第十章
「ふんふんふーん」
先ほど商人から買ったばかりの花瓶を持って歩く、こんないいものだ花を大量に買って綺麗に飾ろう。花瓶を持って部屋に入ると、袖の小さなフリフリを弄っているミケーレが見えた。
「ミケーレ様いかがなさいました?穴でもあきましたか」
「わ!?や、な、いやなんでもないです!」
「?」
逃げるように去っていったミケーレを見送って、不思議に思いながらもいつものことなので花瓶を机の上において歩き出す。
町に花を買いに行こう。
「あら」
スタスタスタと歩いているのはシーヴァーだった。
「シーヴァー」
スタスタスタ
「・・」
前を見ているのに前を見ていない。いや、周りを見ていないというところか・・
「・・シーヴァー!!」
「!」
すれ違ってやっと気がついた。本気で気がついていなかったらしく、振り返るとやっと眼が合った。
「何急いでいるの?」
「別に急いでなど」
「じゃあ考え事?」
「・・」
何を考えているのかなんて聞かなくても分かるけどね。
「お嬢様のこと?」
「何も言っていないじゃないか」
「顔に出て・・ないけど、なんとなく分かるわよ」
仮面でも分かる、付き合い長いし。
「お嬢様は聖女隊に選ばれたわ、恐らくそれもアーロズが出るときに出される予定のはず」
「知っている」
「心配ね」
「当たり前だ、あまり武術は教え込んでいない。必要も無かった」
「確かにね」
貴族の姫があまり武術を使うなんていうのも、体裁が悪い、マサカ戦場に出ることになるなんて考えても見なかったし。
「ねぇ、シーヴァー」
「なんだ」
「好きなんでしょう、姫のこと」
「・・」
「いいじゃない、想うだけなら」
インファは庭園に目を向けた。ミケーレの部屋を出てすぐに見える庭園は木々が青々と茂っていて、実に清々しいものだった。
「好きなんでしょう?」
「・・当たり前だ」
仮面が此方を真っ直ぐに見ていた。
「彼女の名前は私がつけた、彼女の世話はずっと私がしていた。ずっと一緒にいた」
「言葉だけでも、言ってあげたらいいじゃない」
「駄目だ。分かっているだろう」
「言うだけよ」
「二人とも、どうしたの?」
ミケーレが二人が深刻そうに話しているから心配して顔を出して聞いてきた。インファは誤魔化すように微笑んだ。
「花瓶に活ける花を何にするか考えていたんです、どんな花がいいですか?」
「え?っと・・ボクは可愛い花がいいかな、小さくてカラフルな花」
「かしこまりました」
歩き出そうとするとき、シーヴァーに腕を掴まれた。
「インファ、今度『聖女隊』に顔を出すらしいな」
「えぇ」
「これを、お嬢様に渡してきて欲しい」
「OK」
歩き出す。ミケーレがまだ此方を見ていたが気づかないふりをして歩き出す。
「それにしても、本当に私達の一族は深く真面目で」
インファは目を細めた
「狂気的な種族ね」
シーヴァーが部屋に入るとミケーレがワクワクした顔でシーヴァーを見つめた。
「・・なんでしょう」
「インファに何を渡したのかなーって」
「・・くだらないものです」
「ふーん」
にこにこ
「・・」
何か勘違いしているのか?
「インファとシーヴァーって仲いいよねぇ」
・・勘違いしてる?