神官の願い7
「なにを世迷いごとを言っておる!?」
神官長は悲鳴にも似た声を上げる。
「カイン!!目をさませ!お止めしろ!救世主様をお止めしろ!」
しかしカインはその声がきこえていないとでもいうかのように一歩ティアーリエに近づいた。
「この男はね、いや、この召還を認めた国王と神殿はね、どうしても救世主さまに出て行ってほしくないのですよ」
カインは不自然なほどの笑顔。
自分の立場がわかっているのだろうか。
「くっ!気にあてられたか・・・!」
レイホウが唸る。
ティアーリエは黙って聞いた。
「召還された救世主っていうのは、たぐいまれなる魔力をお持ちだ。
今回あなたの召還に成功したのも奇跡のような確立なんですよ。そして隣国に怯え衰退しつつあるこの国の、最後の希望でもあった。
かねてからの計画はね、何も知らないうちから救世主様を城に閉じ込めて見聞きを封じ、砂糖漬けのように甘やかしてこちらに依存させる。救世主といえどもいままでの記録にのこっている方々はいつも、ごくごく普通の村娘だとか学生だと自ら名乗っていたようだからね。
いくら魔力が高くても、心はヒトのまま脆かった。
・・・・・・果てにはここから逃げられないように、あてがった人間のなかから好きなものを選ばせ結婚させる・・・。愛という鎖で縛り付けた。
その力をこの国のために搾取するために」
「カイン!!」
ティアーリエは半眼になりため息をついた。
まあ、そんなところだと思っていた。
「・・・それで?」
「驚きませんね。不思議な方だ。
・・・ねえ、俺を連れて行ってよ救世主様。
こう見えても腕は立つんだ。あなたの邪魔にはならない。
それにあなたはまだこの世界を知らなすぎるでしょ?俺なら案内してあげられるよ」
「・・・・・・連れはいらん」
ティアーリエは彼らに背中を向ける。
そう、連れはいらない。
友も、家族も、恋人も、いらない。
わたしが欲しいのはーーーーー。
目をつむりイメージすると、ティアーリエの体がふわりと浮いた。
「ああ、じゃあ、勝手についていくことにするよ」
ついてこれない奴はいらないってことだよね、と、背後にカインの笑顔の気配。
すこし、気味が悪い。苛立の様な、引き裂きたくなる衝動を抑えがたくて、ティアーリエは拳を握る。
じわ、と首からかけた指輪が一瞬熱を帯びた様な気がした。
「・・・・・・勝手にしろ」
ばさり、と音を立て、ティアーリエの背中から生えた翼が羽ばたきはじめる。
「救世主様ってわりと派手好きなんですね〜」
いいつつカインはどこからかボードの様なものをとりだしその上に乗る。
するとそこから垂直に金属らしき棒がのび、左右に割れた。ゆっくりと風邪を巻き込みながら、それも浮く。
「カイン!・・・この!これは反逆罪だぞ!!」
レイホウが、立ち上がり魔術を施行しようとする。
それを見ながらティアーリエは口を開く。
「カインと言ったっけ」
「・・・!は、はい!」
振り返ったティアーリエに初めて名を呼ばれ、カインの頬は上気する。
その顔はまるで飼い犬が主人に褒めてもらった時のあの顔と同じというか・・・。
目がキラキラしている。
「おまえ、レイホウをなんとかしてみろ」
「テストっていうことですか!?」
「・・・そうとってくれていい。が、わたしは行く。お前はレイホウを片付けてから追いつけるものならわたしに追いついてくるがいい」
ティアーリエには追いつかせてやる気はさらさらないが。
カインは笑った。
「地の果てまで追いかけてやりますよ」
にっこり。
カインの笑顔を見てティアーリエはげんなりした。
これでは最後にかわした奴との会話にそっくりではないか。
・・・・・・こいつはラグの生まれ変わりかなんかか?
あいつのときの二の舞にならないように、できるだけ遠くに逃げておこう。
ティアーリエは大きく羽根を動かした。
『神官の願い』はここでひとまず終わりです。
次からはティアーリエが外の世界にでます。