幽霊,終症
廃倉庫の奥で起きたこと、それは天地が揺れ圧倒的な威圧感を放っている。
電撃……!?、レーザーのように伸びている。
「電磁砲か!!」
その時だ。その青い光はグラつき前方へと倒れていく、いやただ食佳自身がその大剣を持ち上げられなかったとかではない、言うなれば悪意を持った一撃。
食佳は大きく振りかぶり電磁砲ごと剣を振り下ろした。
大きな音を立て地面は割れる。廃倉庫も天井、床を巻き込み真っ二つだ。
「ふっ、ふぅ……。グゥ…!!」
「あッ……!」
危ねぇ……!!一直線に降ろされたから避ける光の剣。
元が電気ってだけで剣の周りには磁場が発生してる、はず、風圧、磁場反発と反発が混ざりあって剣の周りには仮想の物質のようなものが出来ていた、多分あれに触れていたら……
「……!」
その時、俺に見えたのは仮想の物質に触れスルリと落ちていく金色の髪、そして大剣の先をこちらに向けるかの暴虐の戦士だった。
そこに発するは火花の音、頭の中で何かが切れる音共に放たれた赤と黄色の閃光が弾き弾が飛ぶ。2発、俺は2回そのトリガーを引いた。
「しかもただの弾じゃねぇぞ!!俺の人形!特攻弾丸『夜露死苦』ゥ!!捻り周りを巻き込み"ごと"削る弾ァ!!」
奴は撃ってない、インターバルがあるのかまともに俺の弾丸を喰らった。
ぐちゃっと醜い音が鳴る。頬を貫き捻じる弾により頬の皮膚は見えないなにかに食いちぎられるかのように一瞬で消えていった。
「がぁ!!!」
「どうよ!だとしてもチンピラ!だがこれがチンピラ!!善行猪の犬として特攻任されてきた男の一撃よ!!早撃ち、正確性、人形、全てにおいて高純質!!"悪"舐めたクソガキの出る枠じゃねぇんだ!!」
――暗い廃倉庫、激戦区とも呼べるそこで一人の探偵が反応を示した。
目出し帽を深く被り、軽く2人の攻防をいなす彼はついに口を開く。
【自分より技術が格上の相手と戦う際、どうすればこの学園の世界で生き残れるのか?】
その場で最前の行動をできる判断力や、それすら超える努力……否。そんなものでは生き残れるはずがない。
探偵は知っている、なぜなら自分が経験者であるからだ。
自分より格上の技術や戦闘能力持つ際、それに唯一対抗出来る手段。……それとは。
「……いや、いや待て……!お前!それェ!!舐めてんじゃねぇのかよ!!」
――技術さえ全て無に帰す程の、人形を手に入れる運だ。
「龍帝..萬雷。」
剣の先に貯められたエネルギーは磁場と巻き上がる風により、一本の線としてまるで先程の殴り書きのような一矢とは違うなぞり書きのような綺麗でありそれでいて余韻などない音さえかき消す一撃が放たれた。
「兄貴ィ!!!」
ああ、今思うと彼は最初の一撃、磁場が一番強い位置でもろに食らっていた。多分先程の技を打つ時にはもう意識すら飛んでいたのだろう。
だから……俺の弾丸を喰らっても平気でいられた、そもそも意識がないからだ。でも、彼はそんな深い深海とも呼べる暗い底の中でただ柄だけを握り、俺に一発撃った。
「……パネェや。」
ボタボタと血の冠が流れ落ちる、曖昧な瞳孔を無理やり下に向ける。右腕が吹き飛んでいる脇腹にも半円の穴が空いてしまっている。
ああ、死んでしまう。このままだと、止血…しないと。
土埃が舞った、ボフッと軽快な音と共に。
-(*)
響渡る音に全員が目を向ける。
「あれが助手クンの本気…意外だね。一般生徒と聞いていたからもう少し柔いのかと思っていたが、意外と出来るほうであったか。」
「いち、いちっ!うるさいのです!!探偵っ!」
「おや、君はあの子と違い君はまだ攻撃し続けるのかい?戦意喪失…と言ったところだが君にはまだギラつきが隠せてない、やはり『仕事熱心な子は愛を知らない』、私の好きな小説の一文だ。良かった。授業が受けられないからね、苦し紛れの小説が役に立ったね。」
なんなのだ!?この男、よく息が続く、社交ダンスのような礼儀のこもったステップで私の弓を翻弄する。こちらはもう体力もなくヘロヘロだと言うのに。
「須藤!!いつまでへこんでいる!お前も加勢しろ!!」
「……あぁ、極藤の兄貴、どうして…」
「須藤!!!」
「前ラーメン奢ってくれるって言ってたじゃないですか……俺の射撃訓練見てくれるって約束したじゃないですか!それに!お金稼いで!病気の妹さん治すって言ってたじゃないですかぁ!!」
「ほう、彼のような悪党にもそんな一面があったとは」
「お前ら正義の味方側はどうして平気な顔でなんでそんな酷いことが出来るんだぁ!!」
須藤は怒り心頭のまま探偵の方向へと走っていく、頭に浮き出た血管は自分の目的さへ忘れてただ目の前の敵を排除せよと、身体全体に命を送る。
「悪いね。君達や極藤君のような事情は知っている。でも、生憎僕は大勢の命の為なら子供やたった一人の病人でさえ嬲り殺せる。...そんな男を敵に回した君たちの運が悪かっただけの話だよ。」
その突進は遠藤と同じように軽くいなされ須藤は自分の足に足をひっかけ無様にもすっ転んでしまった。
「助手クンは……、なんと自分の放った一撃の反動に耐えられず倉庫を突き破り飛ばされてしまったのか」
「くそ!くそぉ!!見んじゃねぇ!!」
