神官の願い2
「とりあえずお前達はそこから動くな・・・そこの、女」
ティアーリエに顎でさされた、黒尽くめのなかの唯一の女性がうわずった声で返事をした。
銀髪をフードからたらしている。周りの中年に比べるとまだ若い。
「わたしの腕の縄をとけ」
ティアーリエは、さっき傍らの男に体当たりをするとき、後ろにまわっていた腕を一瞬で前にまわし床に手をついた。無理にねじったため関節が痛い。
まあそれはいいのだが、まだ両手はひとつに縛られたままだった。
女はおろおろと周りを見渡すが目を合わせようとする者はいない。
・・・なんとも思いやりのない。
最年少らしき、しかも女の同僚に、不審人物への接近を「やはり自分が」と身代わりにでるような甲斐はないのか男共。まあ、わたしには関係ないけど。
「さっさとしろ。不信な行動があったらこいつのようにしてやる」
わたしは傍らで倒れる男を振り返った。
「・・・・・・・・・」
女は青ざめ、コクコクと小刻みに頷いた。
女が跪き、縄に手をかけ念入りに固められた結びを解いていく。
「・・・・・・あの」
「なんだ」
「そっ、その、お御足のお怪我はどうされますか・・・」
顔の横で、女の銀のウェーブが揺れる。
「どうするとは?」
「あ、あの・・・その、だから・・・」
「はっきりこたえろ」
無感情なティアーリエの、冷たくもきこえる声にすくみあがりながら、女はこたえた。
「よ、よろしければわたくしが治療させていただきますが・・・」
「黙れ」
「ひっ・・・・・・も、申し訳ございません!申し訳ございません!」
それ以降女は顔を伏せてしまい、縄と格闘することに専念してしまった。ずび、と鼻をすするような音がきこえたので泣いているのだとわかった。
・・・・・・なぜ泣く。
よくも知らない者に傷口を触らせられるわけがないだろう。それに今はそんな時じゃない。
ずびずび泣く女を尻目に、ティアーリエは彼女が無害であると判断してか中年男性のほうに顔を向けた。
「レイホウといったか」
「はい」
「ここはどこだ」
「ここはガザ国首都メールにあるレイア城でございます」
まるでその問いをされることを知っていたかのような口ぶりでレイホウはこたえた。
「貴様、頭がおかしいのか?そんな地名きいたことはない」
「ああ、それは我らがあなた様を異なる大地から召還したからでございましょう」
「異なる大地だと?」
世界は広く、壮大であることは知っている。まだ見ぬ大陸が海の向こうに広がっていることも知っていた。どこかの国のお偉方が軍神の名を伝え聞いたか?あの愚王がそして片足のないわたしを売ったとか?ーーーーーいや、ない。片足のない軍神にどうして価値がつこうか。物好きな輩がいたとして、どうしてあの狂った処刑の場から罪人をひきぬけようか。
「お前達はどうやってわたしをあの場から連れ出したのだ」
「あなたさまがおすわりになっているその下の円によって、にございます」
・・・・・・。
見るとたしかに、そこにはチョークのようなもので描かれた円があった。
「これがなんだ」
「これは魔法陣というものです」
「なんだそれは。絵物語か」
こいつら、頭がおかしいのか?
しかし、こんなひょろい奴らがあの場からわたしを攫ってくることなんてできないだろう。
「完結にこたえろ。何をした?」
「我らはその陣によって魔法を使役し、異世界よりあなた様を召還いたしました」