ見て微笑んだ。
気持悪い。二人の心の声が一緒になった。
「いえ、私達踊る人がいるので・・」
「いいじゃないですか、一曲だけ」
つかまれた手が湿っていて、ゾワッとした。
「止めてください」
「何故嫌がるのですか?」
「離して」
ショーンは掴まれた腕を強く押しのけると、男は自尊心が傷ついたらしい、むっとした様子で鼻で笑った。
「ふん、こっちがせっかくこの界じゃ見ないと思って誘ってやったのに・・ことわるなんてな」
「あぁ、どうせ成り上がりか、教養のない家の育ちだろう」
「なっ!」
ショーンは男どもをキッと睨んだ。
「う」
びくっと男は震えたが、そんな自分もいやだったらしい、誤魔化すようにワインの注がれたコップを掴んだ。
「なんだその目は!」
バシャ!
「きゃ」
ショーンのドレスがワインの赤に染まっていく。
「ぷーはははは!下女にはソレがお似合いだぜ」
「つまらない女を相手にしたな、他のところにいこうぜ」
「あぁ」
つまらない、女・・?
・・・・はぁぁああああああああああ!?
頭の中で何かが切れる音がした。
「お待ちなさい!」
マリアンジェラは持っていた扇子を男どもの目の前に示した。
「お前達、淑女を汚すとは何事ですか、そもそも名も名乗らず、礼儀に欠けているとは思わないのですか」
「なんだ、お前」
「淑女がぺらぺらと、はしたないな」
「はしたないのはそちらだ!」
ショーンも加勢した。
「うぐぐ」
周りの視線も集まり男達の立場もなくなってきた。
「くっそがぁああ」
逆上した男がナイフを掴み、襲い掛かった。
女性の悲鳴が上がった。