幽霊,第二症
ノーベル物理学賞を受賞した天才科学者、アルベルト・アインシュタインは言った。
『困難の中にも機会はある。』
困難という苦しい時、辛い時こそ最もの成長の機会であるという意味。
流石偉人様だな。簡単に言ってくれる
さて、話を変えよう。今俺は、その困難の中にいるのだ。
「おォいィ?新入リィィ、焼きそばパン買ってこいよアツアツのやつぅぅ。」
「何?舐めてんのぉ?お前仕事舐めてんのぉ?」
「アァ殺してェ!人、人をぉ殺させてくれェェェ!!!」
機会など、縁遠い地獄にいるのだ。
一体俺が何をしたって言うんだ。
-(*)
時は遡り1日前。
「何故僕が……?探せば他にいるでしょうに」
「探せも何も君を指名したのはそこの宮城教師だ。」
探偵はそこの背を向ける教師を指さす、と同時に僕の視線が宮城先生の背中を突き刺す。
背中に穴が開きそうになるほど見られては堪らない、宮城先生は二兎を手招きするのだった。
「はぁ?人選は適当!?」
「しぃー!声が大きい!!……元々彼の助手の条件は聞かされていたんだ。」
「何か問題でも?」
「はぁ〜、心して聞けよ。」
なんか長かった気がした。聞き終わった瞬間ドッと何かが湧いてくる。正味、探偵の条件というものはあまりにも高望みがすぎたのだ。
宮城先生が言っていたのは"36"の助手としての条件。
その中から選別して伝えると。
1.自分で戦えること
4.呼んだらすぐ来るような暇な人
16.お料理が美味い人
34.名前がワトソン
序盤は納得できた、助手であるもの危険は付き物自分の身を守れるように、ただ34番、あいつ適当に考えたろ。数埋めようとしやがって。
「だからだ。こうなったらということで先生の独断と偏見で常に暇で人形も戦える型のやつを探した結果お前しかいなかった。」
「わるぅござんしたねぇ暇で」
「いやこればっかりは感謝しかない。どうだ?このまま名前もワトソンに改名してみないか?」
「しませんし、しかもあの人ワトソン最低条件なのかよ。」
どれだけ助手をワトソンにしたいのか、いや探偵だからこそ底知れないワトソンへの執着とプライドがあるのか?
「ただ……」
「?」
「二兎、この件私は何がなんでもお前に引き受けて欲しいと思っている。」
「それはなんで、」
「ほら、お前授業は寝てばっかテストの点は見てられない、内申点を上げるチャンスだ。」
「ゔっ……、」
「それに、実は私は怖いのかもな」
はじめて見た。その凛々しい大人は目を細め弱めを初めて生徒に見せる。意外だったカッコイイ大人の顔はもっと……
「大人は武器を持てない、非常識の被害者にすらなれない傍観者なんだ。だから強い君たちを頼ってしまう。身代わりにしてしまう、ほんとに情けない」
「そんなこと……」
「そんな事ないぞ宮城教師。」
後ろを見る、職員室の扉は既に開いていた。少し、真面目な顔をした探偵がそこに立っていた。
「だから、私が今いるのだ。」
やはりだ。彼は各学部を象徴するワッペンを着けてない。
どこにも所属はしてなくて、だが生徒ということはわかる。
どこか洒落た気遣いなのだろう。唯一戦う力を持つ生徒だが、大人として、教師として代わりに戦ってくれなどと言えなかった。だからただの人形を持った人間の彼だけにはその思いをつづらに話せる。
「君は心から探偵なんだな。」
「……あぁ、そう誓ったからね。」
「分かった。助手になろう、僕の名前は二兎食佳だ。仕事を教えてくれ。」
「ああ食佳助手、君に最初の仕事を与えよう。」
-(*)
で、今に至る訳だが、何が起きているか分からない読者諸君に朗報だ。僕もナニガナンダカ……。
内容量満タンのビール瓶ケースをチンピラ先輩たちに運ぶ。ガシャンガシャンと音を立てまもなく僕の腰もガシャンガシャン行きそうな勢いだ。
「先輩、ビールここに置いておきますね。」
「おう、新人!威勢がいいなあ!」
「いいですね、仕事はキッチリと!」
「あぁ!人をぉ、殺してぇヨォォォ!!」
いやあの日から嫌な予感はしてたさ、ただもう一つの確信がその仕事を後押ししたお陰で。
彼の与えた初仕事、それは
『まずは善行猪の居場所を探らないと行けない。最後の目撃情報だと彼らはとある学部に移動していると聞いたが音沙汰なし、だから関わりある奴らから聞くしかない。つまりだ。』
――潜入捜査。
探偵はここら辺の顔が広いチンピラ一組二組潰せばいずれ出るなどと抜かしていたが
『いやまぁ、別にカチコんでもいいけど、相手が生き残る保証なんてどこにもないしね』
『今サラッとすげぇ怖いこと言った。』
『だったら生きてて気を抜いてるうちにゲロって欲しいなって、あ、忘れてた。それと僕はここら辺顔割れてるから潜入捜査一緒にできないから』
ということで近くのチンピラ集団のところで絶賛下働き中。サービスは無しよ♡
だが、今日で3日目、ここまで進展なし。少し言えば二の腕に筋肉が着いてきたくらいだ。
ここまで来ればかなりの長丁場になりそうだが、何とか話だけでも聞けないだろうか。その時だった。机を挟み宴会を開いていたチンピラ達からタメになりそうな話が聞こえた気がした。
「でさ〜!そん時のガキの顔ときたら!!」
「仕事として当たりでしたね。」
「うふふ、また、また殺してぇなぁ」
頬を赤らめ甘酸っぱい恋を抱いている少女のようだ。こいつ達は殺人に恋をしている……。
――静かに怒りを覚えた。
さぞかし楽しかったであろう。
新生活に胸焦がれ淡い期待に心踊らせた少年少女を潰すのは、その狂気とも呼べる笑顔で滲み散々と殺していったのだろう。
これが今の常識だと言うのか、それはなんと惨いものだと言うのだろう。ただそこに納得してしまっている自分にも恐怖心を抱いてしまう。
生憎、ここは普通科の敷地内の端の廃倉庫。誰も手をつけてないし、誰もいない。僕の手にはビール瓶1つ
今、"これ"を振り被れば少しは君達を楽に出来るだろうか。悪意に揺れ理不尽に殺された君たちに届くだろうか。
(ああ、もう黙ってくれ)
そして僕は――
バンッ!!!
炸裂音、どんなに足掻いても彼らの目は丸く驚いたように私を見るだろう。ああ、最悪だ、顔がベタベタ……。




