幽霊,第三症
「うわっ驚いた、何事〜?」
「いやぁ〜!すみません!間違えてお酒の瓶破裂させてしまって。蓋どこだ〜?」
「おーい、何やってんだよ。」
「すみません〜、未成年なもので」
「おぃッおぃッ、それを言うなら俺らも未成年☆」
静かな倉庫にどっと笑い声が広がる。酔いが回ってきたのだろう。
「注ぎますよ兄貴」
「おっ俺ももうそんな歳かー!」
危なかった、だが、やっとだ。3日目にしてようやく心を開いてくれた。さっきの会話から考えると、情報を聞き出すのはここだろう。
「というか先輩〜、さっき何の話をしていたのですか〜?」
「ん?あぁ、5日前の普通科のテロ事件あったろ?」
「ああありましたね!それがなにか?」
「あれな!ネットでは善行猪一点張りだけどな?あれ!俺らも関わってんのよ〜!」
「えぇ〜!!」
予想はしていたけどね。
「そういえば善行猪の方々は何方へ?まさか兄貴達残して逃げたとか……」
「いやいや中々可愛いこと言ってはくれているが、違ぇよ。あの人さんらはまた別の事件を起こそうと躍起になってんだ。次は和国文科でデケェことするってよ!」
「へぇ〜そりゃまた恐ろしいっすね〜」
「おう!お前も動くからな!4月の17日!空けとけよ〜」
いやはや、この数質問でここまでわかるとは最早この先輩尊敬の域まである。ありがとう馬鹿のままで生きててくれて。だが、そこが僕が慢心したキッカケになったのかもしれない。
(僕でも活躍出来るんだ。生憎こいつらは酔っている。3日も付き合ったんだ。洗いざらい吐かせてやる。)
「あの!先輩!今善行猪のメンバー達がどこにいるかって……!!」
「お前、俺らを舐めてるのか?」
後頭部に当てられた冷たい感触、それはそのドスの効いた声のせいかそれともその手に握る得物のせいか。
「ヒュっ……!」
「あ、兄貴!?」
「ウェ!?」
「お前らもなぁ、ベロベロなんだよ。俺らチンピラは名乗るだけで舐められる、だから誰よりも切磋琢磨"悪"磨かねぇといけねぇんだ。」
どうする?バレた?逃げる?後ろには銃口を当てられているんだぞ!?どうやって逃げるって言うんだ!!
「オメェもオメェで舐めてる、まるでベロベロ小芝居だ。スパイごっこか?まさか睨みっ子しに来たわけじゃねぇだろうな」
「……なんで」
「舐めまわすようにジロジロ見やがって、媚び売る時もそうだ、声色が高くなりすぎてる。今もそうだ!恐怖が隠しきれてねぇ!!ベビー級だ。」
その銃口穴から注ぎ込まれる殺意、鳥肌が立つ。
当たり前だ。運が良かったんだ。初心者がスパイをやったところでプロの目は誤魔化しきれない、死ぬ……。
-(*)
……なんでこんなことを引き受けたのか分からない、先生が可哀想に見えたから?探偵の背中がかっこよかったから?いや、違うんだ。なんだかんだで俺も人の役に立てるとか思い上がってただけなんだ。
中学の時は、朝起きれば靴の中にムカデが入ってたことがあったし、朝のホームルーム前は机の上の清掃時間だった気がする。きっかけは虐められた子を庇ったことから始まった。だから僕はその子にとってヒーローになれるのかもとか浮ついて、カッコつけた気でいて、だからあまりそこまでイジメは怖くなかった。だんだんと悪口を書かれることやロッカーになにか仕込まれることも無くなってきて、飽きられたんだと思った。
でもたった一文字だけ机から消えなかったものがある。毎日書かれていたし、朝早く来て消しても消えない、魔法の力が働いているとしか思えなくて、でもある日消えた。
そしてあの子が死んだ。助けた子だ。先生は有耶無耶話していたが、ざっくり言うと⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎によって死んだんだと思う。前普通科寮が騒がしかったのもそれが原因だろう。
