第十六章
昔、ウェザーミステル国のには、エドゥアルドという果敢な青年がいた。彼の目指す国は、富国強兵で、国を栄えさせるために沢山の努力をした・・。
その途中、ソレをよく思わない竜族が、エドゥアルドに脅しをかけはじめた。しかし、彼は国の北のほうに国を営んでいた竜神族に対し、強気な姿勢を見せた。
戦争をおこしたのだ。
エドゥアルドの強気の姿勢に好意を抱いた、精霊界の王アルフレッドは彼に協力し、戦争では勝利をおさめた。竜神は素直に降伏した。
それから何年か経ち、エドゥアルドが引退した後をレジナルドという男が継いだ。彼は父親の示した富国強兵の変わりに、新たに自由な国を制定した。といっても何が自由なのか分からないから、国民の望みを聞いて、何でも答えることにした。
そのなかで『実験を充実させたい』という人がいた。竜神というものを、調べたい。竜神という生き物を実験したいと・・。
その願いは受理された。
「小国は築けるほどの種族が、今では絶滅危惧種にまでなってしまいましたとさ」
「最低ですね」
「敬語で言われると凄く傷つくね、でもそれももう、何十年もの話だしさー」
「でも何年か前、人間と竜神との間で子ども作ったらどうなるかって、実験したよねぇー」
「あー」
なんで、酷い話を軽々とできるんだろう・・もう一発
「その子どもなら会ったよ?『インファ』っていう女の人」
・・インファ・・?
「竜神族は彼女を歓迎したらしいねー彼女もすっかり竜神族の戦士の顔になってましたよ」
「この国が嫌いだからって中立派から敵国に行かなくてもいいのにねー」
「いくでしょう!?普通」
信じられない!
「帰る!」
「え?」
マリアンジェラは歩き出したが、すぐにウィルに追いかけられる。
「何処いく?」
「帰るの!私を今すぐ故郷に帰して!」
「はい、そーですかって言うわけないでしょうよ」
「いい加減に」
右手をあげたが、掴まれ、抱きしめられた。
「帰さない」
「なっ」
・・なんで抱きしめるの?
まるで囁くようにウィルシアはいった。
「一目見て分かった、君すごく悲しい顔をしてた。あの国が君にもたらすものは『苦痛』『悲哀』『絶望』・・そうでしょ」
どうして、その話になったんだろう
図星をつかれ、何もいえなくなる、そんな自分が情けなくて・・悲しくなってきた。認めたくないけど、事実なのだから・・仕方ない
「・・うぶ・・うぅ、んっ・・」
泣きそうになり、口を押さえる。ソレを見たウィルは小さな子どもをあやすように、背中をポンポンッと軽く叩いた。
「泣いていいよ、君が感情を上手く出せないのは、泣くのを我慢するからだ」
「・・っ・・うぁ、うぁぁあぁん!」
なんでだろう、全く空気が読めないくせに、情けなんてなさそうに見えるのに、神経図太そうなくせに・・。この人といると安心する。素直になれる。
「よーし、じゃぁ泣いた後は叫びましょー」
魔法で移動する。
目の前に広がるのは大きな木の上
「うきゃぁあぁ!?」
「おーおーいい叫びですなー」
「降ろして!馬鹿ァ!?」
「おーけ」
木から飛び降りた。
「いやぁああああああああああぁぁぁ!!!??」
だれが飛び降りろって言ったのォぉー!!
ビュォォォ!
風が二人を抱きとめるとウィルシアはそのまま上空を飛んでいった。お姫様抱っこされたまま何もいえないマリアンジェラ
この人にもう何いっても駄目な気がする。
「わぁ!」
綺麗な透明な湖の上を飛ぶ、水面にはキラキラ光小さな魚の群れが見えた。
「・・すごい」
「お、やっと笑いましたねーんじゃコレなんていかが?」
一気に上空に飛び上がると、雲を突き抜けた。燦燦と輝く太陽だけある。ウィルシアは魔法で雲を固めると、その上に降りた。
「うわぁ、怖い・・」
「落としてあげようか?」
「結構よ!?」
二人で大笑いをして、横に転げた。
彼女にはまるでさっきまでの会話が嘘のように思えた。
「マリアンジェラ」
「はい?」
名前を呼ばれ横を見ると、優しい顔をしたウィルシアがいた。
「本当に、この国に住んじゃいなよ」
「・・」
「ふざけたヤツとか多いけどさ、根は真面目なヤツばっかりですよ」
「あなたが言う?」
笑いながらいうと、左手に違和感を感じた。
横を見るとウィルシアが目を閉じたまま左手を握っていた。・・話の途中で寝ちゃうのね・・。
「・・変な人」
顔を上げる、太陽が少しずつ傾いていく、もうじき日が沈む・・
「・・シーヴァー・・」
インファからプレゼントされたものを見る。
私知ってるんだから・・これ、シーヴァーが大事にしていたものだって・・。いっていたこと覚えてるんだから・・。なんでくれたの?お別れになの・・?
分からない
「分からないよ」
お願いだから、ねぇシーヴァー・・
「教えてよ・・」
嘘でもいいから『好き』だといってよ・・。
眠ってしまった姫を起こさぬようにウィルシアは起き上がった。
「竜神族が生まれたときに一緒に現れるという秘玉を、人間の少女に渡すなんて・・前例がないな」
ウィルは握った手を離さないまま笑った。
「ライバルか・・面白い」
仮面の男を思い出す。
すれ違いの男女の邪魔をするのは糸を切るより容易い。