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はきだめと風  作者: 伯佐
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神官の願い4

「なにか・・・と、言われましても」

 

レイホウはちらりと後ろの部下に目をやり言葉を濁す。

救世主殿を半分悪魔と思っている彼は、可哀想に、顔を真っ青にしてがたがた震えはじめた。

ああ、そんなに震えずとも心配はいらないのに。声をかけてやりたいがかの方がいる前ではそれもやめておいた。

 

「具体的にはなにをすれば・・・?」

 

「そうだな・・・たとえば、そいつの足を切って、肉体の再生とか」

 

部下は硬直し、泡を吹いて気絶した。

しかしレイホウはティアーリエの言わんとしたことに気づいたのか首をふる。

 

「いいえ、いったん失ったものはいかに強力な力の魔術師といえど再生は不可能です。ああしかし、あなた様くらいのお方であれば可能かもしれませんなあ」

 

「なんだそれは。褒めているのか?無駄口叩かずこちらの人間を基準としてはなせ」

 

救世主に世辞は通用しなかった。

レイホウは苦笑して話す。

 

「たとえば、生き物はいつか死ぬでしょう。ヒトの領域でその再生は不可能であるように、いちど失われた物体も他の物を精製しあてがうのならともかく、元どおりに再生させるというのは神の領域であり、人間の手出しできるものではないのですよ」

 

「ふむ・・・・・・」

 

「ただ、こちらには治癒に特化した魔法や、我が国には錬金の技術があります。あなた様のお役にたてるかと」

 

「・・・・・・治癒か。いいだろう。そこの男だ、倒れたそいつをもってこっちへこい」

 

先ほど、ティアーリエの縄をといた女を手招きして呼び寄せた男に近くに泡をふいて倒れた男をひきずって近寄らせる。

近くで見れば、どちらも割と若く、二十代くらいの青年だった。

青年が気失ったほうの足を持ったため、狭い室内に所狭しとおかれていた怪しげな木箱や壷にガコガコと頭をぶつける男。

青年は気にも留めないのか笑顔だった。

 

そうだ。多くが顔をひきつらせる中、こいつは最初から笑っていた。

わずかながら、彼からは自分と同じにおいがする。

 

 

「それにしても・・・片足がないというのは不便だな・・・」

 

「あ、それでしたら・・・」

 

気を失った男の足を引きずってきていた青年がぱっと振り向いた。

笑顔だ。

 

・・・・・・。

 

 

「魔力を体の中心に集めて、一時的に体を浮かせてバランスをとられてはいかがですか?」

 

「そんなことができるのか」

 

「はい。救世主様くらいの魔力でしたら簡単でしょう。こう・・・空気を固めて義足ができるようなイメージをつくるのです。ああ、それよりもまず、ふわっと、こうふわっと体が浮くように念じて」

 

「こうか?」

 

「お、おいカイン・・・」

 

レイホウが止めるのもきかず、カインとよばれた男は持っていた男の足をほおりだし、喜々としてティアーリエの前に立つ。

男の踵は重力のかかった己の体重によって床に叩き付けられ痛々しくコテン、と傾いだ。

 

「失礼します」

 

「おい、コラ・・・」

 

脇に手を差し込まれ、ティアーリエの腰が浮く。

足の裏が床につき、膝がくの字に曲がり、カインの腕はそこで停止する。

 

「イメージしてください。あなたには背中に羽が生えました」

 

「は?」

 

「か、カイン・・・それじゃあほんとうに生えてしまうんじゃ・・・あの・・・ご、ごめんなさいごめんなさい」

 

気づけばさっきの女が謝っていた。その怯えた視線の先には・・・・・・カイン。

ティアーリエが見上げたときにはその視線は穏やかそのものにもどっていたがレイホウまでもがその変わりように目を見張っていた。

ティアーリエはなにがあったのかと内心首を傾げる。

 

「しかたないですね・・・じゃあ、あなたのからだのなかには途方もない魔力がうずまいているのです。その力をかりて、体を浮上させてください。真綿のように、わき上がる湯のように、ふわっとふわっと」

 

「ふ、ふわっと・・・」

 

「ああ、そうですそうです。見てください、立っておられますよ!」

 

カインが脇から手を抜き、拍手する。

ティアーリエは浮いていた。床上二・三センチといったところだが、たしかに浮いた。

 

「おお?」

 

しかし、ぐらりと体が傾ぐ。

 

浮いた。

 

・・・これが魔法か・・・。

 

しかしバランスが悪いのか、ティアーリエは片足がある方向へくるくると回転しだしてしまう。

 

思わず苦笑した。

 

・・・まったく滑稽な。ここで襲われたらひとたまりもないな。

ティアーリエは流れるままに回転し、意思をもって直立の体勢にもどる。

 

 

「ここに義足を念じるのだな」

 

 

カインが頷くのを確認し、ティアーリエは目をとじる。

そんなに想像力豊かというわけでもないので以前引退した同僚がはめていた義足を思い浮かべた。

すると、軽い方の片足がグン、と重くなる。

 

おお、という黒い固まり共の声に目をあけると底には銀の義足が足に嵌め込まれていた。


 


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