神官の願い1
たしかに、ギロチンのほうに歩き出したはずだったーーーーーはずだったのだが。
ティアーリエは三歩目で自分がどこにいるのか一瞬見失う。
そして突如現れた黒尽くめの男たちが自分をとり囲んでいると知ると身をかがめ、まるで獣のようによつんばいになって腕で床を蹴り上体をはねあげ、のこった片足だけでバランスをとりながら狙いすましたひとりに体当たりした。
「げふっ」
ティアーリエの肘をまともに鳩尾に受けた黒づくめは悶絶して倒れ込む。
ティアーリエもそのうえに倒れ込んだ。
・・・戦士じゃない。
戦う者の体をしていなかった。
顔や肘を入れた体の感触からしてこの人間はただの中太りな中年男だ。
まわりの奴らもそうなんだろう。
ティアーリエの動きを見て怯えたように部屋の隅に固まっている。
ティアーリエは倒れた男の脇に座り込んだ。立てないのだ。
足を失ってすぐに処刑ときたもんだから手当もろくにしていないし、義足なんて尚用意していない。
ティアーリエは部屋のすみの黒い固まりに言葉を発した。
「ここはどこだ」
だれも動こうとすらしない。
ティアーリエは傍らの男の首に手をかける。
「こいつの命が惜しくないのか」
黒い固まり達は額にじっとり汗をにじませこそこそと密談しはじめた。
・・・なんだ、それほど惜しくないのか。
ティアーリエは男を見下ろした。残念な仲間を持った者だな、お前。いや、仕事仲間か?遊び仲間か?だとしたらなんの遊びだ。黒魔術でもしてたのかという部屋だった。
こそこそしだした固まりに耳を向ける。
この部屋はそんなに広くない。声をひそめてもこっちにきこえるのがわからないのだろうか。
「あれはなんです?」
「きゅきゅきゅ、救世主殿であろう・・・」
「しかしあの容姿は救世主というより・・・」
「まかり間違って悪魔なぞ喚ぼうものなら我らは破滅ですぞ」
「しかし一瞬でカリオス殿を殺した」
・・・殺してない。
「我らはまちがってなどいないはずだ!陣も7人全員で確認しあっただろう」
「彼の方にきくのがいちばんかと」
「う、うむ・・・」
「では神官長」
「神官長」
せっつかれて一歩こちらに出てきたのはこれまた中年の男。この昏倒させた男と違いがわからない。
「突然来訪いただきましたこと、まことに感謝いたします。私の名はレイホウ。この城で神官長を勤めさせていただいております」
「城?」
あの愚王、わたしを殺さなかったのか。そのあたりの記憶がぬけている。
「あなたをおよびしたのは、あるお願いがあってこそ。しかし・・・その前にそこのカリオス殿をかえしてはいただけないか」
「無理な相談だ」
これは大事な人質だ。
「まずはわたしの質問にこたえろ」
わたしの言葉に、男はうなずいた。
「・・・いいでしょう」