気づいてしまったんだ。一番僕を憎んで、殺してやるとか、ふざけるなとか、そう僕に一番何かをぶつけていたのはあの子だった。
《偽善者》
《救った気でいやがって》
『……こんなに悪口...分かりやすかったけ?』
にっこり三日月口の仮面をつけて、ヒーロー気取り。その仮面がなにかも知らないでポーズを取って。
だからこうなった、先生に言って初めて机を変えてもらった。最悪の気分だった。何かが胃の中でぐちゃぐちゃになって喉を通って上がってきて、質量を含んで口から吐き出した。
その吐き出した何かが分からないままで無意識に生きていて、挙句暇だから等と責任を押し付けられて、今ここにいる。
偽善者でも、何かなせるとか……大人はかっこよかった眼鏡かけて頭良さそうだったり、子供より人一倍我慢強い。そんな人に頼られて、初めましての探偵もカッコよかった。ただ僕だけぽっとしない。
「動いたら撃つぞ、秒だ。分かったらいい加減ペロペロベロベロ舐めるな……。」
「……フゥー。」
「?」
「撃ってくれ。」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
道は踏み外したことが無かった、踏み外すキッカケが無かったからだ。だから人一倍非常識に踊らされる生徒達を外から見ることが出来た。だから知ってる非常識の"ルール"。
「ああ、じゃあなスパイもどき」
どれだけの悪だろうと本物の銃を手に入れるのは難しい、ではこの銃は?偽物ではない、ならこれは人形。その考えがあってるのなら
鈍い銃声音がこの小さな廃倉庫の中を駆け巡る。
「……。」
その音は鈍く重い、簡単に命を刈り取る音をしていた。
床は冷たく、これからの自分を示しているようで、どこか寂しかった。今頃額からは綺麗な紅が流れていることだろう。
言ノ葉を伝い頭を撃ち抜く、ああ、そうだな。空はいつも濁っていたな。見かけは晴天でも、その空の色が本当に晴れていた日は無かった。僕達がこの学園にいる限りこの空が晴れることは無いのだろう。真実とはいつも裏を読んでいるからだ。
全てを見て疑って、目を凝らしてみるよ見えるようなちっぽけな真実を僕らは常識と呼んでいるのだろう。
「い、いやおかしいだろ。銃だぞ。人殺しの道具だぞ!舐めてる!これは舐めすぎてる!!なんで、なんでお前ェ!!生きてんだよ!!」
「ああ、知らないよな。非常識だからな。」
その時、倉庫の扉が重い音を立てて開く。
土埃が軽い冬将軍のようになだれ込んで来る。巻上がった土埃のカーペットをゆっくりと歩いてくるその目出し帽に僕ははかとない嫌味と思い出で喉を奥を揺らす。
「驚いた。音が鳴った瞬間殺されたと思っていたが、生きていたとは、まさか人形なんかにそんな仕様があるだなんていやぁ、やはり非常識といえど取り扱い説明書は読んどかないとね。」
「いえ、僕もたまたま教えて貰ったルールです。それと痛いものは痛い。」
「スパイご苦労様、ドン引くほど下手だったがまさか情報をあそこまで抜けるとは文字通り間抜けで助かった。」
土埃とその、身体の境界は測れない。まるでそこにいないように見えてくる。
「こっちも驚いたさ、まさかこの坊ちゃんが"亡霊"サマの差し金とはな、ああ、俺も舐めてた。驚いた。だから殺す、ここに来た限り"特異点"サマだろうが殺すしかないのさ。」
「誓った通りさ!黄金に輝く天の梯子に問おう!!そしてこの場を決戦の場としてくれた奇跡に目一杯の感謝を、さぁ!見ていてくれ希代の助手クン!!ここからは僕が暴れよう!!」
ただそこにはヒーローがいた。いや、気がしただけだ。




