駱駝,第一幕
知らないと言うまい、其処に眠る悪意に。
気づかないフリをしているだけだ。
耳に挟んだのなら気をつけた方がいい、彼の存在意義を
貯めて、溜めて、先の見えない砂漠の向こうでもかの巨人のような足は止まることを考えない。
これは、私が殺されるまでの物語。
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普通科が担当する南西等方向に位置する街。そこの裏路地にひっそりと佇むお店【ROOteen】
地図にも乗らないような質素なカフェ、今じゃその知名度の無さが逆に賞金稼ぎ達の溜まり場として使われている。
手をかけるだけでギィと不安な音を漏らすカウンター、そこには学園とは程遠い積もった灰皿が置かれており一目で治安を理解、ため息を漏らす。
「あんた、セルディアのところのか。懐かしい顔は?大久多辺りはまだ生きてるだろう?」
隣から話しかけてきた疲れきった顔の男。
まん丸な眼鏡にスーツを身にまとっている。怪しさ抜群の容姿、歳食った顔をしているが胸には数学科のワッペン、同い年かマジかよ。
「残念、最近味多屋の警備員やってたんだけど、ただの喧嘩に巻き込まれて死んじゃった。呆気なかったよ。」
「ははー、生き残りの賭けは俺の勝ちだぁ。......全員死んじゃったけど。意味なかった、いやあんたは?」
「勘弁して。私は賭けの存在すら知らなかったし、今日は仕事しに来たの。」
「セルディアねぇ〜昔は人気あったんだけどね。どこもかしこも引っ張りだこだった。『内緒話するならセルディアがいるカフェで』、だなんて十八番すぎて逆に捕まりやすかったくらいだ。」
「最近は物騒だからね。無差別テロを起こそうとするソロは珍しくなくなってきた、このまま活気も戻ってくるといいけどね。」
酒場……とかだったらこの会話ももうちょっとかっこよかったのだろうか。
実際はただのカフェ、オシャレな店内に軽快ジャズが流れている。スピーカーから流れるトランペットは少し掠れていてそれがなお味を出していると言える。
豆の引く音、止まることなく立ち上っていく湯気、鼻の奥へと入っていく甘くもほろ苦いこのコーヒーカップに恋に落ち一口、口に運ぶ。
「普通科の三丁目齊橋前のビジネスホテル『ファウスト』のラウンジ、ここにかの有名な駱駝が来るらしい。」
「どうしたの、急に?」
「いい仕事があるんだ。セルディアの生き残りそして高名な賞金稼ぎ殿。」
「……悪趣味。」
レコードから針が離れる。人肌の空気がグラスの中のそれを溶かしていく、カランっと音を立てて落ちたのだろう。
お湯を注ぐ音、トランプを擦る音、歩く革靴の底の音。全てが試すように一つ一つ耳に残る。
「相場は?」
「200でどうだ?」
「名前殺しだなんて協力してあげてんだよ?命がいくつあっても足りないよ」
「わかった300でどうだ?」
「350」
「......わかったさ、はぁ予算が軽く吹き飛んだよ。」
おっさん顔の苦笑いに興味は無い、だが良い話だ。
お小遣いも貰ったのだ、この拳は人形を握りしめる。
「いいよ、手伝ってあげる。駱駝狩り。」
-(*)
私は人の顔を覚えられない、その綺麗な髪もその可愛らしい唇も、愛らしい耳も……触ってみたりもした。ただ何か柔い生きた人形を触っているみたいで。
医者にはそういう病気だと言われた。
『あなたはだぁれ?』
『――私はあなたのお母さんよ』
『あなたはだぁれ?』
『――私はあなたの先生ですよ』
『あなたは?』
『私は君のお父さんだよ』
グパッと霧の中から目が開いた、大きな目。顔がその目で覆われるほどの。
ジロジロ私を見るように、人の瞳の色はここまで薄黒いのだろうか?膜が張っていて境界線からは黒い液体が這い寄る涙のように漏れ出てくる。
焼き付かれると言うのだろうか、その目は笑っていた。
『……だぁれ?』
-(*)
先程のカフェ、今度は大きく六人は同士に使えるテーブルの席。
「先輩、鎮玲は勧誘出来たんっすか?」
「ああ、先程指定した店に出かけに行ったよ。渋々だけどね、決戦は多分今日の夜。」
甘い黒の上に白濁が放り込む、湯気は空を目指して立ち上り甘い香りがここまで漂う。
「煙草、いいっすか」
「いいけど、よくやるな〜、まだ俺らは高校生だぞ。カッコつけ以外に何をやるってんだか」
「その通り格好つけてんすよ。入りたては舐められやすいっすから形だけでもって」
「身体壊しちゃったら元も子もないでしょーに」
「心配ありがとうございます。でももう中毒なんでいいっす」
手の中に収まるような長方形の機械、iQOSと言うやつだろうか。煙草の煙はこっちに飛んでこない
彼なりに気遣ってくれているのだろうか?全く……
「フゥー……」
「……。」
前言撤回、やはり煙は嫌いだ。
「――てか、勝てるんです?相手は一人といえど名前持ち……寄せ集め9人じゃちと厳しいんじゃないんすか?」
「まぁな」
「ええ、無駄死にっすか?」
「な訳ないだろう?こっちは本気で殺そうとしてんだ。」
「いや傍から見たら舐めプですよ。」
「だから鎮玲呼んだんだろ」
煙をまた吐く、それはため息のようで俺はまた目を細める。そして胸ポケットから取り出したのは小さなメモ帳
「朝難鎮玲。セルディアの現構成員、元セルディア頭領 浮舟鉄斎死亡後、構成員の殆どが抜けた現在でもセルディアに未だに縋り残り続ける亡霊古参。……すね」
「まだ非常識のルールに従い、その業が産んだ化け物の1人だよ。常人には追いつけない頭が行かれているのさ。」
「なるほど、では……先輩は鎮玲さん一人でもあの駱駝に勝てるとでも?」
いつもより毛並みが良い馬に賭けるように、12に打ち勝つ13を待つように、泡沫にも残らない淡い期待。命をコインに賭けている
「……正直期待してしまうな。」
今夜決まる、その行く末に湧き上がる心に音頭を取るのだった。
久しぶりの投稿です、実は風邪をひきまして。
これだから風邪のシーズンは嫌ですね。
たまたまでもいいのです、この作品が目に止まったのなら出来れば見てってください。