その時、恥を飲み込めきれなかったのか須藤は熟した林檎の果実のような真っ赤な顔を晒し銃口を向ける。
「なら、効果範囲外だ。」
「っ!待て!須藤なにか様子が!!」
――二兎食佳曰く、最初はそうゆう趣旨の子なのだと暖かい目で見ていた。そうゆう時期だと高を括っていた。
左目に巻かれたおびただしい包帯、だが痛がる様子やなにか抱えたような素振りは見せなかった。だからやはり暖かい目で見るしかなかった。
――工藤一心曰く、何故思いつかなかったのだろう。...と思った。この探偵が、我々3人を相手にして人形らしい武器を見せる素振りすらしなかったのは、そしてチラチラと二兎食佳の方向を見ていたのは。そこになにか意図があることを
「……君達は、今までどんな技術を持った相手にでも負けることのない、学園内最強の人形を持つ存在がどんな人間なのか考えなかったのかい…?」
――光った。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳が燦々と煌めいている。
私達は剥がれた包帯の下から出てきた"ソレ"を綺麗と勘違いしてしまったんだ。
「イ族。」
特別なことは何も起きなかった。ただ彼は私達の姿を見ただけ、だが胸には少しの不安が蝕んでいく、確実に何かが起きている。
「あれ?」
「!どうした!須藤!!」
「工藤、反応しないんだ。俺の!!薬銃丸が動かねぇんだ!!」
ゾワッと背筋が凍った気がした。
反応もなく、パタリと落ちる彼の人形を私はまるで死人を見るかのような目で見てしまったことが、何よりも怖かった。
「言っただろ?だから僕は希代の探偵だと。」
本当の意味で恐怖に落ちた気がした。
ぺたっと地べたに座り込み何かに乞うように、蜃気楼に包まれた彼は私達のような人ではなく"彼方"や"非常識"の存在の魂を奪っていく。
その冷たい目はまるで境界の向こうから私達の色ついた肌を見る亡霊のようで、今にでもそちらに引きづり壊れてしまいそうで。
「流石は眼鏡クンだね、気づくのが早い。どちらにせよこの学園で人形すら持っていないやつは殺されるだけ、丸投げな余命宣告をされたみたいだろう?」
「……っ!!」
弓を構える。舌の奥を噛み座り込み曲がった膝には力が入らない、なにか一矢報いようと探偵に狙いを定めただけなのかもしれない。
ただその蜃気楼は何か抵抗をとる訳でもなく制すように唇に人差し指を置いた。
――それは、死人に口なしと言わんばかりに静かな目をしていた。
随分、長くなってしまった。……そうだな、もう終わりにしよう。この決まりきっていたシナリオにも、もう……飽きたさ。
「――静かにね。」
――名前とは、それは圧倒的な存在感を放つ生徒達につけられた象徴の証。動物に表し生物としての1歩踏み出し、特異点と認められたもの達だけに着く存在証明。
その名は所属学び舎を持たず各学園を転々とする探偵のモノ。
圧倒的頭脳と戦闘力を持ち、数々の難事件を解いていった実績を持つ。
ただ"見る"という行為だけで彼方や非常識を殺してしまうという学園内最強の人形を持つ
朝配られる誰も取っていないような質素な新聞。
その見出しに書かれていた。シンプルであり、ただその存在証明へと繋がる単語。
『彼は幽霊だ。』
......暖かい、母親の腹の中のようだ。
子守唄や静かに揺れる揺り籠、懐かしく帰りたい居場所。この冷たい塀の中で静かに願った思い。
「……かあ、さん。」
「おや?助手クンまさかのホームシックかい?」
「んん、ん?」
聞きなれた甘ったるい声、自信と佐藤たっぷりの声色とそれにおんぶされている事実に目が覚める。
「なっ!!探偵さ……!」
「いい加減名前覚えてくれたまえ〜。探偵ではなく堀水だ、堀水茜」
その顔だけではなく、名前まで中性的なのか。と思ってしまったが口に出すのは辞めておこう。
「今回の件、申し訳なかった。あまりにも自分勝手だった。」
「なんで、堀水さんはなんで俺なんかにあんな仕事させたんですか?多分貴方なら今回のこと、難なくこなせたですよね?」
「……多分出来心だったんだと思う。助手になるための条件とか、わざわざ普通科から選ぶとかふざけたところもあったし、助手クンからしたら理不尽な話だ。死にかけて、その理由が1人の遊び心に巻き込まれたってだけなんだからね。」
ギュッと腕の力が強くなる。その暖かい背中の奥に冷たいものを感じとってしまう。
「でも、今回を通じて君にはこのまま私の助手になって欲しいと思ってしまった。」
「え?」
「反省していない、また理不尽に巻き込もうとする自分自身に吐き気がする。それでも、君という存在がいてくれるだけでこれからの私の人生に何かが起きたり、いつか君が必要になる日が来そうな気がするんだ。」
「堀水さん……。」
あの時とは何か違う。朧のような怖さは今の彼には無い。
ただ、今こう掴んでないとすぐに消えてしまいそうな朧のような寂しさがあった。
「お願いだ食佳君。このまま私の助手になってくれないか?」
ひとつ間を開けて僕は顔をあげる。
「……喜んで。」
「いいのかい。」
「喜んでと言っているでしょう。」
ぺちっと頭を軽く叩く。下からはいてっと可愛らしい声が戻ってきた。
夕日に照らされながら帰るのは少しいい気分がした。




